第1話
「あの日から、もう五年ですか」
ふと母の最後、あの決意の日を思い出し私はぽつりと言葉をこぼす。
その記憶は酷く鮮明に頭に残っていて、そしてだからこそ私はあの時からもうこんなに年月が経っていたのかと、意外に思ったのだ。
「とうとうこの日が……」
けれども次の瞬間には、胸から溢れ出る喜びで私の頭からその感慨は消えていた。
そう、今日は私があれだけ待ち望んでいた日なのだから。
「これで私はもう誰かのいいなりになる必要なんてない………」
満点の星空が広がる中、私は顔に隠しきれない喜色を滲ませた笑みを浮かべる。
ーーーこの日、私サーマリアは待ちに待った15歳の誕生日を迎えた。
◇◆◇
私の誕生日ということで、屋敷の広場では細やかながら生誕祭が行われていた。
それは、仮にも伯爵令嬢の誕生を祝うにはあまりにもささやかなものではあったが、しかし今の私にはそんなことは全く気にならなかった。
それ程までに私は上機嫌だったのだ。
私の誕生祭でありながら、この場に来る人間は一切お祝いを言おうとはせず、代わりに皮肉を告げて去っていく。
それはもうお祝いではなく、罰なんではないだろうか、と去年までは考えていたのだが、今年はそれすらも気にならなかった。
ーーー 何せ、あと少しでこの窮屈な貴族生活もおしまいなのだから。
「なんだか今日は何が起きても許せる気がするわ」
だから私はかつてない微笑みとともにそんな言葉を漏らす。
そしてスキップをしそうな勢いで広場にあるやたら不味いご飯を取りに行こうとして。
「サーマリアここにいたのか」
「っ!か、カラン様!」
………しかし、突然現れた婚約者の伯爵令息、カラン・ローゼリアの姿に足を止めることとなった。
正直私はカランのことが嫌いだ。
ナルシストである上、カランは私のことを毛嫌いしているのだから。
そしてカランの姿を見て、今まで浮かれていた私の心は沈んでいく。
今更ながら、貴族であることを辞めようとするならばこの男との婚約も破棄しなければならないことに気づいたのだ。
けれども、カランはプライドだけは高くこちらから婚約破棄をすれば面倒になることこの上ない。
「はぁ……」
そのことを考えた私はさらに心が沈むのを感じる。
「丁度いい。ここでお前にも先程決まったあることを教えてやろう」
けれども、そんな私とは対照的な笑みカランは顔を浮かべて口を開いた。
「サーマリア!私はお前との婚約を解消することとなった」
「えっ、」
ーーー その瞬間、私初めてカランに感謝を抱くこととなった。