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木曾川の戦い

小牧山城の激戦が雪姫率いる北畠勢勝利に終わったという報は、その日の夕方には斉藤義龍のもとに届いたのであった。


「義龍様!!小牧山城攻略は失敗!!部隊は稲葉山城へ退却しております!!」


義龍の旗本達は驚きを隠せないでいた。特に作戦を立案した竹中重治は珍しく動揺している。


「そんな事あるわけなかろう!!北畠本隊は目の前にいるのだぞ!!」


確かに川を挟んで対岸には北畠具教本陣いる。その数は五千は下らないという知らせは既に聞いているのだ。


「そっそれが・・・龍興様は兵をご自分三千人、不破様千人、飛騨守様四千人に三分割させ、それらを雪姫らが各個撃破を」


「なぜ三つに!!それに不破殿に千人しか与えぬとはどういう事だ!!」


「それは私にはわかりかねます」


竹中重治は背中に冷たいものがを触るかのような感触に掴まれていた。


(やはり私か義龍様が小牧山城攻略に行かなくてはならなかった)


しばしの静寂の後、斉藤義龍は口を開いた。


「竹中重治・・・作戦は失敗だな。ここから引き上げなくてはならん。足軽達にはかん口令を」


「はっ、直ちに。この事実が漏れてしまうと殿のお命が・・・」


そもそもこの本陣、雑兵や年老いた農民や跡取りの農民、そして年端のない子ども達を掻き集め、人数だけを水増ししている。もしそんな所に斉藤家敗北という事実が洩れればどうなるのか。


動揺が走り、混乱の極みに陥り撤退どころではない。それよりも・・・斉藤義龍の首を手土産に北畠勢に投降しようする者もあらわれかねない。


明智光秀は敗走中、落ち武者狩りで命を落としたという。他にも多数そんな事例がある。こうなっては怖いのは不満を抱えた領民・・・


しかしこのままでは終われない。竹中重治は必死に考える。手札は限られているが最良の手を・・・


「義龍様、この竹中重治に策がございます」


しかし周りの旗本達の反応が悪い。


「・・・この敗戦の責は竹中殿にあるのですよ。今更・・・」


まあこうなってしまうのは仕方がない。年も若いし義龍の寵愛を受けている竹中重治は旗本衆からもともと嫉妬されている。


「義龍様、お聞きくだされ。直ぐに大垣城に使者を。大垣勢をこちらを向かわせてくだされ」


大垣城を守るのは、稲葉良通、安藤守就、氏家直元の西美濃三人衆。彼らは浅井家警戒の為、兵力をこの戦いに出していない。今、斉藤勢でもっとも有力な勢力である。


それに安藤守就の娘と竹中重治は婚約関係にある。これなら兵を出してくれよう。


「そして私に千・・・いや五百で構いません。兵を与えてくだされ。渡河してきた北畠勢を挟み撃ちに。義龍様は一旦稲葉山城にお下がりになり、敗残兵力をまとめた後に出陣を!!」


ただこの策には問題点がある・・・


「竹中重治殿、お言葉ではございますが北畠具教は渡河してこようか」


まあそこが問題である。真冬の木曽三川を渡るのはかなりの決断が必要である。しかしこの場合において竹中重治は成算があった。


「この夜のうちに何人か忍びを送り、斉藤勢は大混乱しながら敗走すると言いふらします。それにこのまま手柄なく北畠具教は撤退できるわけありません」


(このまま帰っては北畠本隊の手柄はない。旧織田勢は少しでも報奨を得ようと渡河を強く勧めるに違いない。それに娘ばかり目立ち当主が何もしないなど自尊心が許すはずもない!!)


「・・・いいだろう竹中重治。其方の案を受け入れよう。ただ失敗したら次はないぞ」


「はっ必ず北畠具教の首を取ります!!」


「うむ、では皆の者行動開始だ!!」


こうしてこの夜のうちに斉藤勢は逆転を目指し、動き出したのである。





その次の日の早朝は、寒い寒い日であった。桑名方面に展開している北畠具教は相変わらず寒さに震えていた。


「ううなんて寒さだ。鎧は鉄だから余計に冷えるのかな」


「いやその鎧、夏用なんでメッシュが入ってるんですよ」


「それじゃ鎧の意味ないだろ!!なんでこんな物作るんだ!!」


北畠具教とモブが相も変わらずに揉めている。仲がいいのかなんというかどうにも緊張感がない。


「ってかこの作品俺が主役なのに最近寒い中、ずっと座っているだけだぞ!!雪姫ちゃんを助けにも行けないし!!」


「しかしまあこの状態じゃね・・・」


「うっ、まあそうなんだが・・・」


北畠具教とモブは川を挟んだ斉藤勢を見た。あいつらが動かないから、こっちも動けない。なのでこんな真冬に川沿いでキャンプ生活という苦境に陥っているのだ。


「・・・うん?今日は何だが斉藤勢の動きが慌ただしいような」


北畠具教がジッと相手を見ていると、向こうの旗指物がやけに動いているように見える。その時、雪姫からの使者がここに着いた。川を挟んでいる為か斉藤勢よりこちらの方が遅かった。


「お味方の大勝利でございます!!雪姫様は斉藤家侵攻軍を悉く撃破!!小牧山城も守り切りました!!」


この報に北畠本隊は歓喜に包まれた。皆が雪姫をたたえる。


「さすがは雪姫様じゃ。おそらくは劣勢であろうによくやられましたな」


「うぬ、わが大殿とは大違いじゃ」


「おい、モブ。さり気なく俺をdisるな。でもまあ良かった。雪姫も無事だね」


「はいそれはもう。雪姫様はご健在でございます」


そして今度は本隊の侍から報告が入る。


「報告します。斉藤勢から我らに投降する者あり。今、対岸の斉藤勢は混乱に陥って慌てて退却するとの事!!」


その報は北畠本隊でも特に旧織田勢が強く反応した。


「殿、ここは好機襲来です。今、渡河を仕掛ければ対岸の斉藤勢など瞬く間に粉砕出来ます!!」


「美濃の地に橋頭堡を作る絶好の時。あわよくば稲葉山城も。美濃崩しが出来ましょう!!」


桶狭間の戦いで敗退した旧織田勢は、再仕官こそできたが領地は増えぬまま。ここは手柄をあげ、忠誠心がある事を見せ報奨にありつきたい。との思いがひときわ強い。


史実でもあの大国、武田勝頼もドミノ倒し的にあっという間に崩壊した。一点突破、全面展開こそ至高・・・という考えもある。


「殿、出陣のご沙汰を!!ってかはやく攻めましょう!!」


「そうですよ、ただでさえ目立ってないだからここはいかないと。いつ攻めるか、今でしょ!!」 (古い)


「さあさあ早く早く。殿、聞いてますか!!」


要請というより罵声にしか聞こえないのだ、果たして北畠具教は川を渡り、敵地である美濃へ攻め込むのであろうか・・・竹中重治の罠を仕掛ける地へ・・・



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