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対魔汎用型超超絶スーパー決戦兵器『ニーナ』



「ぎにゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 僕の住んでいるところは、王様の住んでいるお城――『王都』から離れた人の少ない小さな村だ。人口もそれほど多くないし、言ってしまえば数十人程度のド田舎。

 そんな辺鄙へんぴな場所に住んでいるのには理由があって、簡単に言ってしまえば僕の父親がこの村に道場を開いたことが主な理由だったりする。


 その名も『風間魔導撲滅道場』。

 読み方は、ふーままどーぼくめつどうじょー。

 ネーミングセンスの欠片もない。


 母屋の隣にある道場は、それはそれは道場のそれで。

 僕も小さい頃にはよくそこで父親に訓練を受けたもんだ。



「ぎょええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」



 僕の体得している『封魔術』――

 これは一般に思われるお札やら呪術を扱って、魔を打ち払う物とは一線を描く。


 魔の法。


 つまり魔法とは、言ってしまえば邪道――理から遺脱した外法だ。

 それを相手するには正攻法が一番効果的だったりする。

 もちろん正攻法とはいっても、普通の人間がそれを行うことは出来ないし、そんなことは危険だから、『良い子はマネしちゃダメだよ!』に習って、みんなもしない。魔導書を打ち破るためには、二―ナさんが言うように『封魔士の血筋』とやらが必須となるわけだ。

 風間の血筋。

 僕の家族。

 昔だったら、こういう厄介事は父親の領分だったのだけど。しかし、残念ながら父親は現在行方をくらましている。いったいどこにいるのか――それは僕にもわからない。もうかれこれ二年も前の話だから、今更会ったってどうなるって話でもないし、会いたいともさほど思わないのだけれど。

 案外、僕はさっぱり系かもしれない。


 ともあれ。

 王様が僕を頼るのも、まあ、だから当然って言えば当然。

 必然って言えば必然なのだろう。


「……まったく、めんどくさいなあ……」


「そんなこと仰らずに、ジンタ様」


 僕はニーナさんにぶち壊された部屋――というか母屋から必要な物を袋に詰めていた。

 『魔導書』を破壊する旅なのだから、やっぱり長旅にもなるだろう。

 それに、『魔導書』は一つじゃない。

 出処こそわからないけれど――思いついたように現れ、蔓延り、人を魅了して悪さをさせる。少なくとも一つや二つじゃ利かない。恐らくは数えきれないほどの数があるはずだ。



「うびゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 ……でも。

 だからといって、全部が全部を破壊しなきゃいけない、というわけでもない。

 言ったように出処を叩くか――国内にあるだけの『魔導書』を破壊すれば……まあ、世界の平和を守るには届かなくても、王様の期待には添えられるはずだ。

 最小の労力で最大の利益を。

 それをモットーに風間ジンタは生きております。


「……うん。こんなもんかな」


「準備、出来ました?」


「ごめんね。待たせちゃって、じゃあ――そろそろ行こうか」


 ん、とぼくは両手を差し出す。


「……? なんですか、その手は」


「おんぶ」


「……ああ、そういえばそんなことを言っておられましたね」



「のぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 二―ナさんはしゃがんで背中を向ける。

 僕はそれに抱きつき、おぶってもらう。

 やわらかい肩に腕を回すと、ふわっと広がるいい匂いが僕の鼻をくすぐった。頬を撫でる、ふんわりさらさらのピンクの髪の毛が、なんだかちょっとこそばゆい。

 ……けれど、うん。

 乗り心地は抜群だ。

 これなら旅の道中、ニーナさんに揺られながら寝ることだって十分可能だろう。

 ふへへへ、役得、役得。


「さあて、ニーナさん。出発進行ー!」


「はいはい」


 僕らはすでにドアと呼べるものがなくなって、ガランと穴の空いた――かつて玄関だったところから外に出る。

 幸いにもお天気は晴れ。春先の陽光と、気持ちの良いそよ風が、僕らの旅の始まりを歌ってくれているようだった。

 これからの大冒険を予感させる――はじめの一歩。


 ……と、そう言ってしまえば聞こえもいいだろう。


 でも。

 だけども、そんな感慨深い思いなんかなくて、ただこの時の僕はニーナさんにおんぶして貰って上機嫌で、早く旅とやらに出てみたい一心だったりして、まさかこの一歩が――“これからの旅路がどれだけ大変でどれだけ危険なものなのか”を委細考えずに、一切念頭にも置かずに――踏み出した僕たちを嘲笑うかのように、苦難の現実として待ち構えているだなんて、それこそ思ってもいないかった。


 だから。

 そう。

 だから家から出た束の間。

 僕の目に飛び込んで来たのは――とても現実とは思えない光景だった。


「――なななっ!?」


「これは……なんということでしょうか……」


 僕たちは驚愕に頬を、ぎゅぅっとつねられる。

 村が――僕の村が炎に包まれていた。

 お隣の鈴木さん宅も、向かいの田所さん宅も、村の皆で植えた柿の木や、田中さんが日曜大工で作ってくれたハンモックとか滑り台とかブランコとか回転遊具とかまで――全部が、全部、燃えていた。

 その渦中――まさに火中に男が立っていた。

 掲げる手からは炎がわんさかと出ていて、一見してそいつが『魔導書』に操られた人間だとわかった。

 僕はニーナさんの背中で狼狽する。


「くそっ! なんてこった、僕が身支度をしている隙に村を襲ってくるだなんてッ!」


「……不覚……です。まさかこの私が、この私が後手をとるだなんて……」


 それはニーナさんも同じようだった。

 たしかに――まさかこんなに早く、しかも僕の村で『魔導書』に操られた『魔法使い』が現れるだなんて、彼女も予想だにしていなかったに違いない。

 急展開もいいところだ。

 さながら最初からクライマックスの状態――


 なんてこった!

 僕が荷造りしている間に、姑息にも攻めてくるなんて……。

 なんてこったっ!

 全く気がつかなかったぞッ!!


「ヒャッハー! 汚物は消毒だあああ! 燃えろ燃えろー! ヒャーッハッハッハッ!」


 炎の中、逃げ惑う村人相手に好き勝手やる魔法使い。

 そいつはトゲトゲとした黄色い甲冑を身に着けてて、微妙にマッチョな身体。顔はお世辞にも良いとは言えず、醜悪っていうか、とりあえず汚い。どうしようもなく汚い。

 多分あの顔のほうが、はるかに汚物だ。いい加減にしろ。

 しかも髪型はモヒカン。世紀末とかそんなところにバイクでも乗り回して、主人公に何かにつけて因縁をふっかけ、その都度やられる量産キャラクターのような風貌をしていた。


「おうおうっ! 汚物がいっちょ前に足生やしてんじゃねーぞ! こいつを食らえ! ヒャッハーッ!!」


「びにゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 また一人、村人が炎に巻かれた。田中さんだ。

 お尻に火が付いた田中さんは――火に巻かれて畑中さんといったところか――必死の形相で走り、都合良く村の中心を流れている川に飛び込んでいく。

 川の中には男女五人が煤けた顔で、焔に揺れる悲惨な村の惨状を涙ながらに見つめていた。


「……なんてヤツだ! 許せない!」


 僕は心惜しいながらも二―ナさんの背中から降り、ゆっくりと炎に向かい足を進める。


「ジンタ様?」


「……うん、任せて。二―ナさんはここで待ってて」


「そんな! お一人であの汚くも弱っちそうなアレを相手なさるおつもりですかっ!?」


 二―ナさんは心配そうな目で僕を見つめる。

 大丈夫だよ。

 僕が、みんなを守るから。



「――僕を誰だと思っているんだい?」



 スッ……と。

 ニーナさんを横切り、男を見据える。

 そして胸にドクンドクンと唸る脈動を感じつつ――言い放つ。



「僕は『封』、僕は『封魔』、魔の法を断ち斬る『封陣の刃』――ッ!!」



 封魔士の力、魅せてやる。



「――風間ジンタ――いざ尋常に参るッ!!!」



 僕は駆け出した。

 近所のみんなを、そして僕の村を守るため。

 『魔導書』に操られているから――とはいっても、こいつは、こいつだけは絶対に許さないッ!

 絶対ニダ!


「あーん? なんだてめーは」


「黙れ! 覚悟しろッ! 封魔流、二ノ型壱式――『封陣裂連衝ふうじんれつれんしょう』ッ!」


 僕は素早く魔法使いの間合いに入り込み、地を水平に強烈な足払いをぶちかます。

 驚愕に彩られ、モヒカンの表情が悲痛に歪む。バランスを崩して宙に身体を浮かせるは必定――だが、着地する間なんて与えない!


「お前は僕を怒らせた! 喰らえッ!!」


 くるっと翻り、バク宙の要領で突き落とすは、痛烈な踵落とし。

 そして着地の間髪も入れず、振り上げる足でモヒカンのお腹を打ち上げ――返す刃よろしく一切の躊躇なく地面へと叩きつける、渾身怒涛の三連撃ッ!!


「ぐっ……がっ……あべっし……っ!?」


 モヒカンは地に直撃し跳ね返り――きりもみしながら、また宙を舞う。

 それほどの威力。


 だけど、まだだ!

 まだ終わりじゃないッ!!

 僕のターンは終わってないッッッ!!


 構えるは正拳――

 引き溜めるは大気を揺るがす、乾坤一擲の一撃。



「――風間が封魔足り得る理由――その身をもって思い知れッ!!!」



 僕は片手で印を結び、拳に『封』の力を付与する。

 踏み込んだ左足が地を揺るがし、続く腰――胴体と急激に捻ったそれは、嵐が如くうねり神風を巻き起こす。全身の筋肉を連動させ、繰り出すは奥義――根絶無比、超威力の正拳突きだッ!!



「うおおおおおぉおおぉぉぉぉぉぉッッ!!! 『封魔裂迅拳ふうまれつじんけん』ッッッ!!!!!」



 ぺちっ



「――痛っ!?」


 手に走る激痛に、僕は顔を歪ませる。

 それはきっと惑星衝突並の衝撃だったに違いない。だけれど、モヒカンの甲冑みたいなのが予想以上に硬くて、びっくりしちゃった。それにトゲトゲしてて、殴るときに少し迷っちゃった。

 綺麗に直立で着地する男は、思いの外ダメージは無さそうでケロっとしている。


「……お、おいおいおいぃぃ!? なんだあ? こんなもんかよ、誰だか知らねぇチビ助よぉ! ちょっとびっくりしちまったじゃねーか! ヒャッハー!」


「……くそっ! やっぱり腐っても『魔導書』か……一筋縄ではいかないな……」


 僕は痛めた右手を擦りながら、モヒカンをにらみつける。

 と。

 そこでモヒカンは何を思ったのか、自分を抱くように腕をクロスさせた。


「……?」


 いったいなにをしているのだろうか。

 もしかして、僕の渾身の正拳突きが今更になって利いてきたのか? いやでも、そんな遅効性を持った技じゃなかったと思うのだけれど……?

 怪訝に首を傾げていると、モヒカンはニヤリ、といやらしく笑う。

 もの凄く嫌な予感がした。


「……次は……こっちの番だぜえぃ……? 喰らえや! 滅菌炎却ッ! 汚・物・は・消・毒・だああああああぁぁぁッ!!!」


「――うわあっ!?」


 両腕を広げるや否や、突如としてモヒカンを中心に、炎の壁が作り出された。

 ゴオオォと唸りをあげる火炎――それはまるでバリヤーの様にモヒカンを包み込み、その姿を覆い隠す――まさに攻守一体、煉獄の包囲網ッ!!(ただし包囲されているのはモヒカンだけ)

 僕は凄まじい炎に標的を見失う。

 そして、たまらない熱さに思わず後退する。


「……くそっ! なんてこった、これじゃあ攻撃出来ない……ッ!」


 ジリジリと後ずさりしつつ、炎の球体を見据える――さならが地上に舞い降りたフェニックスのようだ。モヒカンがトサカみたいだし。

 どうでもいいけど、あんな炎の中にいたら酸素がなくなって窒息するんじゃないか?

 案外、放っておいたら失神するとか、そういうオチにならないかなあ?


「大丈夫ですか!? ジンタ様!」


 ニーナさんが慌てて駆け寄ってきた。


「あ、うん。大丈夫だよ。服が少し焦げただけかな」


「……ああ、なんということ……我が主に手傷を負わせるとは……あの男、生かしてはおけません!」


「え?」


「――“対魔汎用型超超絶スーパー決戦兵器『ニーナ』”起動――対象を『魔導書』と確認、機能及び対魔式電磁投射砲限定解除します――」


「……は?」


 言って――ニーナさんの右半身が、ロボットよろしく変形し始めた。

 突き出した腕が巨大な砲身に変貌――そこから飛び出たアンカーのようなものが地面に打ち込まれ、ニーナさんの背中から、幾重にも折り重なった機械が展開される。

 それはまるで天使の翼だ。

 幾何学的形状をもった機械の翼は、神々しくも全体から琉璃色ともとれる蒼白い光を放ち、やがて辺り一面を光一色に覆い尽くし始める。

 

「第二一七拘束機関解放――投射出力最大、リミッター全解除。システムオールグリーン。対象を補足――零カウント砲撃シークエンスに移行します」


「ちょ、ま、えっ?」


 耳鳴りのような音。

 駆動する大型コア・コンプレッサーが高速回転。

 ニーナさんを中心に唸り狂う風――砂塵が舞いあがり、大気が踊る。

 理解が追い付かない僕は、目の前に繰り広げられるその光景におたおたとするばかり。けれどニーナさんは、そんな僕を委細気にも留めず――


「――塵も残さず消え失せなさい! 『超超絶スーパーニーナ砲』――アンリミテッド・フルバーストッ!!!」


 転瞬、ニーナさんの右腕――その砲口からけたたましい轟音とともに、一条の燐光の槍が撃ち放たれた。ズキュ――――――ゥンと、すべてを呑み込むようなレーザー光が、ヒャッハー野郎めがけ一直線に瞬く。


「ぶ、ぶべらああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!???」


 そのあまりの衝撃に、僕は吹き飛ばされそうになる。

 これはきっとソニックムーヴというやつだ。違うかもしれないけれど、そんなことはどうでもいい――っていうか、それどころじゃない。これダメなやつだ。

 頑張って地面にしがみつくも耐えきれず、僕はもろに吹き飛ばされた。

 ばびゅーん。


「なっ、なにこれ、なにこれーっ!?」


 地面を転がり二転三転。

 僕はドングリだってここまでは転がらないだろうという、転がりっぷりを見せつける。

 やっと止まって顔をあげると――そこには砂埃の中に憤然と立つ、ふりふりメイドの姿があった。


「――状況終了。対象の沈黙を確認。対魔戦闘モードを解除します」


「……に、ニーナさん……しゅ、しゅごい……っ!!」


 唖然とか呆然とか、そういうレベルのお話じゃない。

 このときの僕は本当に面白い顔をしていたと思う。

 敵を一撃粉砕した彼女は、ピンクの髪をはためかせながら振り向き、僕に手を差し出す。


「大丈夫ですか、ジンタ様」


「……うん。……ていうか、二―ナさん」


「はい。なんでしょうかジンタ様」


「これ、僕、いるかなあ?」


「もちろんですジンタ様。ジンタ様なくして、この勝利はあり得ませんでした」


「うーん……そうかなあ……」


 いや、これ絶対いらないよね。

 なにこれ。

 ホントなにこれ。




■風間ジンタ


職業:封魔士 冒険者


スキル:『封陣裂連衝』←new!

    ・水面蹴り、ムーンサルト、踵落としの三連撃。


    『封魔裂迅拳』←new!

    ・渾身の正拳突き+???


スペル:『???』←new!



■ニーナ


職業:王の使い メイドロボ


スキル:『超超絶スーパーニーナ砲』←new!

    ・超威力のビーム。


アイテム:『???』



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