小牧山城攻防戦
揉めにもめた軍議から一日たった朝。冬の寒い空気の中、ゆっくりと夜が明け始める。だが冬の重い雲が漂っており、あたりはまだ暗い。
「不破光治様、兵の配置が済みました・・・」
ここは城攻め方の不破の陣。一人の屈強な侍が、馬に乗っている不破光治に駆け寄り報告した。その報告を受けている不破の顔は暗く重かった。
「ご苦労、だが此度の出陣は取りやめようかと思う。この兵数で力攻めは・・・」
前日の軍議ではかなり勇ましい発言をしていた不破であったが、さすが落ち着いてくると不安がよぎってきた。それになにより自分に付いてくる兵を無駄死にさせるわけにはいかない。
「不破様、差し出がましいかと思いますが、さりとて攻めなくては、戦意不足だのなんだと揚げ足取られて失脚するだけ。そうすれば結局同じことかと」
不破光治はため息をついた。
「やれやれ、どっちにしても難儀この上ない」
「不破様、一体斉藤家はなぜこんな事になってしまったのでしょう」
「・・・策、謀、謀略、それらをやりすぎたのだよ・・・」
斉藤道三は巧みな策謀で美濃一国を分捕った。そしてその道三をも息子の義龍が倒した。その過程には様々な策や謀があり、まさに魑魅魍魎の世界。味方と思ったら敵に回り、敵と思った相手と今日手を結ぶ。
美濃国内のこの争いは、家中内のまとまりを欠く結果となっていた。義龍の眼が光っている時はまだいいのだが、居ないと途端にこの惨状である。
また尾張領内で取り立てて組織的な抵抗が見られなかった事で、北畠家に対しての奢りも見られた。それらの結果でこれである。
「よし!これ以上話していてもいたしがたがない。押し太鼓を叩け!!しかし俺はなにと戦っているのだろうか・・・」
不破光治の陣からは押し太鼓が叩かれ、兵士たちが声をあげて小牧山城に押しよせようとしていた。
その押し太鼓の音は、離れた小牧山城内にも届いた。既に臨戦態勢にある城兵の緊張感はさらに高まる。城兵は少ないが士気は高かった。
「蜂屋頼隆様、いよいよですな」
兵士の一人が留守居役の蜂屋頼隆に語り掛けた。彼はヒューと口笛を吹く。
「やれやれ、敵さんはやっぱり来るのか。いいか者ども、兎に角簡単に落とされる訳にはいかん。粘るぞ!!」
「・・・勝てるとは言わないんですな?」
「ふっ、俺は出来ん事は言わんのでな。つまりは雪姫様の為に皆命を捨てろってことよ。すまんな」
「姫様なら必ず助けに来ます・・・と皆思ってます」
絶望的な中、不破方の軍勢の声は更に近づき、衝突はもう間もなくであった・・・




