第19話
「ま、まだかな……」
王宮で国王を脅したその翌日。
私はすっかり着慣れたかつらと伊達眼鏡を着用して落ち着きのない様子でとある部屋の椅子に座っていた。
……その顔には昨日あれだけ大ごとを起こした同一人物だと信じられないような不安が浮かんでいる。
「……はぁ、あの坊主がお前を拒絶するわけないだろう。契約者であることを明かしても何の問題もないと……」
そして、その私の様子に黙って見ていられなくなったのか、アルセラーンが現れ、何事かを言おうとする。
「あ、アルセラーン出てこないでて言ったでしょう!」
「はぁ……」
けれども、そのアルセラーンの言葉を最後まで聞くことなく私は焦った様子で叫んだ。
アルセラーンは精霊なので特定の人間以外はは見るどころか感知することさえ出来ない。
「お、お願いだから早く戻って!」
だが、私の待っている人間は、その特定に入る存在でだからこそ、私はアルセラーンに急いで姿を消すように頼み込む。
するとアルセラーンは深々と溜息をついて姿を消した。
「このへたれめ」
「うるさい!」
……ただ、余計な一言だけは残していったが。
「もう……」
アルセラーンが去り、一人となった部屋の中私は疲れたように嘆息する。
……確かにアルセラーンの言う通り、彼は私がただの契約者だったら隠していたことを明らかにしても決して嫌わないかもしれない。
けれども、大精霊との契約者なんてことを黙っているのは幾ら彼でも許してくれないかもしれない。
それに、私は今までの彼との関係を気に入っていて、壊したくなかったのだ。
だから私は昨夜、国王に二つの要求を通した。
一つは大精霊の契約者が私であると言うことを隠すこと。
王族は私がサーマリアであることを知っているが、今までの変装の甲斐がありあれだけ脅したカールマン達以外私の正体を知る者はいない。
だから無用な騒ぎを避けるにも私の正体は隠す方が都合が良かったのだ。
ーーー そして、もう一つの要望はこの国に存在する、私を除いた二人の契約者の内1人、マルクス・アッカーストの側仕えとしてもらうことだった。
「もう、これで私はあの人と会うことを咎められることはなくなる……」
そこまで考えて、私はその口元に小さな笑みを浮かべた。
契約者マルクス。
彼はこの王国の中、最年少である13歳の契約者で。
ーーー 唯一貴族社会で嫌われていた私を疎まなかった存在だった。
「ふふ」
マルクスと会うことにもう気を使う必要が無くなったことが嬉しくて、私は思わず忍び笑いを漏らしてしまう。
「サーマリア!」
「っ!」
そして、記憶と変わらない声で扉が開かれたのはその瞬間のことだった。
一瞬、私は突然開いた扉に驚くも、次の瞬間目にした荒い息をつくマルクスの姿に微笑みを浮かべた。
あれだけこちらは不安で仕方なかったのに、どうやらマルクスは全然変わっていなかったらしい。
ーーー そしてそのことに隠しきれない喜びを覚えながら、私は口を開いた。
「ただいまです。マルクス」
「あぁ、おかえりだ。サーマリア」
これで一応一章はお終い予定です!色々と疑問があると思いますが、次回アルセラーン視点の解説を幕間として投稿予定です!