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お仕事は計画的に

夜の清洲城は暗く、静かであった。つい一週間まで戦場であったとは思えないほどにである。


市姫は一人城に戻ってきたが、別にこれといってなにも予定がある訳でもない。トボトボとあてもなく歩くしかなかった。


(戻っては来たものの、みんなまだ飲んでるし・・・あれ、この光は?)


誰もいない城の通路を歩いていると、一つだけ光が漏れている部屋を見つけた。そして、まるで引き寄せられる虫のようになにも考えずに近づいていく。そこからは男二人の声が聞こえてくる。



「うーんとこの木下藤吉郎とかいうのは、柴田隊に入れて・・・」


「殿、だからダメですって。柴田殿と相性が良くないので能力が発揮できないです。とくに佐々殿とは犬猿の仲。はいやり直し!!」


「うわーなんだよ、これ。パズルみたいじゃないか。全然進まないぞ。ああ飲み会が終わってしまう」


そこにいたのは、北畠具教とモブであった。この二人は評定が終わった後、委任作業をするべく残っていたのだ。もっとはやく終わるはずが全然進まず、ごらんの有様だよ!!


(まだ仕事をしていたのね、みんなが飲み遊んでる時も・・・)


部屋を覗き込んでいた市姫が、一応だが感心した。意外とやるじゃんと。


「くっ・・・誰かこういうのが得意な人がいたら、俺が楽できるんだが」


北畠具教は頭を掻きながら呟いていた。家臣団がほぼ倍になっており、もはや彼の手で扱いきれないほどになっている。伊勢時代は鳥屋尾満栄が(殿がしない為)そういった細々とした事をしていたが、さすがの彼も尾張家臣までは知りようがない。


どうも北畠具教は、うまく人をポジションにはめる事のは苦手のようである。ぶっちゃけて言うと行き当たりばったり・・・


(ふーん、なかなか頑張ってるのね)


市姫が少しだけ力を入れて、襖を開けて覗いている。そしてちょっとだけもたれ掛かった、ほんと少しだけだよ。しかしその瞬間、襖をメキメキと音を立てて倒れだした。なにせ突貫工事で予算もケチっているのであちこちいい加減に作っているのだ。今の清須城はハリボテの欠陥住宅のよう。


「ちょっと、これなんなの。キャァァァァァ」


そのままドーンと部屋に市姫は襖ごと倒れ掛かった。もくもくと埃が舞う。あまりに突然の事で北畠具教は呆然とするしかなかった。


「ちょっとなんなのよ、これ」


「えーと・・・たしか市姫だっけ。一体どうしたの?」


「・・・それは・・・」


市姫は思わず口篭ってしまった。まさか飲み会でみんなと打ち解けられないから帰ってきたなんて、恥ずかしくて言えないし。なんとか体裁の良い言い訳を考えなくては・・・


「えーと・・・あんたが来ないから見にきたのよ!!」


「おっ殿、なかなかやりますな。もうそんな仲になっていたんですな、痛!」


投げつけられた物にあたってモブはその場でひっくり返ってしまった。なるほどなかなかのじゃじゃ馬だと北畠具教は思った。


「そんな事言ってもさー、これなかなか終わらないんだよ」


「なにやってる訳?人事配置表?ちょっと見せて・・・もうめちゃくちゃじゃない!だからこうして・・・」


テキパキと組織図を埋めていく市姫。家臣の名前は北畠具教がすでに書き出してあったが、それを上手く考えて配置出来る能力が市姫にはあるようだ。


「おーすごく的確に仕事やりますな、殿とは大違いですな、プッ。では私は襖を直してますよ」


そう言ってモブは席を立ってしまった。そして、そうこうしている内に、組織図表は瞬く間に埋まっていった。市姫の思わぬ能力に北畠具教も舌を巻くしかなかった。


「・・・はい、これで終わり。こんな物かしら」


出来上がった組織図表を北畠具教はまじまじと見つめる。すごい、ばっちりはまってる・・・


「おお凄い、完璧だ。そうだ、これからも俺の仕事手伝って。そうだな、秘書でどう?」


市姫は思わずキョトンとしてしまった。何故なら今まで自分が必要とされた事などなかったからだ。


「あのーー私織田家の人間だったのに手伝っていいわけ。それに私は只の姫なのよ?」


「・・・? なんでダメなの、いいじゃん。君、能力あるし」


そう言って北畠具教は市姫の金髪の頭をポンポンと叩いた。温かい想いが市姫の身体を包む。この想いに身を任したくなってきている。


「良い感じの所、失礼しますよ。じゃあ次はこれっと!」


モブは今度は膨大な量の書類を持ってきて、目の前に置いた。


「なっなんなのだ、これは!!!」


「この前の戦の感状を殿がなかなか書かないから溜まりに溜まっていて。これも今日中にお願いします」


市姫が北畠具教の胸倉を掴む。


「あんた、なにやってるのよ。感状渡さなかったら家臣の皆が不信に思うでしょ!!もう、私も手伝うわ」


なんだかんだ言いながら、秘書という仕事を与えられたのが嬉しかったのか、やけに市姫が張り切っている。


「うう・・・飲み会・・・」


結局、北畠具教は飲み会に行けず、市姫と徹夜で膨大な量の書き仕事に没頭していくのであった・・・



清洲城の夜は始まったばかりである・・・

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