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ある暑い夏の日のこと。

もうすっかり暗くなった遊園地を、五人の男女が歩いていた。

錆びた遊具が周囲を取り囲む、肝試しにはうってつけの場所だ。

五人はライトを頼りに恐々と先へ進む。

目的地はドリームキャッスル。

古寂びたこの洋館に、隠された地下室があると噂されているのだ。

だからといって何も夜来なくてもいいと思うが、彼らなりに思うところがあるのだろう。

外見は、いかにもなゴシック建築。

吸血鬼や幽霊でも出そうな雰囲気である。


戸は開いている。

中に足を踏み入れた。

床にたまった埃に、いくつもの足跡ができている。

来客は幾度もあるようだ。

足跡を増やし先へ進む。

この広さなら、二十分ほどで入り口に戻れるはずだ。

五人は周囲を確認しながら先を進む。

入れそうな劇場や小部屋に入ってみたが、当然暗くてよくわからない。

見つけられそうになかった。

それでも、誰も帰ろうと言わないのは、ちょっとした好奇心と言い出しづらさからなのだろう。


―――。

未来は未だに定まらず、ふわふわと行く先のほうで漂っているが、それを決定することは容易い。

逃げることも戦略だ。

命があるなら儲けもの。

生きて帰る道は、確かにあった。

ただ、気づかなかっただけだ。

ただ、知らなかっただけだ。

―――。


地下室を探しに来る者は多いらしい。

現に、あちらこちらに足跡が付いていた。

奥の『STUFF ONLY』と書かれた扉を開ける。

その中も、足跡だらけだ。

先へ進む。

楽屋だろうか。

いくつもの小部屋が連なっている。

歩いていると、目の前をスッと白い影が横切った。

驚き固まる五人の前で、たくさんある扉の一つに吸い込まれて消えた。

五人は、怖いもの見たさも手伝って、緊張しながらその扉を開けた。

・・・中には誰もいない。

衣裳部屋らしく、クローゼットや鏡が備え付けてある。

特に変わったところはない。

いや、よく見るとクローゼットの傍に不自然な足跡がある。

いくつかの足跡が、クローゼットの下にもぐりこんでいるのだ。

どうやら動かせるらしい。

クローゼットを、壁に向かって押してみた。

クローゼットは壁に押し込まれ、その奥でガタンと音を立てた。

戸を開けると、収納された衣服の奥に、暗い通路が出来ていた。

黴臭い空気が流れ込んでくる。

五人は、意を決して奥へと進んだ。

地下へ続く階段を恐々と下りていく。

キィ・・・・・・―――。


奥で音がした。

五人は思わず立ち止まる。

ターン、ターン、ターン・・・・・・・・・。

奥から、足音が聞こえる。

ターン、ターン、ターン・・・・・・・・・。

ゆっくりと、誰かが近づいてくる。

ターン、ターン、ターン・・・・・・・・・。

限界だった。

五人は反射的に、出口に向かって走り出していた。

ターン、ターン・・・・・・・・・。

クローゼットを駆け出た。

閉じ方がわからない。

ただ逃げるしかなかった。


・・・・・・・・・。

やっとのことで外に出た。

ハアハアと肩で息をする。

慌てて体をぶつけたのか、あちこち痛んだ。

闇に目が慣れて、夜空の明るさが感じられる。

・・・追手はない。

ようやく落ち着いて、「みんな無事か」と一人が声をかける。

応える声は、三つのみ。

ライトで確認する。

・・・一人、足りない。



ライトがあるといってもあの暗さだ。

はぐれたのかもしれない。

探しに行くのも怖いが、おいていくわけにもいかない。

五人は恐る恐る、再び中に踏み入った。


・・・何一つ聞こえない。

名前を呼んでみるが、返事はなかった。

「おーい、おーい」と、声をかけながら進む。

その声はむなしく響き、応える声もない。


小一時間ほどかけて、屋敷内を一周したが、人影一つ見つからなかった。

入れ違いかともう一度探そうとしたとき、奥で小さく音がした。

合流できたのか。

そう思い振り向くと、そこには一体の着ぐるみが立っていた。

白い、おそらくはこの遊園地のマスコットであろう着ぐるみ。

開業時の昼間ならともかく、今ここでは不気味以外の何者でもない。

まして、不自然に紅く染まってなどしていたら・・・・。


残った四人は、本能的に出口に向かって走り出していた。

着ぐるみも追ってくる。

四人は、バラバラに逃げた。

着ぐるみが誰を追うかはわからない。


着ぐるみだから動きは遅い。

そう考え、一人は柵を越えて『アクアツアー』に逃げ込んだ。

足には自信がある。

広いところなら、もし追われても逃げ切れる。

―――しかし。

「うわっ!」

急に足下がなくなり転んだ。

地面に穴が開いている。

深い穴だ。

中には水が溜まっている。

下半身が水に沈んだ。

必死に這い出そうとした彼の足を、何かが掴む。

そしてそのまま、引きずり込まれた。

水面が赤く染まる。




ポタポタと雨が降り出していた。

濡れながらも必死に走る。

服が透けることも気にならない。

今はただ、逃げることに必死だった。

長い髪をなびかせ、ときどき後ろを確認する。

追ってきてはいない。

それでも、立ち止まるのは恐ろしかった。


息が荒い。

足が痛い。

もうこれ以上走れない。

そんな時、観覧車らしき遊具が目に入った。

そうだ、この中に隠れよう。

そう思い、戸に手をかけた。

そして・・・。

「え?」

彼女の視界に、無数の『手』が映った。




「――っ、あがっ・・・!!」

雨の中、地面に倒れこむ。

右足が動かない。

見ると、後の太ももに斧が刺さっていた。

後方から、ゆっくりと着ぐるみが近づいてくる。

手で這って逃げようとしたが、簡単に追いつかれた。

着ぐるみは刺さった斧を引き抜き、振り上げた。


両の足を抉られ、再び地下室まで引きづられる。

「くそっ、放せ!!」

むちゃくちゃに暴れても、痛みが増すだけだった。

成す術なく階段の下へ。

扉は閉ざされ、逃げ場はなくなった。

「ひっ―――」

先客があったらしい。

天井のロープに、見知った『何か』が吊るされていた。


四肢は削がれて骨になり、胸も抉れて臓器が見えた。

心臓上の骨らしき物も、残骸となって地面に転がっている。

まだ生きてるらしく、弱々しく心臓が動いていた。

「な、なんで・・・。」

彼は、自分の運命を悟った。




息を切らして出口へ向かう。

雨で前が見にくい。

つまづいて転んだ。

追手はなさそうだ。

さっきのは何だったんだろう。

それと、みんなはどうしてるかな。

バラバラに逃げたから、今どこにいるのかわからない。

彼女は立ち上がる。

出口はもうすぐだ。

ゆっくりと先に進む。

走る余力はもうなかった。


出口はもうすぐ。

一歩ずつ、確かに進んで行く。

五歩、四歩、三歩、・・・。

後一歩のところで、冷たい手が彼女の腕に触れた。

雨の中、ゆっくりと振り向くと、知らない女性。

その人は、優しく微笑んだ。

うれしそうに、楽しそうに。




その後、五人の姿を見た者はいない。


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