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解説♡一角聖馬

 ところで、ユニコーンとか言う幻獣についてご存知だろうか。

 そう、簡単に説明すると「手のつけられないレベルで凶暴な処女厨」である、あのユニコーンだ。処女以外が近付くと額に生えている一本角で突き殺してしまうととか言う、かの有名なユニコーン先輩だ。


 俺、今、それ。


 あっ、いや、正確に言うとちょっと違う。俺別に処女じゃないからって近付いてくる輩を突き殺したりしないし、もっと言うと別に処女厨じゃない。酸いも甘いも噛み分けたオトナなオネーサンとか大好き。


 俺が転生したのは、他種族から「一角聖馬(いっかくせいば)」と呼ばれている種族だ。名の通り額に螺旋状の一本角を生やした、馬に似てるけど明らかに馬じゃない、けどやっぱり馬に見える奇蹄類だ。


 同族の中には、背中から羽の生えた奴とか、鱗のある奴とか、何故か下半身が魚っぽくなってる奴とか、体から枝が生えている奴とかがいるけど、一応どいつも種族的には「一角聖馬」なのだ。

 あ、言っとくけど俺はスタンダードな馬系だぞ? 自分で言うのもアレだけど神秘的な美白馬だからな? 他の奴らみたいな異形系じゃないからな? そこんとこよろしく。


 で。

 なんでそんなクリーチャー系の奴も同族なのかって言うと、一角聖馬って種族の生殖方法が原因だったりする。


 そもそも、一角聖馬は名前に「馬」って付くけど「馬」じゃない。それどころか「生物」ってカテゴリに組み込んでもいいものかどうかすら怪しい生命体なのだ。


 地球では考えられないんだけど、この世界には「魔素」っていう物質が存在している。簡単に言えば「魔法の元」になる物質だ。

 俺たち一角聖馬は、その魔素を基礎として肉体を形成している「高位魔素生命体」、地球で言うところの「精神体」とか「精霊」ってヤツなのだ。


 かっこよく「精神体」とか言っちゃえば聞こえはいいけど、要するに「生きてるけど幽霊状態」なワケで。まぁ、普通に考えて幽霊状態だと物質世界に干渉できない。寿命って概念はないからそうそう消滅もしないんだけど、だからってせっかく物質世界に発生したのに何もできないのはいただけない。


 ということで、俺たち一角聖馬は肉体を持つ生物の胎を借りて強制的に受肉し、この世界に生まれてくることにしたらしい。どこぞの悪魔も真っ青な生殖方法だ。


 しかも借り胎に選んだ動物が既に子を産んだことのある個体だと、魔素が乱れて消滅してしまう程度にはデリケートだときたもんだからもう笑うしかない。


 つまり、だ。俺たちは処女厨なのではなく、処女の胎でしか生殖できないのだ。ご丁寧な事に、自分の魔素と相性の良い個体でないと胎の中で子がうまく育たないというオマケ付き。

 これでも俺たちは高位精神体に属するから、相性のいい借り腹(嫁さん)なんてそうそう見つからない。それが生娘なんて、野生で見つけるのは至難の技だ。


 ならどうするのか。

 

 簡単である。

 相性のいい個体を見つけたら、幼体の頃から傍に置いておくのだ。そうして、自分の子を孕ませるのに最適な個体へと育て上げるのだ。


 ビバ、光源氏計画!!

 倫理観など地球(前世)に捨ててきたわ!!


 ……と、まぁ冗談は置いといて。


 受肉する必要があるため、同種同士で生殖活動はほぼ行わない。胎に送り込むのも精子ではなく、自身を構成する魔素のカケラだ。生物の胎に送り込まれた魔素は、胎の中で母体の情報を取り込みつつ成長する。その過程で母体の影響を強く受けるため、合成獣のような見た目になるというワケだ。


 つまり、生まれてくるのは自分の子供と言うよりも、自分の分身と言うべき存在だったりする。一応基本形が馬なので、借り胎に選ぶ動物も基本的には馬や鹿なんかの有蹄類、次いで熊や狼なんかの四足歩行する哺乳類なのだが、たまに鳥類とか爬虫類、はたまた魚類や植物までもを借り胎に選ぶクレイジーな(やから)が居たりする。


 ここまで(別に知らなくてもいい)前提な。

 つまり、だ。


「……やっと借り胎連れてきたと思ったら、よりにもよってそんなもんを……」


 ウサ耳幼女を背中に乗せて意気揚々と森を闊歩していた俺を、呆れた眼差しでもって出迎えてくれたコイツは、クレイジーにも魚類と生殖行為に及んだ末に産まれた子ってワケである。

 今日も虹色の鱗と鬣代わりの背ビレが眩しい。


 しみじみとヒトの嫁さん(候補)に向かって失礼な口をききやがるコイツは、俺の古馴染みでこの辺りで一番大きな湖周辺を縄張りにしている一角聖馬だ。こんなナリしてるクセにコイツの借り胎(嫁さん)は無難に野生馬である。ちなみに、美馬だ。


「おっ、白魚(しらうお)じゃん。珍しいな、あんたが湖から離れるなんて」

「そりゃお前さん、かの有名な『宿無(やどな)し』がついに借り胎連れてきたってんだから顔くらい見に来らぁな。にしても、まさかそんなちみっこくて弱っちいヤツ選ぶなんてなぁ……」


 しみじみ、というよりはじっとり、と表現するにふさわしい視線を向けてくる白魚。ヒトの嫁さん(※無許可)捕まえて言いたい放題か。


「おっ、なんだ羨ましいんか? いいだろ、絶対やらんぞ」

「誰がそんな末恐ろしいことするか」


 フスン、と鼻息を鳴らす様はやはり馬。毛の代わりに鱗生えてるからちょっと竜っぽくもあんだけどな。


「お前さん、仮にも宿無(やどな)しなんだからぁよ、ちったぁそれらしくしろってんだ」

「お?? 喧嘩売ってんのか???」

「なんでそうなる」


 白魚が頭痛を堪えるような顔をした。馬面なのに器用だな。 


 俺は決まった縄張りも持たずふらふらしていたためか、他の奴らからは「宿無し」と呼ばれていたりする。一角聖馬はプライドが高いから、縄張りも持てない弱者は蔑まれるのだ。たぶん。知らんけど。

 ……言っとくが俺は弱いから縄張りを持ってないワケじゃないぞ。縄張り争いするのが面倒だからあえて縄張り作ってないだけだぞ。名前で呼ばれないのだってなんか名乗る機会逸しちゃってなぁなぁになってるだけだぞ。ほんとだぞ。


 ……ん? そういや他の奴らからも名前聞いたことないな? 俺が勝手にニックネーム付けて呼んでるだけだな?? 今までなんも言われんかったからなぁなぁになってるけどええんかこれ???

 …………ま、いっか! なんか言われたらそん時考えよ!!

 

 と、そんな俺の胸中独白など知ったこっちゃない半馬半魚の白魚は、俺の全身を上から下まで舐めるようにじっくりと見つめて、ついでに背中の俺のフィアンセ♡もじっとり見つめて、それからなぜかもの凄く重いため息を吐き出した。む、人の嫁さん(候補)捕まえて失礼な。


「で? お前さんがずっと探してたっつー理想の借り胎ってのが、それだってのかい」

「そうそう。可愛いだろ? 羨ましいだろ?? やらんからな」

「要らんというに」


 蔑んだ目で見てきやがる。

 まぁ、俺は前世人間だったから違うけど、通常の一角聖馬から見れば人間好きなんて特殊性癖になるもんな。

 地球で言うなれば人間が馬に欲情してるってことになるもんな。ヤベェタイプの変態だ。紛う事無き変態だ。俺は違うけど。

 俺は! 違う!! けど!!! な!!!!


「……まぁヒトのことは言えんから追求はせんが、ソレ、大丈夫か?」

「へ? 何が?」

「どう見ても弱い個体だろう。子を孕めるようになるまで保つのか?」


 一角聖馬の常識に当てはめれば、借り胎は強ければ強い方が良いとされる。

 まぁ野生動物的なものの考え方をすれば自然とそうなるだろう。弱肉強食な自然界では、強いということはそれだけ生存率が上がるということ。母体の在り方に強く影響を受ける俺たちのような生物は、特に「強いもの」を好む傾向が強い。


 そういう意味でも、道具がなければ1個体の強さがその辺のウサギにすら劣るヒトという生物を借り胎に選ぶ俺は、他の同族の目にはより一層異端として映るんだろう。ちなみに、この世界のウサギはデカくてツノがあって魔法も使う。

 まぁそれを言ってしまうと前世の記憶を持ってる時点で異端だからなんら問題ないし気にもしてないんだけど。


「大丈夫大丈夫。これでも俺ヒトの子には詳しいから」


 そういう思いを込めて、自信たっぷりにむんと胸を張ったら、なぜか白魚に可哀想なモノを見る目で見られた。


「だが、死にかけているぞ」

「えっ!?」


 言われて、慌てて自分の背中を振り返る。


 そこには、晴れ着の重さに潰されてへたり、顔色は悪いのに頬だけを真っ赤にさせたウサ耳幼女の姿があった。


「ああああ!! ヤバい、熱あんじゃんこの子!! 悪い白魚、俺ちょっとこの子安全な場所に連れてってくるわ! 教えてくれてありがとな! じゃ!!」


 そりゃそうだよ! どう見てもワケアリっぽい風体してるし慣れない場所で疲れただろうし、こんなちっちゃい子が耐えられるような環境じゃなかったよな!! 俺のバカ!! 白魚の唐変木に言われるまで嫁(仮)の不調に気付かないとか旦那失格じゃん!!


 とっ、ともかく、あったかくして寝かさないと!!

 呆れた顔をしている白魚に軽く礼だけ言って、急いでねぐらに向かう。急いではいるが、あんまり急ぐと背中の子を振り落としかねないのでいつもより気を使って走る。ああ、こういう時馬の体って不便!!


「……はぁ。アレで我らの『王』なんだからなァ……世の中わからん」


 白魚がなんか言ってた気がしたけど、慌てていた俺の耳には届かなかった。

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