第12話
目の前から歩いて来た男、彼は第二王子アレス。
契約者であるかもしれないとして王宮に通わされていた時、散々私を地味で平民だと馬鹿にしていた男だった。
正直、かなり粘着質な男で出来れば関わりたく無いと考えた私は密かに顔を王子から背ける。
今の私はカツラも眼鏡も取っているのでバレることはないはず、と心の中で自分を安心させるようにつぶやく。
「は?お前がサーマリアか?」
……けれども、何故か王子はあっさりと私の正体を見破り私の方へと駆け寄って来た。
その瞬間、私の唇は隠しようのないほど歪む。
地味な格好をした私は決して王子には好かれておらず、それどころか嫌われていた。
なのに目の前のクソ王子は私を無視するどころか、執拗に事あるごとに嫌がらせをするようになったのだ。
だから何としてでも自分の正体を勘付かれたくなかったのに。
「………どうやら、今回精霊達は契約者の正体まで国王が分かるほど騒いでいるらしいな」
そしてそんな私の耳にアルセラーンが補足するようにそう囁く。
「はぁ……」
確かに大精霊が人間界に顕現することなどほとんどなく、だからこそかなりの騒ぎを精霊達がすることは私も理解していた。
けれども、個人名まで特定されると思っていなかった私は思わず溜息を漏らす。
どうやら王子には私が連れている精霊、アルセラーンの存在によって私がサーマリアであることに気づいたらしい。
「そうか、サーマリアお前自分の容姿を地味に偽っていたのか………そ、そうだなそれなら……」
そしてその瞬間、王子が何らかを私に告げ始める。
………だが、女好きと言われる王子が今の私を見て何を言おうとしているのか何て理解できない訳が無かった。
だから私は王子を無視して、案内先に案内するよう文官に無言で告げる。
一瞬、その私の態度に文官が驚愕で目を見開くが、僅かに漏れ出す殺気に渋々私を案内して王宮の奥へと歩き出す。
「お前を私の妾……て、待て!」
そして私は王子を後に王宮の奥、王座の間に辿りついた。