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突然の訪問者


 現実と夢の間を行き来する感覚。

 あったかい布団に包まれて、夢うつつの眠た眼の状態。


 そんな曖昧なときが、一番の幸福だってことを僕は知っているし、それを妨げられることは一番の不幸だってことも知っている。

 騒がしいのは嫌いだし、

 動くことだって嫌いだし、

 考えることも――そこまで嫌いじゃなくともやっぱり嫌いだし……。

 そんな無駄な労力を消費するくらいなら一日中ベットに横になって、うとうとと時間を怠惰に使うことのほうが、僕にとっては生産的って思ってる。


 こんなことを言ってしまう僕は、もしかしたら、ものすごく怠け者なのかもしれない。

 でもまあ、だとしてもあながち間違ってはいないから、別にどうだっていいのだけども。


 ……いま、体内時計は昼の十時くらいか……。


 うーん……。


 起こしてくれとは言ったけど、誰も起きるなんて言ってない。

 半刹那の半分くらい悩んだけれど、やっぱり寝るとする。


「……ぐぅ」


 コンコン


 折悪しく、ドアを叩く音が聞こえた。

 誰だろう?

 めずらしいな、と僕は寝返りを打つ。

 けれど、やっぱり起きるのは苦痛だから、起き上がるような野暮はしない。それに僕はベットに入っているときは、大抵のことを無視すると決めているのだ。

 だって――人の勝手な都合で、貴重で基調な僕の睡眠を妨げられたくはないし、もちろん人の勝手な都合で、怠惰で怠慢な僕が、睡眠という至福安息の時間を手放すはずもない。

 だから申し訳ないけれど、


「僕は寝てます。夕方くらいなら多分起きていると思うから、出直してきてください」


 と、頭の中で呟いて寝る。

 おやすみなさい。

 ……ぐう。


「あのー……、風間ジンタ様のお宅ですよね。失礼してよろしいでしょうか?」


 扉越しに聞こえる声。

 どこか清楚さを感じさせる高い声色……女の人だろうか……?

 ……いや、あれ?

 僕の家に来客って時点で珍しいのに、その上女性とはこれいかに。

 そもそも、僕の知り合いに女性なんていたっけ、と少し考える。


「……ふむ」


 僕の知らない声ってことは、村の人じゃないってことだ。

 だとしたら……うん、考えるまでもないな。確実にいない。

 じゃあ誰だろう?

 いくら考えてみてもわかんない。


「…………あっ」


 そこで脳裏に電流が走る――闇に降り立った天才並の圧倒的ひらめき。

 いや。

 それはひらめきなんかじゃなく――内なる僕の――僕という存在の咆哮か。

 僕の中に流れる血が訴える……曲げることを許さない……それは……地獄の淵が見えようとも……絶対に譲れない無比なる矜持……っ! 己が信念を貫き通すことこそが……この不条理に対抗しうる唯一の突破口……っ!!

 ざわ……ざわ……と、背筋に踊る戦慄を感じつつ、僕は辿りついた結論に、小さく頷く。


 よし。

 こうなったら無視だ。

 意地でも無視しよう。

 徹底的に――完膚無きまでに無視しよう。


「失礼しますね」


 倍プッシュだ……っ! と言わんばかりに、ノックの音は止む気配もない。

 あまつさえ、奴さんは乗り込んでくる気だ。

 僕は呆れる。

 ほとほと呆れ果てて、ぐぅと寝息が零れてしまう。

 まったく、なんて奴だろう。

 非常識にもほどがある。

 きっと礼儀とか礼節とかを知らないに違いない。ていうか、『失礼しますね』ってわざわざ言うまでもなく、現在進行形で僕に失礼していることに気が付かない時点でもう駄目だ。駄目駄目だ。こっちは居留守ならぬ寝留守を決め込んでるというのに。


 あー。

 なんだろう。

 ちょっとイライラしてきた。

 けれどもしかしながら、無視するって意気込んだ僕に、何を言っても馬の耳に念仏だ。

 強引な人もいたもんだな――なんて思ったけれど、ドアにはちゃんと鍵が掛かっていることを思い出す。鍵というか、ガッチリとしたカンヌキが挟まっているから、開けることなんてまず出来やしない。

 ふへへ、ざまあみろ。

 寝留守継続待ったなしだ。


「――対魔導電磁投射砲用意――発射までカウント五……四……三……」


 ん?

 なにか今聞きなれた言葉が聞こえたような……。

 そしてなんだろう、このキーンて音は……。


「……零」



 ドガッシャ――――ンッ!!!



「――ファッ!?」


 全身を震わし、脳天を突き抜けるような轟音と衝撃。

 たまらず僕は飛び起きる。

 生命の危機を感じて寝ていられるほど、僕だって怠け者ではない。

 寝ぼけたままの思考で辺りを見渡すと――部屋の中がめちゃくちゃになっていて、ドアだったところが跡形もなく吹き飛んでいた。


「……は……はあ?」


 口をあんぐりと開けて呆ける僕。

 向かって正面、玄関――というか、玄関だったところ――から瓦礫と煙幕を避けて、長身でスタイルの良い女性がゆっくりと歩み寄ってきた。ツーサイドアップのふんわりとしたピンクの長い髪をなびかせ、合い間から覗かせるくりっとした眼と視線が絡む。上品さを感じさせる黒ドレスのようなミニスカ―トの服、その要所要所に付いた白いフリルが、揺れながら僕に近づいてくる。


「なっ、な、な……」


「失礼させて頂きました。あなたが、風間ジンタ様ですね?」


 ……いや。

 いかにもそうではあるけれど、

 これはいかにもイカンでしょうにっ!


「――し、失礼するにもほどがあるだろッ! たしかに起こしてくれとは言ったけれど、僕、こんな強烈な目覚まし頼んだ覚えはないよ!?」


「初登場シーンはインパクトが大事……と、プロットに書かれておりましたので……」


「なにそれ、なんの話っ!? インパクトが大事っていうか、インパクトで僕の家が大惨事なんだけれどっ!?」


 僕はバタバタと身振り手振りを存分に使い、遺憾の意を示す。


「おおっ! 上手いことを言いますね。ニーナは思わずうめいてしまいました」


 なんか感心されてしまった。

 パチパチと両手を叩いて賛辞を贈られる。

 こんな嬉しくない拍手は初めてだ。


「あーあぁ……」


 幸いにもベットとその周りは無事だけれど、衝撃で打ち破られた窓ガラスや落ちた花瓶、立て掛けてある絵と、本棚に飾ってあった玩具などが力いっぱい床に散乱していた。

 致命的だったのは謎の衝撃を直撃したと思われる玄関――原型を思い返すのが難しくなるほど、綺麗にぽっかりと風通しの良い穴になっている。

 修理費だけでいくら掛かるのやら……と、僕は周囲を見回し、ため息をついた。

 こんにちわ、青空。

 さようなら、僕の家。


「……ていうかさ。キミ、だれなの? 僕の知ってる人にこんな乱暴な人はいないと思うのだけれど……?」


「ああ、これは申し遅れました」


 そう言って彼女はぺこりと頭を下げて、


「国王の命でやってまいりました。私は召使いのニーナと申します」


 と。


「此度は、王様直々に、風間ジンタ様へと手紙を携えてまいりました」


 とも言った。




■風間ジンタ


職業:封魔士


スキル:『???』


スペル:『???』


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