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青山君ってなんなんだろう

作者: 雨宮月花

[1]席替え



「明日、席替えするぞー。」


 先生がわたしたちの席替えしろという要求にやっとのことで応えてくれたのがつい昨日の話だった。この先生、面倒くさがり屋で有名で、席替えだってこうしてわたしたち生徒が声をあげないと2カ月、3カ月とずっと同じ席になってしまう。優しいおじさん先生で好きなんだけどこういうところは直してほしいな。夏休みが終わってもう、1カ月も経ってしまっているのだから。

 

「おーい、夏帆、今日は占い良いのか?」


 そんな、お父さんの声にふと我にかえる。時計は7時59分を指している。まずい。クラスで見ていない人のほうが少ない占いのコーナー。見ておかないと、流行に乗り遅れてしまう。テレビの電源スイッチをいれて画面が映るまでの間、わたしはリモコンのチャンネルボタンを連打する。

 

「残念。運勢最下位なのは天秤座のあなた。ラッキーアイテムは四葉のクローバー。探してみてくださいね。それでは、良い一日をー。」


 ああ、見損ねた。わたし、天秤座じゃないよ。何位だったんだろう。うう。これも、面倒くさがりの先生のせいだ。くっそー。

 わたしは、腹立たしげにテレビを消してドタドタと玄関へ向かう。


「おいおい、夏帆そのまま、つけておいてくれよ。ニュースをだな。」


 パンを頬張っているお父さんの声が聞こえた気もするが聞こえないふり。すこしばかり虫の居所が悪いのだ。玄関においてあるスクールバッグを片手にひっ捕まえて、ドアノブをつかんで扉を思いっきり開け放つ。ふんわりと、金木犀の香りがした。



[2]青山君



「青山君かっこいいよねー。」


 クラスの女子たちがそんな風に言い始めたのはいつからだろう。体育祭の実行委員でクラスを引っ張り始めたここ一カ月?それとも、5月の新入生歓迎球技大会で中1なのに上級生チームをバッタバッタと倒していった頃?クラスではそんな青山君を巡る争奪戦が行われているらしかった。別にわたしは興味ないんだけどね。ただ彼は今月の誕生日にどれだけのプレゼントをもらうことになるのだろう。そこだけは少し興味があった。


「どうか、青山君だけは隣には来ませんようにー。」


 席替えの直前、そんな風に祈るわたしはどうもおかしいらしい。それを聞いた親友の友子にはプッと吹き出されてしまった。


「夏帆さー。あんまり、大声でそんなこと言うとあそこら辺の人たちに怒られちゃうよー。」


 わたしもそうだけど、あまりに大きな声で友子も笑うものだから、今、友子の言うあそこら辺の人たちがこっちをチラッと見た気がした。


「わたしは関係ないし良いの。面倒くさい争奪戦の人たちになんか関わりたくないし。友子もでしょ。」


 少し声を落として話し出すと、友子もそれに合わせてくれた。


「まーねー。男選ぶなら、完璧そうなタイプより、どこか抜けてる人のほうがいいわー。」


「ふーん。よくわかんないけど。うーん、ひとし君とか?」


「いや、ないわー。なんでそのチョイス。いや、ないわー。」


 また、大声で笑いだす。すると、友子の頭上にチョップが飛んできた。


「イタッ。」


 とっても、軽いチョップだったのに大げさにのけ反る友子。


「うるさいぞー、今しゃべるとか、いや、ないわー。」


 先生がものまねをしながら戻っていく。わたしの席の周りからはクスクスという笑い声。先生のこういうところは好き。教卓を見ると前でクラス委員長が何かしゃべろうとしているところだった。


「席替えなんですのよ。どうやってやりましょうか。」


「えっ、自由でいいんじゃね。なあ。自由。」


 委員長の問いかけにクラスのやんちゃなグループの男子たちが口々にそう言うけれど、先生が許すわけがなかった。結局、いつもの通り、くじびきで決めることになった。順番は出席番号順。テストを返すときみたいでわたしはなんか嫌だった。

 くじの準備が整うまで手持無沙汰にしていたわたしは、頬杖をついて準備の様子をぼーっと眺めることにした。へー、委員長って渋いメモ帳もってるんだなー。なんて心の中で思う。なんとなく、彼女の好みに合うもののようには思えなかった。

 色々な柄があるメモ用紙を1枚を4つに切って重ねていく委員長。そして番号を書いて、中が見えないように折りたたんで教卓の上に置いていく。

 先生はというと、黒板に座席の並びの図を書いて、番号を廊下側の前から後ろに向かって1、2、3、とふっていた。教室の窓側最後尾までふって一仕事終えた先生は椅子にのしっと腰掛ける。


「夏帆は選べるならどこがいい?」


 友子が横の席からコソコソと声をかけてきた。


「青山君の隣以外。」


「いや、まあ、そうだけどさー、ちがくて。」


「そうだなー。別にどこでもなー。」


 一番前でもそんな気にしない。ただ周りにだれがいるかという点はとても重要だ。


「夢がないねー夢が。ずばり、19番。中央の列の一番後ろで隣がいない。つまり、授業中自由なのだよ。」


 友子さん、こんなことで夢を語られても困ってしまうのだけど。まあ、頑張ってひいてくれば良い。狙った席をひきあてるのはかなり難易度が高いものだ。


「くじできましたのよ。出席番号順に来てくださいませ。」


 委員長がくじを作り終えて声をかける。わたしは謎の緊張感につつまれたまま席を立ちあがる。なんせわたしは出席番号1番相沢夏帆なのだから。テスト返しだって、みんなは心の準備とかしてるんだろうけど、わたしにはそんな時間がない。そういう意味じゃこの苗字のわたしはいつも損だと思ってしまう。

 どきどきしながら、教卓の前に立ち、色とりどりのメモ用紙で書かれたくじを睨みつける。37枚のうちどれをひいても同じだ。わたしは適当に一枚をとって取り上げる。


「31。」


 一番後ろだ。友子が喜びそうだな、なんて思う。さらに窓側から2列目。なるほど、暖房が近くてポカポカしそう。これからの季節に良さそうだった。先生にそう伝えると、黒板に書き込む。ふと委員長と目が合った。少し嫌な顔をされた気がした。もしかして、あったかい席がいいのかなー。なんて心の中で思いながら席に戻ろうと教卓を離れる。

 その戻り際、例の青山君とすれ違った。そう、出席番号2番なのだ。次にひくのは彼だ。


「左隣だけど、よろしくな。」


すれ違いざま、誰にも聞こえないような声で青山君はわたしの耳にそうささやいた。



[3]委員長



「おーい、夏帆、夏帆ったら。掃除なかったんだから疲れてないだろー。おーい。」


下校途中に友子が呼びかける。


「もう、うるさい。聞こえてるよ。」


「じゃー返事してよー。なんでそんなに上の空なのさ。」


 もうあれから、ずっと考えている。そう、あのわたしの隣をひく発言のあと見事に青山君は引き当てたのだった。彼は超能力者か、霊能者か。


「うーん。青山君ってなんなのかなーって。」


「は?」


 そのまま友子に席替えの時のことを話したけれど、偶然でしょ。外してたらむっちゃ面白い、と笑われた。


「でも、あのときわたしが1枚ひいて、残りは36枚であの隣の席の1枚を当てるなんて普通はできないよ。」


「隣は右と左の2つあるから2枚が当たりじゃん。」


「左隣って言ってきたもん。絶対偶然じゃないって。」


「夏帆ー、簡単な話だー。聞いてこい。青山に。それで解決。」


 友子は名案だとばかりに明るくそう言うけれど残念ながらもうしている。教えてくれないのだ。ただ一言言うだけなのだ。


「占い当たってたって。」


「は?何それ?」


「でしょー。訳わかんない。」


「まあ別に良いじゃん。ほら、手品だって種が分ったら面白くないよー。」


「これは違うの。いいもん、わたし一人で調べるから。」


「はいはい。がんばれよー。」


 わたしは、何を躍起になっているのか自分でもよくわからないけれど、真相にたどりつかないと負けたような気がしてしまう。クラスの女子たちにちやほやされている青山君に少し苛立っているだけなのかもしれない。


「あ、おーい、委員長ー。」


 急に、友子が大声をあげる。友子の目線の先を追っていくと道路を挟んだ少し右前で委員長が声に反応して振り返るのが見えた。友子が駆け寄っていく。そして何か話をしていると思ったら二人してわたしの元へ帰ってくる。


「えっと、相沢さん、話というのはなんですの?」


 委員長がわたしに聞いてくるが、寝耳に水だ。困って友子に視線を投げる。


「ほら、聞き込みだよ。よくドラマの探偵がやってるだろ。な?」


 そんなことを言われても、何を聞けばいいのかさっぱりだ。わたしがおどおどしていると友子がたまらず口を開いた。


「委員長ー、昨日の席替えのことなんだよ。」


「あーあれ。席よかったですね、相沢さん。」


 いやみったらしく言う委員長。そう、この人も青山君のことを気にしている一人だ。つまり、青山君の隣をひいたわたしを目の敵にしているのだ。面倒くさい。適当にお茶を濁そうかな。


「あー後ろだし、あったかそうな席でいいよねー。」


「まったくもって、そうじゃないんですけど。まあいいですの。それで、席替えのなんの話がしたいんです?」


 委員長がツンツンとしゃべり出した。敵意むき出しじゃないか。


「いや、ほら、なんというか。」


「あのくじイカサマがなかったかなって。」


 戸惑っているわたしの横でスパーンと友子が核心をついてくれる。こういう時は頼もしい。


「イカサマ?まさか。ある訳ないじゃないですの。」


「だよなー。だってよ、夏帆。」


 友子は簡単にそういうけどわたしはどうにも信じられなかった。


「誰かの席を事前に決めてたりとかはなかった?」


「そんなこと。」


 まあ、確かに、青山君はそういうことをする人とは思えない。でも、普通にくじをひいたとも思えない。


「もう、そういう、失礼なことを聞くんでしたら、私もう行きますわ。」


「あー、待って、一つだけ。」


 委員長さんが何?と少し不快な様子でわたしを睨む。思わず引き留めてしまったことに後悔するが後にはひけない。


「くじの時に使ってたメモ帳ってさ。んー、なんというか、えっと、おしゃれだよね。」


 渋いよねえ、と言いそうになったけれどぐっとこらえた。


「相沢さん。分かりますか。お目が高いですわ。青山君が隣で残念がっている人の発言とは思えませんわ。」


 げっ。席替えの前に友子と話してた会話の内容聞かれてるよ。怒ってるなあ、これ。


「これは、青山君とおそろいのものですわ。それに柄が色々ありますの。」


 なるほど、委員長の趣味に合わない理由に合点がいった。


「ふーん、色んな柄があるんだー。」


「ふふふ。見てみます?」


 そう言うと、得意げにカバンから例のメモ帳を引っ張り出して、手渡してくれる。


「えっ、渋い。まじで?委員長。」


 そんな友子の一言で、委員長は激怒している。友子は馬鹿だなあ、と思いつつメモ帳をまじまじと見てみる。渋いこと以外、別に変ったところはない。確かに色々な柄があるなあってくらいだ。というかこれは。


「これ、同じ柄が一つもないんだね。」


「そうですのよ。そうなのです。よくお分かりになりましたね。そこがいいのですよ。というのに、こっちの方というのは、もう。」


 わたしに好意を向けながら、友子にプリプリしている委員長さん。


「だって、趣味微妙じゃん。」


「もう、この人と一緒にいるとイライラしますわ。私はこれで。」


 そう言って、わたしの手からメモ帳をひったくると先にずんずんと歩いて行ってしまった。


「なんだよ、あの委員長。むかつくぜー。」


「まあ、友子は人の趣味には口出さない方がいいと思うよ。」


 そのまま、委員長のことをうだうだ言っている友子の話を適当に聞き流しながら、わたしはくじの、からくりを考えることにする。

 いろいろな柄のくじの用紙。うーん。あんまりヒントにならない気がする。でも、そういえば、青山君は何と言っていただろう。占いが当たっていたと言っていたっけ。占いと言えば、今朝わたしが見逃した番組のことだろう。クラスのほとんどの人が見ていていつも話題にのぼるんだもの。


「おーい、夏帆さーん。話聞いてますかー。おーい。」


「ねえ、友子、青山君の誕生日って今月のいつだっけ?」


「なんだよ、藪から棒に。もう。なんだ?夏帆も誕生日プレゼントやるのか?」


「ちがうよー。やる訳ないじゃん。」


「だよなー。んーと、来週だって、好きな連中は騒いでたぞ。」


 ってことは、10月の半ばくらいだから、って、結局、何座なんだろう?帰ったらインターネットで調べてみよう。



[4]推理



 わたしは考え事をするとき、いつも長風呂に入る。というか、結果的に長い間入っているだけなのだけど。

 帰って調べてみると、多分、青山君は天秤座らしいということが分かった。そして、あの日は12位。最下位だ。ほとんど見逃してしまったけれど、そこだけは見ていたから覚えている。


「つまり、なにか!わたしの隣が嫌だったけどひいてしまって最悪な運勢ってこと?」


「おーい、夏帆、どうした?大きな声がしたぞ?」


思わず、風呂場で叫んでしまった。その大声を心配したお父さんが声をかけてくる。なんでもない、と返事をして、ブクブクと湯船につかる。そうじゃない。落ち着け、わたし。そう、ラッキーアイテムだ。確か、なんだっけ。そう、四葉のクローバー。って全然関係ないじゃない。

 何か大きな発見をしたような気がしたけれど、そうでもなくてがっかりする。うーん。分らない。こういう時は一旦、整理してみよう。

 四葉のクローバー。色々な柄のメモ用紙。あとは、わたしの隣を引いた。うーん。ちょっと待って。ちょっと待てよ。誰も急かす人はいないのだけれど、なんて野暮なツッコミを自分に入れつつ呟く。


「彼が引いたくじの柄は四葉のクローバー?」


 これなら、青山君の発言とつじつまが合う。ん、合うのか?あの席が良かったんだろうか?まあいいや。ここは、そうだとしよう。ってことは四葉のクローバーの柄をひくとあの席になることを知っていた?


「きっとそうだ。」


 じゃあ、どうして知っていたんだろう。やっぱりイカサマ?そんなことをするようには見えないけどな。でも、そうじゃなきゃ説明がつかないよね。

 誰かが、ううん、ここはくじを作った委員長だろうな。彼女が青山君に頼まれてあの席が四葉のクローバー柄のくじになるように作ったんだ。青山君は2番目にくじを引くんだから、わたしがそれをひく確率はほぼない。だから安心して、クローバー柄がめじるしになっているあの席のくじを選べたんだ。

なんだ、簡単な話じゃないか。なるほど、これで、納得がいった。くじを引いた直後に委員長と目が合った時に彼女が嫌な顔をしたのもそうだ。きっと、彼女も青山君の隣の席のくじに印でもつけていたのだろう。それをわたしが引いてしまって、あんな顔になったんだろう。


「あー、わたしってすごい!」


 気分よくお風呂を上がる。そのままリビングに戻ると、お父さんが、何がすごいんだ?と聞いてきて恥ずかしかった。



[5]真相①



「青山君がそんなイカサマじみたこと頼んで来る訳がありませんのよ。頼んでくるような人なら見損ないます。」


 翌日の朝の出席を取る前、委員長にわたしの推理を聞かせてみるとこんな風に言われた。正論だった。本当に青山君はこのようなことをする人ではないのだ。それに、わたしの推理には大きな穴があった。


「大体、おかしいですわ。くじで席替えをすると決めたあと、わたしは青山君と話しておりませんわ。どうして、クローバーがあの席だと分かるのです?目印を伝える機会もなかったのですよ。」


 確かにそうなのだ。うーん。謎だ。分からない。


「そ、そうだよね。ごめんね。なんか、委員長のこと悪く言っちゃって。」


「ええ。まあ。うーん。そうですわね。そんな悲しそうな顔なさらないでください。ええ、まあ、半分は当たってはいるのですよ。」


「え?」


 半分、当たっているって?


「クローバーひくことを知っていたのは事実ですわよ。ついでに隣の席がどのくじか確認して印もつけておりましたわ。ま、あなたが引いちゃいましたけど。」


「どうしてクローバーって分かるの?」


「簡単なことですのよ。わたしが青山君の星座、その日の運勢、その他諸々を把握していないとも?」


 その他、諸々がどこまで含まれているのか気になるところだが、なるほど確かに簡単だ。青山君のラッキーアイテムが四葉のクローバーだと分かっていればそりゃ彼がそれを引く確率は断然高い。まあ確率でしかないから確実ではないんですけれどね、と委員長は続けた。

 

「おはよーおはよー、夏帆。それと、あと、委員長。元気かいねー。」


「でましたわね。ふんですわ。さっさとどっか行くかしら。」


「あはは、おはよう友子。」


「委員長、怒るなってー。な?仲直りー。」


「来るな、ですわ。」


 友子の押し売りに委員長がげんなりしているのを見ながらわたしはもう一度考え直すことにする。問題なのはそう、クローバーがなぜあの席だと分かったのかということだけど、うーん。分からない。


「相沢さん。何かすごい顔をされてますわよ。どうされたのかしら?」


 友子の押し売りを無視して、委員長が声をかけてくる。別に話しても問題ないものね。実はね、とわたしは昨日起こった不思議なことを彼女に話した。


「整理すると、青山君がクジをひく前に相澤さんに左隣を当てると言ったんですのね。そして教卓の前にきて、そして、クジを選ぶ。この時、ラッキーアイテムの四つ葉のクローバーがあるのは分かるけれど、それが、相澤さんの左隣の番号かどうかなんて、分かるわけがない。そういうことですわね?」


「そうなの。」


「ちなみに、引いた番号は37ですの。」


「よく覚えてんな。委員長。」


 感心する友子。わたしも驚きだ。


「当然、青山君のことですから、と言いたいところですが。考えれば簡単ですのよ。」


「考えれば、分かる?」


「先生は番号を廊下側の前から順番にふっていったんですの。ってことは、あそこの窓側の最後尾は最後の番号。つまり、37ですのよ。」


 確かにそうだった。


「ってことはよー。引く前から青山はクローバーが、37って分かってたんだな。すげー。」


「どうして、分かったのかが謎なんだけどね。」


 首を3人してかしげる。どうしてもわからない。そうしていると、委員長がポンと手を叩く。


「そうですわ。もう一度やりましょう。」


「え?」


 今度は首を2人がかしげた。


「再現ですのよ。もう一度事件現場を再現するのですよ。」


 委員長が提案してくれる。


「なるほどー。いい考えだな。よく出来た子だなー。よしよし。」


「撫でるな、かしら。」



[6]真相②



 あれから、すぐ出席を取ることになったので再現はお昼休みにすることになった。


「まずは、1枚を4つに切ってそれから順番に重ねるのです。」


「それから白い面に番号をふって、柄のついてる方が見えるように4つ折りに畳んで、教卓の上にランダムで並べる。」


「んー。これで、引くんだろー?どれがどの番号かなんてわかんないぞ。これ。」


 引いた番号は37。このなかからその番号を引くなんて難しすぎる。っていうか無理。何か目印があるはずなんだ。わたしは1枚1枚開けて37のくじを探すことにする。


「あった。」


 くじの柄は、クローバーではない。当然だ。同じ柄のないあのメモ帳を使っているのだから。クローバー柄のメモ帳はもう使ってしまっているのだからここにはない。わたしは、その37と書かれたメモ用紙をよく観察する。なんの変わったところもない。なんの変哲もない。そのまま、教卓の上のくじと見比べてみる。あれ?なんとなく?なるほど。そうか。そういうことか。


「ふっふっふ。」


「ど、どうした夏帆?怖いぞ。」


 若干、友子にひかれてしまった。


「分かってしまったのだよ。ワトソン君。」


「ホームズごっこはいいから早く答えを言うかしら。」


 はしゃいでいたら、委員長に呆れられてしまった。


「わかったよ。いい?くじの作り方に問題があったの。」


「作り方に問題がありますの?」


「そう、まずその前に算数の問題ね。友子、くじを作るのにメモ用紙は何枚使った?」


「そりゃー、クラスは37人で4等分するんだから、37を4で割って、9余り1だから9枚?」


「違いますわよ。9枚では1から36までしか数字が書けませんわ。1枚多い10枚ですの。」


 委員長の指摘にそうでした、といわんばかりに友子はてへっと舌を出す。


「その通り。まず10枚、メモ用紙をちぎって、4等分して順番に重ねると40枚のくじの紙の束が出来るの。それで、この束横からよく見てほしいんだけど。」


「おー、きれいだな。」


「そうですわね。というより、同じ柄のくじの用紙が固まって並んでいる?」


「そう、例えば、星柄のメモ用紙を最初に4等分して机に重ねておく。次にハート柄のメモ用紙を4等分してその上に4枚重ねる。こうやっていくと4枚ずつ同じ種類の柄が続いていく。」


「つまり最後まで重ねると、上から4枚づつ、同じ種類の柄のくじの紙が続くということなのですね。」


挿絵(By みてみん)


「そう。それで委員長はさっき上から順番に数字を1、2、3、と言う風にふっていった。委員長じゃなくても番号を振る時、大抵のひとは1からふるだろうね。」


「まーそうだろうな。」


「それを青山君もそうだと予想した。するとどうなるかというと、1から4、5から8はそれぞれ同じ種類の柄になる。この規則でいくと、37から40が同じ柄。だけど、37人のクラスだから38から40の3枚は必要ない。」


「ということは、37が書かれたくじの柄、つまりあの日はクローバー柄がただ1枚しか教卓の上にはないということなのですね。うーん。確かにそうでしたわ。」


 そう、クローバー柄が1枚しかなかったからこそ、委員長は青山君が37を引くと予想して、隣の番号のくじ1枚だけに目印をつければ良いだけだったのだ。もし、ちぎったメモ用紙の順番が違えば教卓の上に4枚のクローバー柄のくじがあったかもしれないのだ。


「逆にね、クローバー以外の柄のメモ用紙は教卓の上に4枚ずつあるの。青山君が引いたのは2番目。ってことは、被ってない柄のくじ、つまり四葉のクローバー柄を引けば簡単に37を引けるの。委員長のメモ帳青山君とおそろいだって言ってたから、このメモ帳に同じ柄のメモ用紙がないことは知っていただろうしね。」


「でも、1枚しかない柄をすぐ見つけだせるのかしら?だって、10種類も柄があるのですのよ。こうして、教卓の上のくじをぐちゃぐちゃにしたら、どれが被りのない柄のくじかわからないんじゃないですの?」


 そこは、確かに悩みどころだった。でも簡単な話だったのだ。


「そうね。ところで、委員長は作る時に余った3枚のくじの紙はどこやったの?」


「え?関係ありますの?それは?そうですのね、もういらないから、ゴミ箱に。ってああ。そうなのですね。そうなのですね。なるほど。青山君はそれを見たのですね。」


「ゴミ箱に捨てられたくじの柄と37が書かれたくじの柄とが一致するの。ゴミ箱に捨てられた余ったクローバー柄の用紙を見て四葉のクローバーが37だと分かった。そして、それを引くだけ。」


挿絵(By みてみん)


「あーやっぱり青山君。素晴らしいのかしら。なんという洞察力。素晴らしいのかしら。」


 委員長がべた褒めしていて、いつもなら気持ち悪く思っているのだろうけれど、このことに限っては同感だった。こんなことを思いついてしまう青山君ってなんなんだろう。



[7]四葉のクローバー



 わたしは、この出席番号が嫌いだ。


「日誌取ってきたー。この前書いたから、今日はお前な。」


 青山君がそう、声をかけてくる。面倒なことに日直が出席番号順に2人づつなんてことになってるから、彼と一緒になることがあるのだ。別に彼が嫌いなわけじゃない。女子たちの視線が面倒すぎる。


「はいはい。書きますよー、と。」


 わたしはそっけなく日誌を受け取る。

 苦心して真相を突き止めた後、青山君にもその内容を話してみた。へー分かったの?くらいの反応で少しイラッとしたけどね。ただ、話した後、また謎が出てきた。


「ねえ、青山君、前の席替えの時、占い当たったって言ってたけど、どの辺が当たったの?」


「え?なんで?」


「だって、四葉のクローバーがラッキーアイテムで、その柄のくじが私の隣の席だったんだよね。なんか、あの席になると良いことでもあるの?」


 すると青山君が少し困った表情を見せた末に口を開く。


「そうだな。お前の隣が嫌なのにひいちゃって運勢最下位大当たりってね。」


「何それ。ひどい。わたしも隣、嫌だったよ!もう。」


 このときは口げんかでうやむやになってしまったけど、後でよくよく考えると、嫌ならそのくじ以外を引けば良かったんだよなあ、なんて思う。本当に青山君は不思議だ。

お読みいただきありがとうございます。

学校の席替えでくじびきはかなりオーソドックスなものだと思います。この席当てたいなあ、なんてよくありますよね。好きな子の隣はもちろん、内職したいから後ろのほうでとか(教育実習で意外と後ろのほうも見えるなあ、何て思ったりしましたが……)

推理ものは一作目ですがトリックを考えるときが、何か好きな子にいたずらを仕掛けるような感覚で面白いですね。また、チャレンジしたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イケメンが謙虚であるところがいい [一言] 私だったら、委員長を策士にして 「ふっふっふ。青山くん、クローバーをとったわね?これでクラス内で混乱が起きないわ!だって隣は青山くんに興味がな…
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