小牧山城攻防戦6
さてさて、物語の舞台は再び移動する。雪姫が着陣しているこの場所からは、小牧山城から出ている煙や合戦の音も聞こえてくる。
雪姫を中心とした北畠勢千五百は、整然と整列し合戦の時を待っている。朝からチラチラと振っていた雪は、とうとう本降りになってその場を舞う。空も真っ白だ。
純白の鎧と葦毛の馬に乗っている雪姫のその姿は、周りの景色に隠れるかのように白かった。しかし顔は熱でもあるのか赤く染まる。そして彼女は、一歩前に馬を出し叫んだ。
「敵も聞け!!味方も聞け!!斉藤勢一万と言えども男子は一人もなく候!!掛かれーーーーー!!!」
「オオオオオオ!!!」
雪姫の合図と共に、部隊は大きな雄叫びをあげながら怒涛の如く前進を始めたのであった・・・
「斉藤龍興様、敵の援軍の北畠勢が動き出しました!!!ただこの大雪で視界が悪く、これ以上動きがつかめません」
斉藤龍興はニヤリと笑みを浮かべ、手を叩いた。
「ついに来たか!!どうせ小牧山城の包囲を破りに来たんだろう。横から突いてやる!!皆の者、陣をから出る準備をしろ」
斥候からの報告を聞いた斉藤龍興は、すべて計画通りだと思った。後は自分の部隊がその援軍を襲えば、武功は得られるはず・・・だったのだが・・・
「・・・まったく龍興様は人使いが荒いな・・・」
「ブツブツ言わず、とっととしろ!!」
一人の足軽が鎧を着こんだ侍に怒られている。斉藤龍興勢の陣の一番の外側・・・ここは今まさに出発の準備に追われていた。作戦の漏洩を恐れてか、末端にまでは情報が下りてきていない。その為、言われるままに動くしかなくどうしても混乱してしまう。いつの時代も下っ端は辛いのである。
「あーあーめんどくさい。早く命令出す方にならないとな」
そのの足軽が文句を言いながら、出発の準備をしていた。その時、何か彼の耳は音を聞いた。
「・・・うん、なんの音だ??」
遠くから何か聞こえるような気がする。その方向を見てみたがあいにくの大雪の全く視界が効かない。しかしその音はどんどん大きくなっていくようだ。
「・・・この音は、まさか・・・」
その足軽だけではなく、ほかの多くの者達もその音に気が付いたらしく、音が出ている方角を見始めた。そして人や馬の声が確認した時には、もう手遅れであった・・・
「・・・!!てっ敵襲!!!敵だ!!!うわーーー!!!」
純白の鎧を着こんだ雪姫が、真っ先に敵陣に切り込む。そして振り下ろす槍が敵兵を襲う。
「一番槍は雪姫様じゃ!!者ども!!遅れるな!!」
細野藤光は怒号をあげながら後に続く。北畠勢は一気に斉藤龍興の陣に殺到する。陣は大混乱に陥ってしまった。
雪姫軍襲来の方は瞬く間に斉藤龍興に伝えられた。
「クソーーなぜここまで接近を許した!!」
「そっそれが折からの悪天候で視界が悪く、見張りが疎かに」
「とっとと押し返せ!!」
斉藤龍興は思いっきり床几を蹴り飛ばした。ここに至って計算がくるってきたのだ。
「皆の者止まらず進みなさい!!!狙うは奥にいる偉そうな武将のみ!!雑兵には構うな!!!」
雪姫が槍を振るう。そして部下達がそれを囲みながらどんどんと前進していく。魚鱗・・・というよりも鋒矢の如く陣形は細く尖っている。ただ大将の雪姫が前線に出ていて危険であった。
「雪姫様、ここは危険であります。一旦後ろへ」
「私が前に出ることで士気をあげなくては・・・フン!!」
雪姫が槍を振るい、飛んできた弓矢を叩き落とした。ここはまさに前線のど真ん中。常に死神が獲物を探し彷徨っている。見染められたら終わりだ。
「分かりました。なれば我ら全力を持って前に進みまする。お命お預けいたしたお預けいたした!!」
真っ白な鎧に包まれた雪姫の軍勢は、返り血に染まりながらも足は止まらない。もう本陣まであと一息であった・・・




