第2話
平民上がりとして今までで充分に貴族に疎まれていた私。
……そしてそんな私が、いくら短期間だといえ、契約者の側に居られるようになったことを貴族が快く思うわけがなかった。
たしかにその時すでにマルクスは生意気な契約者だと周囲の評判になっていた。
だがそれでもマルクスは腐っても契約者。
王族と伝手を持つのにこれ以上の人材はいない。
それに契約者であるマルクスは文句なしの美形であり、令嬢達からの人気も決して低くは無かったのだ。
「あら、平民如きがこの由緒正しき王宮を出入りしているとは」
「私達が王族の方々の失礼にならないように教育を施してあげましょう」
……そして、当然のごとく私に対する貴族のいじめは悪化した。
今までは精々出会い頭に嫌味を言われたり、裏で暴力を振るわれる程度だったのが、私を敵と認識したことで令嬢達は表立って私に暴力を振るうようになったのだ。
アルセラーンに助けを求められない私は逃げることもできずにあっさりと令嬢達の連れてきていた男達に拘束されて。
「なぁ、お前ら学習能力ないのか?」
「ま、マルクス様!?」
ーーー そして、その状況から私を助けてくれたのがマルクスだった。
その時のマルクスの顔に浮かんでいたのはいつもの子供っぽい生意気な笑みではなかった。
ただ怒りを押し殺したように無表情で。
「お前らはいつもいつも俺が側仕えを雇うたびに邪魔しに来やがって……」
……そしてその態度に、よりマルクスの怒りが表されていて、私を虐めようとしていた令嬢達は顔を青く染める。
「ち、違うのです!わ、私たちは全て貴方様のためにと」
そしてマルクスの機嫌を伺うためか、必死に言葉を重ね始める。
「失せろ」
……けれども、その令嬢達の態度に対するマルクスの返答はそれだけだった。
「お前が……」
その瞬間、私へと令嬢達は憎しみにこもった視線を寄越す。
それから令嬢達は逃げるようにその場から去っていた。
「え、えと……」
……けれども令嬢が離れていってからしばらく、私は何の反応を取ることもできなかった。
それ程までに、私にとってマルクスに救われたことは意外なことだったのだ。
だが、ここで無言であるのもまたおかしいと気づいた私は、マルクスへとお礼の言葉を口にしようとして。
「うえ!?」
……けれども、突然私の頭を撫で出したマルクスの態度に言葉を失った。
一瞬、私は反射的にマルクスから距離を取ろうとする。
「本当に、うまくいかねえな……」
「っ!」
……けれども、私の頭を撫でる時にマルクスが浮かべていたやるせない表情に気付いた時、私は呆然と立ち尽くすこととなった。