いざ桑名へ
斉藤義龍について皆さんから多くの意見を頂き感謝しております。
今年も冬の季節へとなっていた (この文章書いている今は梅雨で暑い!!) まあそれはともかく冷たく乾いた空気が北畠具教を包む。城の中にいるというのに彼は震えていた。何しろ清州城は突貫工事であちこち隙間風が絶えない。仕方がないので布団をかぶっている。
「うう寒い、寒いぞ。なんという寒さだ。ファンヒーターとかストーブないの?」
傍に仕えているモブが呆れて言った。
「この時代にあるわけないでしょ。しかし殿、いくらなんでも大袈裟すぎますぞ」
「俺は寒がりの暑がりなんだよ!!」
「いくらなんでも情けなすぎます・・・」
相変わらず北畠具教は暢気なものである。しかしこれでも伊勢・尾張を手中に収める大大名であるのだが、傍目から見るととてもそんな権力者に思えないのである。
しかしそんな暢気な日々は終わりに差し掛かりつつあったのである・・・
「殿、殿ーーー一大事にございます!!」
北畠具教の元に、林秀貞が飛び込んできた。冬だと言うのに汗が吹き出し、とても慌てている。
「りっ龍が動き出しました。斉藤義龍の兵、およそ一万が木曽川沿いにそって南下中とのこと!!」
北畠具教はひっくり返ってしまった。恐れていたことがついに始まってしまったのだから。
「おっ俺の落ち着いて平和な生活が・・・」
「ってかさんざん警告していたじゃないですか。ともかく殿、皆が待っております。さあ大広間まで!!」
林秀貞に引き摺られながら、大広間まで運ばれていった・・・
「ほらみんないますよ。入ってください」
「こら、無理矢理放り込むな!!」
清州城の大広間には主要な武将達が集められ、独特のピリピリとした緊張感が張り詰められていた。そこに北畠具教が引き摺られるながら放り込まれた。皆、頭を下げる。
鳥屋尾満栄ら伊勢側近衆、林秀貞、村井貞勝ら奉行衆、そして美しい三人の妻達・・・北の方、犬姫、市姫らである。
「殿、いよいよ決戦でござるな」
「既に手筈は整っています。さあ出陣を!!」
(だからなんでみんなこんなに攻撃的なんだよ!!俺は平和に暮らしたいだけなのに!!)
いけいけどんどんな家臣達を制する形で鳥屋尾満栄が発言した。彼は今や北畠家や旧織田家家臣のなかで一番の発言力のある武将になっていた。
「斉藤義龍の策は既に判明しております。既に桑名には手勢を置いておりますが、桑名口を抑えられる前に我々もそちらに向かいましょう」
「相手、一万の大軍だって言うじゃないか。こっちは何人いけるの」
「先発の手勢と我ら本隊合わせて五千で迎え撃ちます」
「半分しかいないじゃないか!!!ぜっっっったい無理だぁぁぁぁ」
「なにを弱気な!!桑名も防御は早くから固めていますし、敵も木曽川を超えての渡河作戦になりますれば、そう怖くはありません。雪姫様にもこの情報を早馬で伝えてあり、蟹江城を守られる手筈。さあ殿、ご出馬を!!」
「ええええ、僕も行くの!!!」
「総大将の馬印なくてなんの決戦でございましょうか!!さあ!!小姓達、殿に別室にて具足を」
「おいこら、勝手に話を・・・いたたた、引き摺るな!!!」
小姓達はまるで物を運ぶかのような手荒さで北畠具教を引っぱっていった。家臣達も立ち上がり、皆部屋から飛び出していった。それを見ていた三人の妻たちの一人、犬姫が火縄銃を手にしながら鳥屋尾満栄に詰め寄った。
「私は殿の護衛役。一緒に出陣を!!」
鳥屋尾満栄は首を横に振った。
「それはなりません。犬姫様は市姫様、それに林秀貞殿らと清州城をお守りください。城を守るもの大事なお役目!!」
「いや、私もついていく!!私を除け者にするつもりなの!!」
どうにも犬姫は下がらない。こういう我が儘・・・いや芯が強いところは兄、信長と似ているなと鳥屋尾満栄は思った。しかし許せば、市姫も北の方もついてきかねない。しばし思案した彼は一つの案を出した。
「・・・犬姫様には清州城の臨時城代代理となっていただけないでしょうか。これは殿の信頼厚い犬姫様にしか出来ぬ事。ささ、まずは出陣する皆に激励を。のう林殿」
鳥屋尾満栄の、おい空気読めという気配を察し林秀貞は犬姫の肩に手をかける。
「という訳ですので・・・えーと臨時城代代理、みんなのお見送りしましょう」
「臨時とか代理とかなんか釈然としないんだけど」
今度は妹の市姫が姉を説得にあたった。
「家臣のみんなはお姉さまに激励されるのを期待してますよ、ね」
どうにも釈然とせず露骨に嫌な顔をする犬姫であったが、林秀貞や市姫に連れられていやいやながら部屋から出て行ったのである。さて、部屋には正室である北の方だけが残った。
鳥屋尾満栄は残った北の方に近づき、耳元で語り掛ける。
「北の方様には内々でお願いしたい議があり」
「なんですの?」
「・・・内密に清州城から脱出し伊勢の霧山城へ向かって頂きたい・・・」




