誤解の始まり
「終わらん・・・」
「あんたが溜め込んでたからでしょ、さあ書いて書いて」
市姫が北畠具教を叱り付けながら、感状書きを手伝っている。もともと筆を使って文字をほとんど書いたこともないのだから、全然進まない。
結局文章の殆どを市姫が書いて、花押だけ北畠具教が書くという事になり、彼女の負担たるや並大抵のものではない。
それでも市姫の書くペースは衰えない。それだけ彼女の能力が高い証左である。しかしそれを持ってしてもこの量は凄まじかった。
襖を直すと言いながら、モブはうまく逃げ出した。が、北畠具教は当然逃げることも出来ず、結局一晩中かかったのである・・・
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次の日の朝、林秀貞は頭を抱えながら清洲城内を歩いている。外は朝の爽やかな風が吹いている。しかし酔っ払いにとってはたまらない朝だ。つまり二日酔い。
「うっ頭が痛い。ガンガンする。流石に飲みすぎた・・・はやく殿を迎えにいかないと・・・」
彼の向かう先は殿の元であった。結局、殿は来なかったので向かい行っていた。
「・・・うーーん、いつのまにか寝てしまったのね・・・」
市姫は、大きく伸びをした後、ウトウトしながら目を擦った。どうにもこうにも頭が上手く回転できていない。記憶が断片的になっている。
「たしか飲み会のあとに・・・この部屋に来て・・・なんかドサクサのうちに秘書になって・・・一晩中書類書いていたような・・・」
ふと見ると、イビキをかきながら北畠具教が大の字になって寝ている。どうも二人とも書き終わった後、寝落ちしたようである。彼女の着衣もそのまま寝てしまったためか乱れている。
(あらいやだ、私、髪も着物もグチャグチャじゃない。こんな所人に見られたら・・・)
その時であった。突然、部屋の襖が開いた。
「殿、おはようございます。そろそろ評定をしますので・・・」
その人物は林秀貞であった。彼は朝から奉行衆の集まりに北畠具教を呼ぶため、痛い頭を擦りながらこの部屋に立ち寄ったのだが・・・
「いっ市姫様、なぜここに・・・こっこれは・・・もうそんな関係になっているとは・・・」
寝ている男と寄り添う女、これはもうどう見てもアレがソレでつまりそう見えるのだ。
ワナワナと市姫が震えていたのも一瞬であった。彼女の羞恥心は爆発した。
「!!男は出て行けーーーー!!!」
「わあああ姫、落ち着いて!!」
狼狽する林秀貞にあらゆる物が投げつけられた。それこそ色々な物を。なんとか交わしていたが、流石に持ち堪えられず、顔面に硯(危ない!)があたりその場にひっくり返ったのであった・・・




