皆、勝利を目指して
小牧山城に斉藤家の大軍迫る!!
この報は、瞬く間に尾張の国の拠点である清州城に届いたのである。
「犬姫様!!!!あっ・・・犬姫臨時城代代理様!!!!一大事にございます」
林秀貞が息を切らせながら犬姫達が居並ぶ大広間に飛び込んできた。今、犬姫や市姫、そして北の方達、北畠具教の妻は溜まりにたまった事務仕事をこなしている最中であった。
そして犬姫は呆れた顔を浮かべる。
「どうもその呼び名・・・馬鹿にされてるような・・・」
「そんな事はこのさいどうでも!!斉藤家の大軍がこっ小牧山城に向かっております」
「なんですって!!」
その報告はまさに北畠家の尾張支配が終わる (ここギャグなんで笑うところですよ)可能性を告げていた。すぐさま犬姫は火縄銃を手に取り、立ち上がった。
「直ちに出陣!!小牧山城に向かいます!!」
これには他の者達が大いに驚いた。真っ先に妹の市姫が止めに入る。
「お姉様、落ち着いてください。私たちではどうにもなりません」
「清州城にはほとんど兵がいません。ここはご辛抱が肝要!!」
林秀貞も一緒になって止めている。清州城の兵はほとんど北畠具教に付き添って桑名に向かっていた。その為、ここにいるのはごく少数の兵と女子衆だけである。こんな少兵でもし野戦にでもなったらひとたまりもない。
「えーい離しなさい。わらわはとにかく小牧山城に向かいます!!」
市姫が必死な表情で姉の犬姫を掴んでいる。このまま行ってしまったら、本当に死んでしまう。しかし、犬姫の興奮は収まらない。
その様子を見ていた、正室の北の方はスタスタと犬姫に向かうと・・・
バチーーーーーン!!
乾いた音が響いた。北の方は力いっぱい犬姫の頬を引っ叩いたのだ。
「落ち着きなされ!!あなたは城代なのですよ。あなたは慌てて動けば、皆死んでしまいます。貴方はあの織田信長の妹なのですよ、よく考えなされ!!」
流石にこれには犬姫はこたえた。ようやくシュンとなり、ジタバタとした動きが収まったのである。
「・・・ごめんなさい・・・出陣は取りやめ籠城の用意をします・・・」
北の方はパッとした笑顔を浮かべる。
「はい、分かりました城代様。さあ皆の衆、兵糧を掻き集めるのです。味噌、塩も忘れずに。殿が必ず戻ってきます。それまでがんばるのです」
こうして犬姫が決断し、それを北の方がフォローする形になったのである。北の方の指示は細かく丁寧であり、兵たちはキビキビと動き出した。それを見ていた林秀貞は感心した感じで頷く。
「流石は北の方様。だてに歳を取っておらぬ、落ち着いたものよ」
あっ、それは北の方のとって禁句だって。ほら、北の方が詰め寄ってきたよ。
「林殿、何か言いましたか」
「いや、その・・・犬姫様より一回り歳がいっているだけあって、貫禄が・・・ぎぁぁぁぁぁ」
「おのれ一番気にしていることを!!!まだ私は二十台よ!!!!!」
どうも林秀貞は口が滑るというか余計なことを言う癖があるのか、頭は良いのだがこういうトラブルがよく起こるのである。
まあそれはともかく、清州城残存兵は籠城を選択し、もし小牧山城に何かあれば尾張最後の砦として、殿が帰ってくるまで持ちこたえる決断をしたのである。
鳴海城にも斉藤家南下の報が届いた。鳴海城は森可成が城主を務め、三河の松平家警戒の拠点である。そしてここ鳴海城の話はかなり駆け足でいきます。
「おのれ義龍め!!」
森可成はその報告を聞いて吐き捨てるかのように言った。周りの者は慌てふためいている。
「森様、いかがいたしましょう。このまま小牧山城、そして清州城が落ちれば我らは袋の鼠!!」
「直ちに支城から兵をここ鳴海城に集めよ。ただ松平元康は油断できぬ相手。夜の闇に紛れて、気づかれぬように。何人集まるか!!」
「松平家の動きもありますので、兵は残さねばなりません。良くても百人ほどかと」
「充分よ!!さあひと暴れしてやろう!!!」
森可成は自慢の手にした。彼は槍の名手として名高い。
こうして尾張内の主だった武将達は各々勝利を目指して動き出したのである。ただその時には斉藤家主力部隊はもう小牧山城に達していたのである。
しかし、ここで斉藤家内部でゴタゴタが起こり始める。そのゴタゴタは些細な事からから始まり、そして大変な事態になっていくのてある・・・




