対決ッ! 水の魔導書ッ!! ④
ニーナさんの腕が砲銃のそれに変形。
放たれる『ニーナ砲』が天井を打ち抜き、瓦礫の合間から青空が顔を見せた。
ぐっと持ち上げられるような感覚のあと、空が一気に近くなる。
跳躍したニーナさんに支えられ、中空へと身を移す僕たち――そこで僕は目下に“そいつ”を見つけた。
船尾にある建物の上――仮面の男。
「――『魔導書』ッ!!」
男の口元がいやらしく歪むのを僕は見た。
そして男の周囲には、きらきらと光る玉のようなモノが浮いている。
いったいそれがなんなのか――判然としたのは、果たして次の瞬間だった。
イゥンッ!
また高周波のような音が鼓膜を揺らす。
浮かぶ玉のようなものから凄まじい勢いで線が飛び出した。ニーナさんのビーム砲にも似たそれは、僕たちめがけ一直線に瞬く。
「危ないッ!!」
ニーナさんが空中で身を翻し、間一髪それを回避。
線の後に煌く水飛沫に、僕は背筋が凍る思いをする。
――なんだ今のは!?
まるで高出力で水を放ったような……水? もしかして水かッ!?
それがどういった攻撃なのはわからなかったけれど、当たればひとたまりもないことは間違いない。超性能ニーナさんには避けきれるらしいが、流石に僕にそれを望むのは無理がある。
さらに言えば、自由落下するいまの僕たちは的もいいところだ。
『魔導書』が攻撃の手を止める理由は一切ない――
「――対魔汎用型超超絶スーパー決戦兵器『ニーナ』起動――対象を『魔導書』と確認。機能を展開します――」
ニーナさんは僕を背中へと移させ、腕を船に向けた。
肩口から、幾何学的な幾重にも積み重ねられた、機械の翼が広がる。
僕は理解する。
彼女は撃つ気だ――最大出力の『超超絶スーパーニーナ砲』を!!
「やられる前に、散りも残さず消滅させて差し上げましょう――喰らいなさい! 『超超絶スーパーニーナ砲』、アンリミデットフルバーストッ!!!」
ズギャ―――――――ンッ!!
撃ち放たれる根絶無比、乾坤一擲のビーム。
空中にアンカーなど打てるはずもなく。その反動をもろに受けた僕たちは、さらに高高度上空へと身を舞いあがらせる。
ニーナ砲の威力は先の『炎の魔導書』で確認済みだ。彼女のビームが放たれたが最後、後に何も残さない――まさに一撃必殺の最終兵器彼女の最終兵器ッ!!
――だが、信じられないことがそこで起こった。
「……えっ?」
僕の口から間抜けな声が漏れ出るのを僕は聞いた。
目下にある光景が、僕の想像の範疇を凌駕していて、僕は一瞬めまいを起こしそうになる。
――“海”が動いた――。
ぐわり、と。
まるで意思を持っているが如く――船を浮かばせる“一面に広がる海が持ちあがり”、触手のような無数の水鞭となって、ニーナ砲へと猛進する。
なんだこれは!?
予想の範疇を遺脱し過ぎているッ!!
それを操っているのが『魔導書』だとすれば、天外領域の魔技に外ならないッ!!!
埒外にもほどがある光景に息を呑むも束の間、超威力のビームが超大質量の海とぶつかる。
ポポポポー―――――ン!!!
信じられない爆音と衝撃が鼓膜を揺さぶる。
それは水飛沫というか、もはや水爆といっても過言ではない。
空中に乖離した水煙が立ち昇り、船を覆い隠す。
晴れ空にキラキラと虹がかかり――やがて晴れた輝きの合間に、無傷な船がその全体を表した。
「……そ、そんな、まさか……私のニーナ砲が……」
これには流石のニーナさんも驚愕の色を隠せない。
そして最悪なことに、浮かぶ水玉の数があり得ないほど増えている……あの数の水糸に襲いかかられたら……今度こそ……。
僕が不安をあざ笑うかのように水玉が蠢き、攻撃の前兆を見せ始めた。
――数が多すぎる――防御は不可能――か。
「……くっ……かくなる上は――アルル様っ!!」
言って、ニーナさんはあろうことか“アルルを前へ”と突き出した。
「ちょ、なにしてんのニーナさん――!?」
仮面の男の周囲に浮いていた水玉から、水線が一気に襲いかかる。
それは鋭音とともに放たれる高出力の水――閃光の速度をもって僕たちを横なぎにする――だが、突き出したアルルの身体が、恐るべき水の斬撃を“防御”したッ!?
信じられない事態に、僕は目を丸くする。
「えっ、なんで……」
「――これぞ野村の国の叡智を詰め込んだ『超ニーナスクール水着』の防御力ですっ!」
「はっ? ……はあっ!?」
どんな防御力だっ!!
色々とおかしいし、流石に無理があるっ!!
でも、それで防げるというのはこの上ない僥倖だった。
次々と放たれる高圧縮放水を、アルルの身体が片っ端から防ぐ。
意識の無いアルルの身体はぐわんぐわんと右へ左へ。見ていて可哀想になる動きで、僕たちを身を体して守ってくれる(守らされている)彼女――まさに鉄壁の女神と言っても過言ではない。でもやっぱり色んな意味でアウトだ!!
「やっ、やめたげてよぉっ! アルルの身体がもげちゃうよっ!」
「大丈夫です。このスク水の衝撃吸収力は生半可なものじゃありません!!」
……いや、違う。
そんなこと全く言ってないし、訊いてもいない。
ぶらんぶらん揺れるアルルの首に手足は、見ていて不安にしかならないそれだ。
一部始終を見ていた『魔導書』は、水線攻撃を無駄と判断したのか中断させる。そしてネクスト攻撃へと転じた――攻撃方法を“線”から“面”へ。
「…………じょ、冗談だよね……?」
それはもう、攻撃って言えるようなシロモノじゃなかった。
自分の見ている光景を疑ってしまうレベル。
海面に現れた巨大な渦巻き――果たして、それが執り行う攻撃は存外にもほどがある、ただ単純に“海をぶつける”回避不可能防御不能の圧倒的物量作戦――。
「アルル様っ! 今こそ『超ニーナランドセル』の真の力を見せるときですッ!!」
襲いかかる海壁に、ニーナさんが叫んだ。
アルルは気を失っているので、もちろん返事はない。まるでの屍のようだが……。
しかし……ランドセル?
うん、なんていうか……もう嫌な予感しかしない。
「一見すると普通のランドセルに見える『超ニーナランドセル』ではありますが、これには“ある機能”がそなえ付けられています。健全な小学生をターゲットにする『お前ら』みたいな変質者が後を絶たない昨今――安全対策としての逃亡機能は欠かせません!」
「……いやごめん、言ってる意味がわからない」
「その機能とは――つまり、『ジェット機関』です!」
「…………」
もうだめだ。
僕の理解の範疇を超え過ぎている。
僕の頭じゃ、ニーナさんの頭についていけない。
「逝ってよし」
そしてランドセルの口がパカッと開き、中身をのぞかせた。
見たことの無い機械がこんにちわした。
なんかゴオオオォォォって火が噴き出した。
僕たちは空中を駆けた。
「――――――――――――っ!!!???」
もの凄い超加速――果たして向い来る水壁の攻撃範囲から脱する。
空中で駆動力を得た僕たちは、もはや留まることをしらない。
アルルの背負ったランドセルの口から、あり得ない噴射が巻き起こり、お尻を突き出すようにして空を流星よろしく疾駆する――僕らはアルルに必死に捕まる。
どうでもいいけど、アルルの扱いが酷い!
これ、どう考えても気を失っている少女に対する扱い方じゃない――驚くべき風圧に、未だかつてない勢いで、アルルのお尻がSK(スク水食い込む)するッ!!
「に、に、ニーナさん! ちょっとこれはまずいんじゃ!?」
それはアルルの扱いとかお尻が、という意味じゃなくて。
操縦桿も無いランドセル噴射をコントロールできる道理はない、という意味でだ。
膨らませたゴム風船が、わけのわからない動きで飛んでいくのと同様――僕たちもどう飛んでいくのか見当もつかない。
やがてその読みは最悪な形で的中する。
「あう……っ」
旋回に次ぐ旋回を重ね、アルルのランドセルは、どうやら海めがけ火を噴く決断を下したらしい。僕たちは頭からまっさかさまに――ただしアルルはお尻から――海へと突っ込む。
さながら筋肉(スク水)バスターだ!
ドバッシャ―――――――ンッッッ!!!
巨大な水柱を立ち上げ、ぐわんぐわんと揺れる頭に意識が飛びそうになる。
正直、今度こそ死んだかと思った。
だが忘れちゃいけない。
ニーナさんの反射能力は――それこそ埒外の領域に到達していることを。
「ジンタ様、ご無事ですか!?」
ニーナさんは海に突っ込む刹那、アルルの身体を器用に操作したらしい。
尋常じゃない水柱こそあげたものの、僕たちは無事だ。水柱を裂き割り、気がつけばニーナさんはサーファーよろしく、水面を滑るように駆け抜けていた。
「あれ?」
そこでふと、アルルの姿が消えていることに気が付く。
視線を落としてみると、ニーナさんの足元――足蹴にされているスクール水着を見つけた。
「…………」
アルルがサーフボード代わりにされていた。
満面の笑みで波に乗るニーナさん。
その足元には、スク水をこれでもかとお尻に食い込ませ、背負うランドセルから火を放つ、一見するとなにがなんだかわからない少女――アルルの変わり果てた姿があった。
酷い!
アルルの扱いが本当に酷過ぎるッ!!
お尻を突き出し、波に打たれるアルルの頭が、ガクガクと揺れている。
尋常じゃないくらい揺れている。
ちゃんと生きているのだろうか?
本当に心配なのだけれど。
折良くうねった高波をジャンプ台に、僕たちは大空へと舞い上がる。
その先に待っているのは船――僕の双眸が『魔導書』を視界にとらえた。
「――ワタクシの人質になんてことを! ゆ、許さん! 許しませんよッ!!」
僕は男を見据え、言い放つ。
「――お前を封印する――覚悟しろ、『魔導書』ッ!!!」
■アルル・ズムバーン
職業:隣国の姫君
スキル:『スク水サーフライダー』←new!
・ただし『超ニーナスクール水着』着用時限定
『鉄壁の女神』←new!
・ただし『超ニーナスクール水着』着用時限定
『スク水バスター』←new!
・ただし『超ニーナ(略)
武器:『リコーダー』
防具:『超ニーナスクール水着』
・フリル付き
・完全防刃防弾耐性
・完全防水耐性←new!
・完全衝撃吸収←new!
アイテム:『超ニーナランドセル』
・発信機付き
・ジェット機関←new!
お尻:あり
・ジェットSK←new!