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姉妹の方向性

犬姫が腕組しながら、ウーンウーンと唸りながら清州城内の廊下を歩いている。


(私が出来ることってなんだろう・・・)


側室ではあるので、殿とは近い立場である。しかしその側室は妹の市もそうである。そして市は秘書として殿に張り付いている。つまり愛情が注がれるはずだ (そうとも限らないのだが犬姫は思い込んでいる)


そしてまだ見ぬ正室の存在。名前は北の方というらしい。かなり殿とは相思相愛の中らしい (犬姫の思い込みです)


つまり何かで目立たないと私の存在が薄くなる。薄くなると今までみたいにはいかなくなる・・・


しかし政務については彼女は特に秀た所はないと自分は思っている。それに市姫とキャラが被ってしまう。それでは・・・


彼女の中でなかなか結論が出ないでいる。その時であった。


パンパンパーン!!!


「キァー!!なんなの!!」


乾いた発砲音が辺りに響いた。犬姫は思わず尻餅をついてしまった。


「これは鉄砲の音ね。何かあったの?」


彼女は立ち上がり城から外を眺めると、兵士達が鉄砲の訓練をしているのが見えたのであった。




「構えーーー!!放て!!!」


火縄銃を構え、膝を曲げた兵士達が一斉に離れた所にある木の的に発砲した。当然バンバンと的に当たる・・・はずが全然当たらず、木の的は健在であった。


「こらお前たち!!全然当たらないじゃないか!!」


隊長らしき男が兵士達にはっぱをかけている。怒るのも無理がない、なにせなかなか上達しないからである。


火縄銃は1543年、天文12年に種子島に伝来した。それから二十年もたっていないのにもかかわらず、瞬く間に日本中に広がっていった。


織田家は比較的早く導入しており、遅れている北畠家の兵に訓練をしているのだが、なかなか習熟が進まないようだ。ちなみに北畠・織田が戦った桶狭間では、あいにくの雨で使用していない。


「いやー、なかなか難しくて・・・」


こう兵士達が言い訳した時、なにか突然周りの空気が変わったような感じがした。どこかから甘い香りもする。そう、この訓練場に犬姫が現れたのだ。


「皆さん、お勤めご苦労様です」


兵士達は慌てて頭を下げる。まさかこんな所に姫様が現れるとは思いもしなかった。


「姫様、まさかこのような所にまで来られるとは。なにか御用がございましたか」


犬姫はジッと火縄銃を眺めている。兄、信長が鉄砲を気に入って早くから家にあった。その時は特に気にしなかったが・・・


一つの閃きが犬姫を走る。それはかなり大胆な考えであるのだが、どうも彼女は即断即決の傾向があるらしい。


「・・・ちょっと私にも撃たせてもらえるかしら」


「えええっっそっそれは!!危ないです!!殿に叱られてしまいます」


抵抗する隊長にすっと近づき、犬姫は上目づかいで甘える。そしてやけに身体を密着させる。これに落とせない男はいないという犬姫の必殺技だ。


「ねっ、お願い」(ハート)


「・・・殿には内緒ですよ」


こうして呆気なく女の色香に惑わされた隊長は、手取り足取り射撃の体勢やら撃ち方を教える。筋が良いのかかなり覚えるのが早い。


「・・・という訳で後は的を狙って引き金を引いてください。反動に気を付けてくださいね。まあ最初なんで当たらないとは思い・・・」



パンパンパーン!!!



まだ隊長が説明の途中にもかかわらず、犬姫は火縄銃を発射した。見事に木の的のど真ん中に当たり、それを粉砕した。


隊長は茫然とそれを見ている・・・






さてまた場面を変えよう。犬姫が火縄銃を撃っている頃、市姫と北畠具教が村井貞勝に無理矢理連れてこられた部屋には、一人の商人のような身なりの男が深々と頭を下げて座っていた。


「此度の戦の大勝、心よりお祝い申し上げます。我等桑名町衆も北畠具教様のような慈悲深いお方が、この尾張・伊勢を治める事を嬉しく思っております」


市姫がボソッと北畠具教の方を向いて呟いた。


「・・・どうせ織田家が勝ったら同じ事を言うんだわ」


「・・・俺もそう思う」


そんな事など桑名町衆の使いの者はまったく意に関せず、ベラベラと話し続ける。それは傍から聞いているとこっちが恥ずかしくなるぐらいのおべっかであった。


(この俺の必殺技、太鼓持ち話術。とくと味わうが良い!!)


しかしそんな町衆の思いとは裏腹に、北畠具教は喜ぶどころがドンドンと引いていっている。身体ものけ反っている。


「あんた、こんなに褒められているのに全然喜ばないのね」


「いやー、前の世界から褒めてくる相手って大体勧誘とかで酷い目にあってるんだよね」


「前の世界って何よ・・・」


これは誤算であった。桑名町衆の使いの者は焦りまくっている。このままでは、町に帰れない。とにかく矢銭をなるべく使わず、北畠具教に食い込んで来いと長老衆からの厳命があったからだ。


(くそーこの俺の話術が通じないだと・・・ならば、これで!!)


使者は持ってきた包みを開けた。そこからは派手な色の反物が姿をあらわしたのである。


「これは市姫様にと持ってきた反物でございます。ほんのお気持ちでございます。どうぞお納め下さい」


しかし市姫は鋭く厳しい声でそれに答えた。


「わらわがそのような物でつられると思うてか!!」


「・・・市姫、よだれが出てるぞ・・・」


「うっ煩いわね!!」


市姫が突っ込みを入れた北畠具教に反論して、ポカポカと叩いている。それを町衆の使者が見逃すはずもない。


(よし、効いた!!意外と北畠具教様は用心深い・・・市姫様から切り崩していった方が賢明か。しかし夫婦仲がなかなか良いな。林秀貞様の情報は正しかったか・・・)


噂話が好きなのか林秀貞はもうあちこちにこの話を広めていたのだ。当然桑名町衆もその情報をキャッチしており、急いで市姫が好みそうな物を入手していたのだ。


「気に入ってもらって恐悦至極。どうぞこれからも桑名町衆をよろしくご贔屓を」


桑名町衆は北畠家の食い込みに成功したようである。これからこの清州と伊勢との流通が激増するのは目に見えている。先に手を打ち、後に膨大な利潤を得る。まずはその一歩だ。


村井貞勝としてはあまり最初から商人に甘い顔をするのはどうかと思ったが、まあ喧嘩するよりマシだと思った。


そしてこの市姫の方が話が通じる、とにかく市姫からという情報は、あっと言う間に彼方此方にそして歪曲して伝わるのであった・・・

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