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小牧山城攻略戦13

「うおおおお!!」


だが不破光治はいささかも動揺する事はなかった。瞬く間にその侍達を倒していく。一人また一人とその場に倒れこむ。


「甘い甘い!!このワシを見損なうな!!」


この部屋で残された兵はただ一人残ったのは・・・蜂屋頼隆である。


「このおっさん・・・なかなかやるな」


「ほう、まだ立っている者がいたか・・・ワシの名前は不破光治じゃ。お主は?」


「へへそうかい、あんたがあの美濃四人衆の・・・俺はこの小牧山城城代蜂屋頼隆!!この俺の最後に相応しい!!」


そう叫ぶと、蜂屋頼隆は不破光治に向けて斬りかかった。その剣筋は確かに相手を捉えたかに見えたが・・・


「遅い!!」


「うおおおお!!届かないか!!」


不破光治はサッと刀を出して、それを受け止める。まるで相手にならない。そしてそのまま蜂屋頼隆の刀を弾き飛ばす。


「俺の刀が!!ぐあぁぁぁぁぁ」


慌てて脇指を取ろうとするが、その右手の甲に思いっきり刀を突き刺されられた。あまりの激痛と出血。蜂屋頼隆の周りには血が溢れ、そしてそのまま彼は仰向けに倒れこんだ。


「へっ・・・俺の最後はやっぱこんなものか・・・姫様・・・ご武運を・・・」


不破光治は倒れこんだ蜂屋頼隆に止めを刺そうと近づく。蜂屋頼隆は覚悟を決め、目をつむった。目を閉じれば、長い間仕えた織田信長よりたった半年ほどの雪姫の姿が浮かぶ・・・


(姫様は未来ある身・・・あの世で見てまする・・・)


まさに蜂屋頼隆の命もここまでといった時、慌てた一人の斉藤方の侍が飛び込んでくる。それは結果として蜂屋頼隆には幸運を、不破光治には不運をもたらす。


「ふっ不破光治様、一大事にございます。斉藤龍興様が美濃へ撤退いたしました。日根野弘就様からはやく退却するようにと!!」


「何だと!!どういう事だ!!もう城は落ちるのだぞ!!」


不破光治がその侍に掴みかかった。


「北畠雪の部隊が奇襲をかけ、後方部隊から切り崩されました!!斉藤飛騨守様の部隊も統制を欠き反撃できません!!あとは不破様だけに」


「あの北畠の娘か!!いいように遊ばれおって!!」


その会話を、倒れながら蜂屋頼隆は聞いていた。


「・・・さすがは我が姫様じゃ・・・てめえらの負けだ・・・グッ!!」


「黙れ!この北畠の犬め!!」


斉藤方の兵士が息も絶え絶えの蜂屋頼隆を蹴り飛ばす。だがすぐに不破光治はそれを制した。


「やめろォ!すぐにその男を手当てしてやれ。今その男を死なせてはならん!!」


「何を言われますか!!この男は敵にございます!!」


不破光治はまわりの味方に諭すように話しかける。


「今殺しても我らも雪に攻められてお終いじゃ。取引を行う。なんとしてもここから脱出するぞ!!今の城の情勢は!!」


「はっ、城内の北畠勢の抵抗はだいぶ弱まっております」


「よろしい!!時間稼ぎに終わってよい。城門を閉ざして外の北畠兵を入れさすな。後はこいつに頼む!!」


不破光治はズカズカと倒れている蜂屋頼隆に近づく。


「今すぐ城内の抵抗を止めさせろ!!悪いようにせん」


「ぺっ、誰が言うこと聞くか」


「なら城に火をつけお前達を道連れに死ぬだけよ。この大雪とはいえ、火はついたらなかなか消せぬぞ。さあ城代殿、決断なされよ!!」


蜂屋頼隆は激痛に耐えながら、必死に頭を回転させて考える。


(・・・敵の言う事うんうん聞いてなにが武士ぞ。だがこの城は姫様が丹精こめて作られた居城。それに城兵も姫様からお預かりした大事な兵・・・)


しばらく考えた後、蜂屋頼隆は決断を下した・・・




「雪姫様、敵兵はあらかた片付けました。さあ小牧山城へ」


その頃大雪が降る中、龍興の軍勢を退けた雪姫達は、森可成と合流し斉藤飛騨守の軍勢の掃討にあたっていた。飛騨守勢はまとまりがなく、反撃も散発的で効果がなくそのまま逃げ始めている。


「分かりました、そろそろいいでしょう。いざ小牧山城へ向かいます!!皆さん!!まとまって行きますよ!!」


「オオ!!」


雪姫の号令の元、まさに今から城へ向かおうとした時、小牧山城から一人の侍が降りてきた。それは小牧山城に攻めている不破光治の使いの者であった。直ちに雪姫幕閣の緊急首脳会議が行われる。


「使いご苦労様です。まずあなた方の要求を聞きましょう」


雪姫はその使いに優しく声をかけた。先ほどの修羅の如くの活躍ぶりとは無縁の姿。思わずその後光に使いの者も頭を下げる。


(・・・なんという貫禄じゃ。油断すると取り込まれる・・・)


「はっありがたきお言葉。わが主君は今いる城兵と城を明け渡す故に美濃まで安全な撤兵を求めております」


「・・・一応聞きますが、もし断ったならば・・・」


「我ら不破勢は城を枕に討ち死にする覚悟であります」


(つまりは人質ですか・・・ともかくまだ生きている者達がいるのね。助けないと)


雪姫に副将である細野藤光が近づく。


「姫様、非情でありますがここは城攻めを。城兵も覚悟を決めておるでしょう。おそらく城攻めには斉藤勢でも有数の手の者達。ここで無傷で逃がせば後々厄災が起こるでありましょう」


すかさず今度は森可成が割って入る。


「何を言うか!!蜂屋達を見殺しには出来ん。ここで見捨てては全軍の士気にも関わる!!」


雪姫は決断に迫られた・・・だが彼女は全く迷うことはなかった。


「和睦を受け入れます。これ以上の戦いは無益です」


「はっありがたき幸せ。ならば早速誓詞血判を!!」


北畠勢はこの決断を概ね喜びをもって受け止めている。なにせもう殺し合いもしなくて済むし、小牧山城も城兵も無事だ。


(雪姫様はお優しい・・・何かあったら荒事は俺がしなくてはならないな・・・この戦国の世、そうそう甘い事ばかりも言ってられぬ・・・)


ただ細野藤光はそう心の中で思った・・・




和議が成立した後、直ちに不破光治達は城から退去した。下手に居座って気が変わっては大変なことになるからである。


こうして夕方には雪姫は小牧山城へ入城した。城はボロボロになっていたが、なんとかかんとか形をどうにか留めていた。


「さあみんなで倒れている者の手当てを。私も手伝います」


雪姫は馬から飛び降りて、負傷兵に寄り添う。怪我した者達は泣いて喜ぶ。この辺りの地遣いが人気を集める要因であろう。


「・・・ゆっ雪姫様!!」


「その声は・・・蜂屋ですね」


蜂屋頼隆は雪姫のもとに駆け寄り、土下座した。


「敵に降伏した責はすべて私にあります。腹を・・・」


「貴方は立派に戦いそしてよく耐えてくれました。私は嬉しく思いますよ。」


「ははっありがたき幸せ。一生ついてまいります!!」


その様子は感動的であった為、細野藤光はもはや斉藤勢追撃を言う事を出来ないでいた。


(張良と陳平のようにとても手打ち破りしろとは言えないな・・・)


こうしてわずかに残っていた、手打ち破りして斉藤勢追撃の可能性は無くなった。こうして北畠勢は小牧山城をどうにか守り切った。斉藤勢は敗走したが、小牧山城を一時占拠するなど意地を見せた。


おびただしい犠牲を出しながら尾張北部の戦闘は大方終了し、残る大勢力は桑名方面を残すのみになった。


この日の夕刻・・・まず斉藤義龍の軍勢が小牧山城攻略の失敗を知るのであった・・・



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