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幻の木曽川の戦い

前回のあらすじ

竹中重治は斉藤義龍を稲葉山城へ撤退させ、自身は伏兵を率い渡河してくるであろう北畠勢を討とうとしている。

さあ (勝っているのになぜか)追い詰められた北畠具教だが、遂にその場を立ち上がり決断した。


「よし!!皆の者よく聞け!!」


「はっ!!早速陣太鼓を!!出陣ですな!!」


「みんなで清州城に帰ろうよ」


思わず陣内の多くの武将がズッコケてしまった。


「なっなにを・・・言われますか!!敵は逃げているのですよ、今こそ追撃しなくては!!」


「いやさ、もう向こうも帰ってるんだし無理して行かなくても」


「殿!!そんな臆病風に吹かれた事言わないでください!!」


「いや今回ばかりは嫌な感じもするし・・・ぐっ首を絞めるな!!」


家臣達が北畠具教に詰め寄り、ある者は首を絞めるなど手荒なやり方で撤回を求めている。しかし普段はすぐ折れる北畠具教だが今回はかなり強情だ。


「皆の者落ち着かんか!!大殿に手をあげるなどいい加減になされよ!!」


「しかし鳥屋尾満栄様・・・」


ここで仲裁に入ったのは、北畠家筆頭家老である鳥屋尾満栄であった。彼の権勢は家中ではかなり強い。


「大殿が撤退すると言われるのが分からんのか!!もう戦いは終わったのだ。陣を畳んで撤兵すべし!!」


「ぐっ・・・鳥屋尾満栄様もそこまで言われるなら仕方がない・・・」


「だからなんで俺の言う事はみんななかなか聞かないんだ!!」


北畠具教は締め付けられた首を擦りながら文句を言っている。そんな彼を鳥屋尾満栄は優しい目で見ている。


(さすがは殿、よくぞ堪えてくれました。猪武者なら突っ込んで行ったでしょう・・・)


実は鳥屋尾満栄もこのまま撤退を考えていた。そして最初に北畠具教が撤退を口にした事にかなり救われていた。何故ならいくら彼が説得しても北畠具教が攻めると言えば、それに従うしかない。


ではどうして鳥屋尾満栄は撤退を考えていたのか。それは北畠家の懐事情に原因がある。


(夏の尾張進出、そしてすぐにこの戦い・・・亀山や志摩にも派兵している・・・もうもたん。しかしそれは口にできん)


家中のすべてを知る鳥屋尾満栄にとって、これ以上の戦線の拡大は死を意味していると思っていた。北畠具教はもてる戦力をすべてつぎ込んで尾張奪取に成功した。そして秋に収穫はあったのだが、まあそこまでは良い。問題は今度の斉藤家の南下。


(正直兵糧が足りん。敵が稲葉山城に籠ったらこっちが兵糧攻めになる・・・)


戦いが続き、戦線が広がっている北畠家にとって、渡河した後堅城として知られる稲葉山城攻めは兵站の破綻になりかねない。まだ尾張を支配して半年余り、戦争継続の為増税でもしたら一揆は反乱がおこりかねない。そんな事になれば一気に形勢が不利になる。


だが確かに勝勢に乗り、美濃を攻めとるとの考え方も分かる。だがなにより北畠家安泰を考える鳥屋尾満栄にとって、それはリスクが高すぎた。


(殿はそれら事情を考えての撤兵だろう・・・あくまでうつめ者として・・・出来る事ではない、流石であろうな)


まあ単純にこんな寒い所から、早く清州城に帰りたかったような気もするが、鳥屋尾満栄がそう言うならそんなんだろうなきっと、うん。


「よーし、者ども勝鬨じゃ。それの後撤兵する!!」


鳥屋尾満栄はそう言って、この会議を終わらせた。そして部下達はその声に応え、大声で勝鬨をあげるのであった。




さてその頃、対岸の美濃側では竹中率いる伏兵部隊が息を潜めていた。


「竹中様、斉藤義龍様は無事に稲葉山城へお引きになりました。領民もそれぞれの土地に帰りつつあります」


竹中重治はフーと息を吐いた。


「そうですか、それは良かった。後は北畠勢を叩くのみ」


そんな彼のもとに今度は大垣城から使者がやってきた。


「大垣勢二千、城を発ちこちらに向かっております」


「それは祝着。敵を発見次第こちらから知らせるので、先に仕掛けることがないようにお伝えくだされ」


竹中重治の元には、斉藤家の動向が逐一入ってきた。どれも竹中が望んでいた展開になっている。


「ふふふ・・・後は包囲殲滅をするのみ!!」


竹中重治は伏兵の天才であり、彼の十面埋伏陣という戦略で史実では何度も織田勢を破っている。つまりは北畠具教がこちら側におびき出されたたら、あえなく撃破されていただろう。


だが、待てども待てども敵が来ない、やってこない。伏兵部隊がじれ始めた頃、これまたとんでもない報が、川沿いに配置した斥候からもたらされた。


「北畠勢が撤退を始めており、こちらに向かう動向がみれません。向こうからは盛んに勝鬨が起こっております!!」


「なに来ないだと!!北畠具教という男は何を考えている!!自尊心というものがないのか!!」


竹中重治は思わず地面を叩いた。これでこの伏兵は完全に無駄に終わり、勝鬨を聞いた付近の者達は北畠勝利を言いふらすだろう。そういう噂はとても防げるものではない。


「竹中重治、一生の不覚。北畠具教め、覚えおれよ・・・貴様は運が味方だけにすぎん。必ず討つ!!」


結局、北畠勢は渡河をせずに終わり、竹中重治の伏兵作戦は完全に空振りに終わった。二度にわたる作戦の失敗、そして使われた挙句なんの得もえなかった西美濃勢の心象も悪くなり、斉藤家家中において立場が一層悪くなるのは確実であった。


こうして斉藤家の南下作戦は瓦解し、結局は北畠家の名声・・・特に雪姫の武勇が諸国に広まった。


だがまだ六角家、そして志摩の戦闘は終わっていない。しかしそれらは斉藤家の撤退により、急速に終わりに向かうのであった・・・


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