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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

予定調和の魔王様

作者: ヤマガム

年末年始のフワフワした感覚で書いたものですので、いつも以上によく解らない内容になってます。

しかも中途半端な所で終わっている感じもします。

ご了承を。

ここはとある世界の絶海の孤島。

荒れた海は船で訪れる事を拒み、荒れ狂う暴風は空飛ぶ魔道具を容易に弾き飛ばす。

ここに訪れる事が出来る唯一の方法は定められた聖なるアイテムを、勇者が使用した時のみ。


そんな絶海の孤島の中心にあるのは魔王城。

その最上階で頭にヤギの様な角が生えた男と、まだあどけなさの残る少年とその仲間達が死力を尽くし争っていた。

俗に言う、勇者と魔王の最終決戦、しかもそろそろクライマックスの様だ。


---これで終わりだ、魔王!

---ぐぁぁぁ!

---やっ、やったぞ!! ついに魔王を倒した!!

---勇者よ、そしてその仲間たちよ……見事であった。 だが吾輩は死ぬ訳ではない……

---何っ!

---人に欲望がある限り、何度でも蘇ってみせる

---ふざけるな! 国、人種、信じる神を超え手を取り合った我々人間が、再び貴様を蘇らせる事などありえない!!

---そうか、ならばつかの間であろうその平和を、精々堪能する事だな


どこかで聞いた事がありそうな捨て台詞を吐き、仰向けに魔王が倒れると空一面に覆っていた黒い雲が晴れ、魔王城に光が差し込むと城が振動し始める。

何処の世界にでもよくある、魔王がやられると城も崩壊すると言うお決まりなギミックが発動する。


---勇者殿、城が崩れますぞっ

---移転の魔法陣を展開した、早くこちらに来るんじゃ。 


体中に大怪我を負っている筋肉質な戦士が勇者に現状を伝え、ほぼ同じようなタイミングで白髪に顎髭の賢者が杖をかざすと、目の前に魔法陣が広がる。


---ああ、直ぐに行く


返事をした勇者が周りを見回し、戦士と賢者以外の仲間を探す。

直ぐに戦士程の怪我では無いか至る所から血を流しているダークエルフの女魔法剣士と、彼女の肩を借りなんとか立っている修道女の様な服装の僧侶が目入る。


---二人とも、無事だったか!!

---私は大丈夫ですが、魔法剣士さんが……

---この程度では問題無い。 が、流石にこれ以上の戦闘の継続は厳しい


弱々しくもしっかりとした口調で話す二人の仲間を見た勇者は胸をなでおろし、魔法剣士の反対側に回ると僧侶の腕を肩に回し、賢者の作った魔法陣の方へ向かう。


---おお、皆よく無事であったな。 本来なら手当を優先したいところじゃが、今話ここから逃げる方が先じゃ

---ああ、分かっているさ

---よし、発動するぞっ『移転』!!


賢者が杖を大きく振りかざすと魔法陣の中に光が満ち、その光が勇者一行を覆い隠す。

そして数秒後に光が目も眩むほどの強さになり、勇者達が冒険を開始した始まりの街へ帰っていく。


後に残ったのは、魔法が発動した後特有の光の残滓と魔王の死体。

そして、崩落の始まった魔王城。


この日、勇者が魔王を倒し世界に平和が訪れた。




ガラガラと大きな音を立て崩壊していく魔王城と思いきや、振動と音はすれど瓦礫が降ってこない魔王城。

光の残滓も消え魔王の死体が転がっている部屋に一人の女が入って来る。

身なりは修道服ではあるが先程まで居た僧侶の少女の様な清楚さはなく、黒を基調とした配色にスカートの丈は短く、放漫な体を強調する様に絞るところを絞り清楚さなど微塵も感じられない背徳的な妖艶さを醸し出している。

女が部屋の中央まで移動すると、パンパンと手を叩く。


「はーい、みんなお疲れ様ー。 伝令ゴブリンはいるかしらー?」

「ギッ」

「よし、そこのお前! 地震ナマズの活動を止めて養殖池に戻す様にと、地下のトロル工作部隊に通達して来い」

「ギギッ」


女の指示を受けたゴブリンの一匹が敬礼をして部屋から駆け出していく。

仕事の早いゴブリンに満足そうに頷いた女は窓辺へ歩みを進め、到着するとそのまま窓を開け放ち顔を外に出す。


「ハーピー飛行隊! もう外壁を叩いて騒音を出す作業を終了して構わないわ。 代わりに島の外周の哨戒を! あのバカ勇者が調子に乗って風の結界を全部消しちゃったから、おかしなのが入ってこない様に注意して! 一応、戦闘用のウイングドラゴンを2、3匹連れて行きなさい」

「ピー」


甲高い声を挙げて反応したハーピーたちが城壁から離れて行く。

ゴブリンに続きハーピーも仕事が早い事に満足したのか軽く一息ついた後、魔王の死体に目を向けると先程吐いた息とは真逆の、重そうな溜息を吐く。


「魔王様、いい加減起きて下さい。 勇者なら帰りましたよ」

「えっ? もう? あの勇者、玉座の後ろ調べてないよね?」

「ええ、隠れて見ていた限りは何もせずに帰ってしまいましたね」


魔王の死体に向かって移動しつつ、女が死体に話しかける。

すると、大の字に寝転がっていた魔王が首だけ持ち上げて女の方へ向けた。


「吾輩、ちゃんと戦いの前に玉座の裏に宝を隠しているって仄めかしたよね?」

「はい。 ですが今回の勇者は実力はそれなりでしたけど、頭が緩かったのであの程度では察する事が出来なかったのでは?」

「えー……でも、吾輩しっかり言ったんだよ? あの宝が無いと、この後大変なのよ?」

「知りませんよそんなの」


予想外に緩かった勇者に魔王が今後の対応について頭を悩ませている内に、女が首を持ち上げている魔王の負担を減らす為に頭の方へ移動し歩みを止める。

女が魔王を見下ろす瞳が先程指示を出したゴブリンやハーピーに比べると非常に冷たい。

どうやらいつまでも寝っ転がっていて仕事を再開しない魔王に不満を感じている様だ。


「今回は人的被害より、物的被害の方を多めって事で大陸中を毒の沼地マシマシにしちゃったんだよ」

「蜂起前の作戦会議で伺っております。 それより、いい加減起き上がって頂けませんか?」

「あの宝で沼地を浄化しないと、自然浄化を待っていたら10年近く食料不足で世界が混乱しちゃうんだけどなぁ」

「それなら後で、勇者一行に潜入させておりますダークエルフにそれとなく届けておきます。 ですからいい加減起き上がって下さい」

「……」

「魔王様?」


急に黙り込んだ魔王に不安になり、女が魔王の顔を覗き込むと目を開けてこちらを見上げている。

その目はとても鋭く、『魔王様本気モード』の時でも数える程しかならない視線に、女は背筋を震わせ自分が魔王に粗相を働いてしまったかと頭を巡らせる。

何も喋らず女を見上げる魔王、いくら頭を巡らせても答えに辿り着かない女、どちらも言葉を発せずに音の無い時間がしばし続いた後、遂に魔王が口を開く。


「悪魔神官さん、君は……」

「な、何か気に障るような事を、私してしまったでしょうか」


女……もとい悪魔神官は背中に冷や汗を滴らせながら、先程の強気な態度は影を潜め恐る恐る魔王に尋ねつつ益々頭の中を巡らせる。

目の前に寝そべっている男は魔王である。

だらけたように寝そべり、砕けた口調で自分と話をしているとは言え魔王である。

自分は魔王の右腕として相応の実力は持っていると自覚してはいるが、目の前で寝転がっている男が本気を出したら瞬きをしている間に灰に変えられてしまう。

それほどの力の差がある魔王が、理由は分からないが自分のせいで機嫌が損ねてしまった?

一体、自分は何をしてしまった?

焦る気持ちが収まる前に魔王が言葉を続ける。


「君は悪魔とは言え仮にも神官を名乗ってるのに、すっごいパンツ履いてるんだねぇ。 吾輩ビックリだよ」

「……は?」

「いやー、絶景だね。 久しぶりに本気で見入ってしまったよ、むしろ現在進行形?」

「は、はは……」

「悪魔神官さん?」

「……」


どうやら攻守が入れ替わった様で、今度は魔王が冷や汗を流す番になったようだ。

乾いた笑いを発した後、無言になった悪魔神官に嫌な予感がよぎった魔王は慌てて視線をスカートの中から悪魔神官の顔へ移す。

その表情は本物の神官と同じく迷える子羊を救うかの様に優しい微笑みを浮かべている。

こんな状況でそのような微笑みを浮かべる悪魔神官に背筋が震え始めた魔王は必死に言い訳を考え始めた所で、やっと悪魔神官が動く。


「魔王様。 私、神官を名乗ってますが悪魔ですから」

「あの、何か怖いんですけど。 って、おお!! 悪魔神官さん、そんなに脚を上げたら絶景が大絶景に!!」


本能的に視線を動かしてしまった魔王は気が付いていない。

微笑んでいる彼女の瞳は全く笑っていない事を。

そしてハイヒールのヒール部分が魔王の眼球をとらえている事を。


「えっえっ? これどうなっているの? こんな近くで、全力でのぞき込んでるのに構造が全く分からないぞ」

「魔王様、要は紐です」

「紐? 紐でこんな感じになるのォォォォォウ!! 目がーーーっ!!」


脚を勢いよく振り下ろしたにも拘らず、悪魔ゆえの身体能力の賜物か、はたまた神官である彼女を見守っている邪神の加護かはいざ知らず、的確に魔王の右目をとらえたヒールは見事に突き刺さる。

顔面を押さえながら突き刺さったハイヒールと一緒に、打ち上がった魚の様にのたうち回る魔王。

狂気の色を瞳に宿し、今度こそ満面の笑みでそれを見下ろす悪魔神官。

その二人を少し離れた所でドン引きしながら見守る伝令ゴブリンたち。

場を収める者が一人も居ないこの状況は、魔王が酸欠の魚の最後の悪あがきの様な痙攣が始まるまで続く。


「で、満足されましたか? 魔王様」

「うん。 まぁ、そこそこに」

「でしたらそろそろ起き上がって下さい。 そして仕事をして下さい。 あと、ハイヒールを返して下さい」


あれだけやらかしておいても今も寝っ転がって居る魔王に呆れ顔で、悪魔神官が懇願する。

勿論、右目にはヒールが突き刺さったまま。


「吾輩もそろそろ頑張ろうとは思うんだけどね、目が……」

「ご冗談を。 勇者の聖剣に切られてもどうって事ない魔王様が、一臣下のヒールが目に刺さっている程度で何を仰っているのです」

「いや、結構大惨事だと思うのよ、これ」

「でしたら、何故残った左目の視線が私のスカートの中へ?」

「ほら、そこはあれだよ。 構造が分からない上に紐と言う謎まで加わってしまったのだ、まずはそれを解明するところから」

「潰しますか、残った方も」

「あ、大絶景! ぬぉ!」

「ちっ」


二度目の大絶景を堪能しつつも、左目を全力で守った魔王が慌てて立ち上がる。

数舜前まで左目があった場所をを見下ろすと、硬い石の床にヒールが突き刺さっている事に気が付き頬がひきつる魔王。


「今、舌打ちしませんでした?」

「まさか! そのような事、私がするわけ御座いません。 きっと魔王様にやましい気持ちが有るから聞こえてしまった空耳では?」

「そ、そうだよね。 魔王に向かって舌打ちする部下なんていないよね。 じゃあ、とりあえず構造と紐に付いての再考を」

「あ? いい加減にしないと姫様に言いつけますよ?」

「仕事、頑張る。 吾輩、仕事、頑張る」


魔王が小刻みに震え、額に玉のような汗が噴き出始めた魔王。

それを見て見ぬふりをし急に片言になったが仕事への意欲を出した魔王に、満足そうに頷く悪魔神官。


「さて、魔王様。 ご指示を」

「とりあえず、この世界の創造主さんに今回の勇者と魔王の戦いが終わったって一報を入れておいて」

「畏まりました」

「あと、ダークエルフさんに隠密に宝を渡して来て。 多分、彼女も使い方は分かるはずだから、それとなく勇者に渡しつつ、使い方教えてあげてって言っておいて」

「はい」

「一応、今指示を出せるのはそれくらい。 後は一日くらい置いて混乱が収まってからかな」

「では、早速取り掛からせて頂きます」

「よろしくねー」


一礼をした悪魔神官が魔王の玉座の後ろに回り宝を回収した後、部屋を出て行く。

と思いきや、再び部屋に入り魔王の元へと寄って来る。


「あれ? 何か忘れ物?」

「魔王様、ハイヒール返して頂けませんか?」

「あ、そうね。 んっしょ……って取れない!? 悪魔神官さん、君どれだけ殺意を込めて吾輩の目玉を踏み抜いたの?」

「それは勿論全力ですよ。 とりあえず引き抜くより、ねじるように抜いてみては? 私も手伝います」

「何それ怖い。 あ痛---! 力尽くは止めて、目がとれちゃう」

「一晩寝れば生えてきます。 お前達も手伝いなさいっ」

「ギギッ」

「秘儀、コウモリ変化」


魔王の躰から煙が上がったと思うと、目玉にハイヒールの刺さったコウモリが飛び去る。

勿論、煙が晴れると魔王が消えていた。


「魔王様が逃げたぞ! 追えっ!」




これは何処にでもある、勇者と魔王のお話。

語りつくされ、古臭いお話。

では無く、その後の魔王たちのお話である。


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