真面目ちゃんとギャル子ちゃん。二人って付き合ってんの?
十七歳の誕生日。私は、一年生のころから好きだった先輩を、校舎裏に呼び出した。直接声をかける勇気が無かった私は、ラブレターという方法を使った。
放課後、先輩はちゃんと来てくれた。一度だけ優しくしてもらった。たったそれだけの理由だ。
それでも、私にとっては、十分な理由だ。
「私、先輩の事が、す、好きです。お付き合いしてください」
勇気をもって告白した。この日のために、何度も、何度も練習をした。
恥ずかしかったけど、友達にも練習に付き合ってもらった。
心臓が止まりそうなくらいドキドキしている。
答えを聞きたくない。フラれたら、私はきっと立ち直れない。
だけど、やっぱり答えを聞きたい。例えフラれたとしても。
私は、今までの臆病だった自分を変えれたんだって自信にもなる。
下を向いて、顔を見られないように。きっと、私は赤面しているのだろう。顔が熱い。
「ごめん、無理」
「そう、ですか……すいません。呼び出しちゃって」
先輩は振り返り、去っていく。その後ろ姿を見ていると、涙があふれそうになる。
私の初恋、終わったんだなって。
気が付くと、私は泣いていた。人が来るかもしれない。
でも、声が抑えられない。涙が止まらない。
誰かを好きになって。
その好きが相手に伝わらないって、こんなに辛いことなんだ。
しばらくその場から動けなかった。
どれくらい泣いてたんだろう。
空は夕焼け。いつもならとっくに帰る時間だ。
スカートに付いた土を掃い、フラフラしながらも校舎裏の角を曲がると
「もう泣き止んだの?」
友達が、そこにはいた。
「いたなら話しかけてよね。今日部活だったよね。サボり?」
「もう終わってる。帰るんなら、一緒に帰ろ」
彼女は私の肩を軽く叩く。
「私、なんでフラれちゃったのかな」
自分が地味なのは良く分かってる。真面目なのが取り柄で、お化粧とかしたことない。メガネもしてて、見るからに文学少女ってやつだ。
「あの先輩、見た目重視だから。付き合わなくて良かったんじゃない? あんたなら、もっといい人見つかるって」
慰めてくれているのだろう。普段はそんな事してくれないのに。
その優しさに、つい甘えてしまいそうになる。
「あんただったら、きっとあの先輩と付き合えたんだろうね」
「冗談言わないで。あたしの趣味じゃないから」
「前から聞きたかったんだけど、なんで誰とも付き合わないの?」
彼女は私の問いかけに考える素振りをする。
「あたしがもしも誰かと付き合ったらさ、陽奈が一人ぼっちになるじゃん。友達ってあたしだけでしょ」
「いや、あんた以外にも友達はちゃんといるから」
優は目を見開いて私を見てくる。そんなに意外なのか? 私に友達がいることが、そんなに意外な事なのか?
「ごめん、私以外にもいたんだ……私だけだと思ってた」
「失礼過ぎる」
その後、いつも通りの帰り道なのだが、優はあまりしゃべらなかった。何かを考えているのだろう。
その日の夜。どんな友達なの? とか、色々質問された。
最後の方では、その子の事好きなの? そう聞かれた。なんだか、様子が変だ。
次の日。私は優に誘われ、海に来ている。
「嫌な事があった日には、なんか楽しいことしたいよね」
「だからって、いきなりうちに来て海に行くぞはないでしょ。前もって言ってくれたら水着用意したのに」
「悪い。まさかスクール水着持ってくるとは思ってなかった。なんか貸そうか?」
あんたの水着借りても意味がないんだよ。サイズを考えろ。バストサイズがどれくらいあると思ってんだ。言ってて虚しくなってきたはこんちくしょう
「いらない、どうせ誰もみないし」
「そう? 一様陽奈のサイズに合うようなのも持ってきたよ?」
「なんで私のサイズを知ってんのよ!」
優から何着かひったくり、更衣室に入る。うわ、本当にサイズピッタリじゃん。
これがビキニってやつか、私には似合わないな。これ、ほとんど隠せてないじゃん。
あいつ、よくこんなの買えたな。しかも、私のサイズで。
無難なワンピースでいいかな。花柄だし、きわどくないし。
「遅い。水着一着にどんだけ時間かけてんの」
「あんたのせいでしょ」
「ふーん。思ったよりも悪くないじゃん。あ、日焼け止め塗ってあげるから。横になって」
言われたとおりにうつ伏せになる。
「冷たい」
「何当り前な事言ってんのよ。次、私に塗ってね」
「はいはい、すべすべしてる」
「当り前じゃん。女なら手入れはしなきゃ」
私もこれくらいちゃんとしてたら、そしかしたら。
先輩と付き合えてたのかな。
「手が止まってるよ」
「ごめん」
「忘れるために来たんだから」
「そうだね」
オイルを塗り終わり、私と優は海で遊んだ。砂のお城を作ったり、優が掘った穴に落ちたり。おとしてやったり。楽しかった。
嫌な事も、忘れられた。なんだかんだ言っても、私の一番の友達。
「楽しかった」
「ならよかった。連れてきたかいがあった」
「あんたとは、このまま友達でいたいかな」
「友達……そうだね」
優の表情から明るさが消える。私、なんかいけない事言ったかな。
「優? どうしたの?」
「あのね、陽奈はさ……私が、陽奈の事好きって言ったら、どう思う」
……どういう事。私の事が好き? またいつものようにからかってるのか? 何て返事しよう。
「それってさ、からかってるの」
「……正解」
「ちょっと! もう! びっくりしたじゃん」
優は先ほどの暗い表情ではなく、いつもの明るい優に戻っていた。
この時は、いつも通りに見えたんだ。
しばらくして、優は学校を休むようになった。
前にもこういったことがあったから、最初のうちは何とも思ってなかった。
けど、流石に一週間も学校に来ないと心配になってくる。
何度も携帯に連絡を入れてみるも、彼女から連絡が来ることはなかった。
「優、いるんでしょ。開けて」
私は優が住んでいるアパートに来ている。親が共働きであり、普段から家を留守にしていることも多い。
だからだろうか、親も彼女が学校に行ってないのは把握してないのだろう。
さっきから何度もチャイムを鳴らしているのに、全然反応が無い。
もしかして、中で倒れてるとか?
もう一度、優の携帯に電話をしてみる。
中からは聞き覚えのある着信音。
「優……私、なんかしたかな。謝るから、顔、見せて」
少しして、鍵の開く音がした。
そして、扉が少し開くと、中から優が姿を現す。
「入って」
「お邪魔します」
リビングに通され、イスに座らされる。
優は台所に行き、棚からコップを二つ、それと麦茶を持ってきた。
コップに麦茶を注ぐ音だけが聞こえる。
気まずい。何か話さないと。
何時もなら、こんなに緊張することなんてなかったのに。
「あのさ、なんで学校休んでるの」
「体調悪くって」
「なんで電話出てくれなかったの」
「体調が……悪くって」
何時もの優じゃない。目を見てくれない。下を向いて顔を隠している。
「こっち見て」
「いや」
「こっち見ろ」
「いや」
そんなに私の顔が見たくないのか。
「心配したんだよ」
「ごめん」
「……私、何かしたかな」
「陽奈のせいじゃない……私がいけないの。海でさ、聞いたよね」
海で……好きかどうかの奴かな。
「あの時ね、私、本気だったの。陽奈の事が、大好きなの。陽奈が先輩に告白して、どっか行っちゃうんじゃないかって不安だった」
優は涙を流しながら話してくれた。
「海に誘ったのも、一緒にいたかったから。私自身、あそこで告白するつもりなんてなかった。でも、我慢できなかった。言っちゃったとき、どうしようかと思った」
こんなに泣いてる優は初めて見た。私は、最低な人間だ。
席を立ち。優を抱きしめる。
優も私を抱き返してくる。
「私の何処がいいんだか」
「初めてだったから」
「何が」
「陽奈が、初めての友達だったから」
何言ってんの、あんた私の倍以上友達いるじゃん。
「陽奈があの時、虐められてた私を助けてくれたから。あの日から、大好きになった」
そっか、転校してきた初日。女子グループに絡まれてたのを助けたんだっけ。懐かしい。
「普段は強がりなくせに、本当は泣き虫だったんだね」
「幻滅した?」
「新しい一面が見れて嬉しいよ」
優は照れているのか、赤面していく。下を向いて、表情が分からないようにしている。
「何してんの、顔上げて」
「無理」
しょうがない、テレビで見たあれやるか。
優の顎に手をやり、いわゆるあごクイというやつをやってみる。
優は驚き動けないようだ。
「ほんと、可愛い顔してるわ」
メガネを外し、優の唇に自分の唇を重ねる。
「あんたの気持ちは分かったから。これが答えってことで、良いよね」
「……はい」
この日、私は友達と思っていたギャルと、付き合うことになりました。
次の日から、学校に復帰した優はいつも通りにクラスのみんなと接している。
私もいつも通り、本を読みながら、優の様子を見ている。
私が見ていることに気が付いた優は小さく手を振っている。
やばい、私の彼女可愛すぎる。
つまんなかった学校生活が、かなり面白くなった、
反応を見て、連載小説にするかを決めます。
感想などありましたらどうぞ。
特に百合に関しての感想などなど大歓迎です。