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ニーナの自分探し ①


「そろそろ、ちゃんとキャラ付けをしようと思います」


 と。

 華奢といえばその通り――どう考えても世界観に合わないふりふりの黒ドレスに、さらりと長い髪はピンクで、要所についた白フリル。腕に仕込まれた……というか、全身が機械なのだろう、見せびらかすには大仰過ぎるビーム砲を右腕に携え、頭の片側からぴょんと跳ねたアホ毛をふよふよ振り廻しながら、ニーナさんは唐突に言った。


「キャラ付け……ってどういうこと?」


「説明させて貰ってもよろしいですか?」


 ガチャリ、と意味もなく電磁投射砲――『超超絶スーパーニーナ砲』を構えるニーナさん。

 質問を質問で返されて、僕は頷く。

 ……とはいっても、ここまで自由奔放に振舞うロボットというものを、僕は生まれてこのかた見たことがない。ロボット三原則を完全に無視しているし、変なポシェットから妙なモノを取り出したり、凄まじい威力のビームを撃ったりと……まあ、たしかにレーザービームなんてものは、ロボットなら出してしかるべきだろうけれど……。

 しかし、だ。

 キャラ付けとか今更そんなことを持ち出されても、それこそ今更感がすごい気がするんだけど……どうかなあ?

 そう思案する僕とは対照的に、ニーナさんはいつにも増して重々しく語り出す。


「……私は……ニーナはここ数日の旅で、自分の存在意義を考えました。取って付けた……と言いますか、どっかから盗って付けたような設定。メイドコスにロボットという、ありがちな武器に服装……『五次元ポシェット』なんて、まんま某ネコ型ロボットのパクリではないですか」


「…………」


 うん。

 なんていうか、今更だよね。


「私には個性と呼べる特徴がないのです。ならばせめて台詞で挽回をと思い、毒舌の利いた言い廻しなどを行ってきましたが……しかし、それも人工知能の私には難しく……ならばいっそ、語尾に『にゃ』とか『にょ』とか『にぇ』とか可愛いらしく付けようか迷いもしましたけれども、それでは根本解決にはならない、という結論に至ったのです……にゃ」


「はあ」


「このままでは、『つか、ニーナって某ネコ型ロボットのメイドバージョンだろ?www』とか、『ニーナ? ああ、あのどこにでもいそうなロボットねwwっうぇww』などと罵られて大草原を作られても返す言葉もありませんし、自己擁護のしようもありません。……ですが、私はニーナであって、ニーナでありたいのです! 私オリジナルのアイデンティティが欲しいのです! そして長らくの自問自答、葛藤の末――私は、ジンタ様にありながら、自分にないものを見つけました」


「はあ」


「それは――ズバリ、口癖です。にゃ」


「はあ」


「……なんですにゃ、その実のにゃい返事は。にーにゃは真剣に言っているのですにゃ!」


「うん。とりあえず『にゃ』は、やめたほうがいいんじゃないかな?」


「にゃ!? にゃんにゃにゃんにゃにゃにゃにゃ……」


「『なんでそんなことを……』って、だって、なに言ってるかわかんないもん」


「いや、わかってるじゃないですか」


「…………」


 ――ぼ、僕が突っ込まれた、だとッ!?


「……ていうか、僕に口癖なんてあったっけ?」


「むっ」


 ニーナさんは頬に空気を溜めてむくれ顔をつくる。


「……まあ、たしかに。当人が意識せずに口にするのが口癖ですからね。ジンタ様が気がついていないのも、それは仕方ないことかもしれません。……たとえば、先の『魔導書』との戦闘の折に、『僕は封、僕は封魔、魔の法を断ち切る封陣の刃!』――とか、『その身をもって思い知れ!』――などと、中二くさい格好の良いことを言っていたじゃないですか」


 ん、言われてみれば……言ってたかも。

 けれど、それでキャラ付けされているって言えるのかなあ?

 そもそもキャラ付けする意味というものが果たしてあるのかどうか――少なくとも僕らの目的である『魔導書』の破壊だの封印だのに、一切関係がないように思えるのだけども。


「決め台詞ないし、殺し文句ないし、なにか特徴的なモノが私の会話文から見て取れないのです。これは私ことニーナにとって、由々しき事態と見て間違いありません」


「……会話文?」


 僕は首をひねる。


「ねえ、ニーナさん。会話文ってなに?」


「つまり私に足りないものは、特徴的な口癖なのです!」


 盛大に無視された。

 なんていうか、もう慣れたからいいけどさあ!


「こんなことを今更考える辺り、何者かの浅はかな考えが見え隠れしていますが……しかし、序盤の今ならまだ軌道修正が利きます。どうにかここで確固たるキャラクター象を築き上げておかねば……私はこの先に出てくるであろう、濃ゆったらしいモブどもに食われてしまいかねません」


 先の『水の魔導書』も濃いキャラしてましたしね――と。

 ぼやきに近いそれに鬱っぽいものを感じた。

 どうやら、ニーナさんなりに真剣に悩んでいるらしい。


「……うーん」


 しかし、ニーナさんがキャラクター性で負ける……そんなことがあり得るだろうか?

 そのビジョンがまったく浮かばない。

 というか、ニーナさんは、なにを思ってそんなことを持ち出してきたのだろう。

 僕はちょっと考えた。

 けれど、面倒になってすぐにやめた。


 ……とまあ、こんな具合に。

 港野村でアルルを見送り、『魔導書』破壊の旅を再開して、すでに三日が経っていた。

 いくらニーナさんの背中が快適で気持ちいいとはいえ、流石に三日もおぶられ通しじゃ僕も疲れる。

 けれど、それもようやく終わりを告げるらしい。

 なぜなら、


「あっ! やっと見えてきましたね」


 僕は人気のない街道の奥に目を細める。

 お祭りのようなバルーンが空に浮かび、大きな幕が街の至る所に掲げられていて、その華やかさが遠目にも伝わってくる。

 野村国の南の方角に位置する商業の町――『商い野村』がその姿を見せたからだ。



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