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冬の嵐作戦始動

六角家が大惨敗した野良田表の合戦から、一ヶ月後の稲葉山城・・・


稲葉山城は、斉藤家の居城であり巨大な石垣と曲輪をそなえる城である。その斉藤義龍が居るこの城には、斉藤家主要の武将達が集まっていた。


「・・・殿、そろそろ評定を始めまする。宜しゅうございますな」


「うむ・・・今日は織田攻めの重要な会議だ、皆の忌憚のない意見を聞かせてもらいたい。なお作戦についてはこの日根野弘就と竹中重治が立案した」


家臣達が一斉に視線を送った。それは斉藤家重臣であり家臣達からも信頼が厚い日根野弘就ではなく、若い竹中重治に集中した。それも当然であろう、なにせまだ16歳の若者である。それが斉藤家の重要な作戦まで介入しているのだ。


(むっこの若造・・・斉藤義龍様にここまで食い込んでおるのか)


嫉妬や羨望の視線などこの若者は一切気にしていなかった。まるで女の様に整えられた端正な顔を華奢な身体。しかしそんな竹中重治に斉藤義龍は作戦を託したのである。


「では、説明させていただきます。当方の大儀名分として斯波義銀様の尾張守護復帰を掲げます。すでに斯波義銀様はこちらで保護しております」


これには周りの家臣達から苦笑の声が聞こえてきた。美濃守護の土岐頼芸を美濃から追い出し、下克上を果たしたのは他ならぬ斉藤家なのだからである。それが今度は尾張守護を助けるのだ。噴飯物だがなるほどこれなら筋を通るのである。


「そして当方が用意できる兵力は一万、そして偵察によると尾張に展開している北畠派遣軍は三千、旧織田家は四千。兵力にそこまでの差はありませぬ。そして北畠家は伊勢に予備兵力を抱えております」


これらの話を義龍の嫡男、龍興がじっと聞いていた。彼と同じぐらいの歳の竹中重治が嫡男の自分を差し置いて主導的に話を進めているのが我慢が出来ない。これに噛み付いた。


「これでは到底我等は勝ち目はないではないか」


いちゃもんをつける龍興を竹中重治は全く見ずに話し続ける。彼はただ義龍だけを見ている。その目はまるで惚れている男を見ているようであった。


「そこでまず尾張内において、おおいに風説を流します。斉藤勢は大垣を経由して西から攻めると。そして実際に二千の兵で西から進軍します。進軍日は十二月。そしてこれに老人や子供など掻き集め本隊のように偽装させます」


「そんな兵では、北畠勢七千には適わないぞ!!」


「これはあくまで陽動でごさいます。木曽川の手前、羽島あたりで陣を構えます。北畠本軍をここに釘付けをさせます。そして残りは八千は東から小牧山を攻めまする。城攻めに五千、後ろに三千の二段構えでございます」


「はて、兵三千を残す意味はあるのか。一気に攻めれば良いだろう」


「皆で攻めれば、取って返した北畠勢に背後を取られます。この三千の兵がいれば、逆に城の救援に来た北畠勢の側面をつけます。そうそうこれよりこの作戦は北の嵐作戦と呼称しますが、義龍様、いかがでしょうか」


竹中重治はまったく龍興の相手をしていない。そんな態度がますます彼の怒りを買うのである。しばしの沈黙の後、斉藤義龍が口を開いた。


「うむ冬の嵐作戦か、あまり縁起がよくない名前だが良いだろう・・・あと六角家は北近江の浅井勢が動かぬように監視するのだな。あと伊勢と近江の国境に兵を展開させて、北伊勢の北畠勢をくぎづけにすればよかろう」


竹中重治は当主斉藤義龍に深々と頭を下げた。


「御意。さすがは義龍様、御明察にございます。天下一の知将でございまする。あと六角勢は動かないようにするだけでよろしいかと。下手に動くとそここから崩れかねませんので。あとは奪取した小牧山城に守護斯波義銀様を招き居住させ、撤退します。これでわれ等の正当性が担保出来るでしょう」


「まて、竹中重治!!まさかこのまま撤退するのではなかろうな。一気に清洲城まで取るべし!!」


除け者扱いになっている嫡男、龍興が声をあげた。たしかにこのままでは尾張制圧までのプランがないだからだ。この問いに竹中重治がふーと溜息をつき、やれやれといった態度で答える。またそれがイライラさせる。


「殿となんども台所事情の相談はしております。当方の戦力では清須城を取るまで戦えませぬ。小牧山を取られた北畠家は清洲城に篭城するものかと。われ等の兵力では落ちませぬ。そんな事も分からないんですか」


「なんだと貴様!!この場でたたき斬ってやる!!!」


龍興が刀を手に取りまさに斬りかからんとしたが、当主義龍が一喝した。


「止めぬか龍興!!我等の敵は北畠家なるぞ。今味方を斬ってはならぬ!!!」


日根野弘就や周りの家臣達も龍興を押さえ込んだ。評定でこんな事騒ぎをおこせば、斬られても文句は言えないのだが、さすがに嫡男にはそんな事はできない。とにかくなだめる。


「龍興様、堪えてくだされ。竹中重治も悪気があって言っておりませぬ。あとできつく言っておきますので」


しかし竹中重治はそんな騒ぎなどまったく気にしている節がない。とにかくじっと義龍だけを見ている。


「小牧山さえ押さえ込めば、犬山城の織田信清殿も我等に加担するしかなくなります。さすれば北尾張の地侍は皆こちらについたも同然にございます」


犬山城の織田信清は信長の従兄弟だが、桶狭間の戦いでは信長に加担せず所領を安堵される。しかしさりとて北畠にも臣従をしてなく、斉藤にも尻尾を振っていない。


「織田信清か・・・あいつはただの日和見だろうな・・・うむ、これでよかろう、皆もよいな」


家臣団も心境は複雑であった。特に不破光治などの主戦派などはこの作戦は中途半端に写っていた。


(小牧山を取るだけなのか・・・しかし殿が了承した以上反論出来ぬ)


忌憚のなき意見といわれても、ここ斉藤家は斉藤義龍の独裁色がかなり強い。嫡男、龍興ならいざ知らず、部下である自分達は殿の意見になかなか意見しづらい。


結局評定は細かい所の修正はあったが、おおむねこのまま作戦を続ける事となった。皆がそれぞれの思いを抱きながら帰っていき、ただ一人竹中重治だけが地図をひろげなにやら考えている。


そこに日根野弘就が一人現れた。そしてそっと彼の耳元で囁いた。


「・・・お主、女のような色香が出ているぞ・・・ちゃんと隠せ」


「・・・日根野弘就様・・・だっーーーーて義龍様かっこよすぎなんだもん!!」


「おいバカ、ここで素になるな!!」


いきなり、竹中重治は日根野弘就の首もとの着物を掴み、ぶんぶんと引っ張っている。


「苦しい・・・離せ。お主の才覚を買っているんだ。こんな事ではいかんぞ・・・」


「でも、あの常に悪巧みしている顔とか不気味な笑みを見ているとキュンキュンしちゃうんですから!!」


「えっ」 (絶句)


なぜこんな事になっているのか、読者の皆様に説明しなくてはならない。竹中家の嫡男、竹中重治は幼少から知恵才覚にあふれていたのだが、どうも極度の悪人顔フェチらしく、初めて対面した時から義龍にベタ惚れらしい。すこしでも義龍に近づきたくて政務に頑張っていたらそれが認められ、側近として使えるところまで来たのだ。その事実を知っている者は日根野弘就しかいない。おお、なんと作者に都合がよくていい加減な設定!!


なぜ日根野弘就が知っているんだって?義龍の前に言い寄られたからだ!!ちなみに義龍も日根野弘就も衆道のけはないので、それで竹中重治が出世した訳ではない。あくまで非凡なる才能があるためである。


「でも、義龍様の息子の癖に龍興は好きになれない!!なにあの態度!!!」


今度は一転して竹中重治が怒りだした。どうも普段は感情を押し殺しているらしく、その反動でこうなると爆発してしまうようだ。また再び日根野弘就の首もとの着物を掴み、ぶんぶんと引っ張っている


「だから苦しいと言っている・・・龍興様とは揉め事を起こすし・・・ああ、登用したのは間違いだったかな・・・」


薄れていく意識のなかで日根野弘就はそう思っていた。この日の諍いはたしかにこの後の作戦に致命的な影響をあたえていくのだが、それはまたこれから書くとしよう・・・




さてその日の夜、当主斉藤義龍は部屋で一人晩酌をしていた。胸の痛みを紛らわす為、酒量ばかり増えていっている。


(皆は思っているだろうな、何故清洲まで行かぬと。なにせこの作戦は嫡男龍興に手柄を与えるだけなのだからな・・・)


これは竹中重治も知らぬ、義龍だけの秘密であった。早晩自分は死ぬ。もし自分が死ねばたちまち斉藤家は諸国から侵攻を受けるであろう。その前に龍興には勝ち戦の総大将という地位を与えなくてはならない。


北畠具教相手に小牧山城を取り、織田信清を恭順させる。これで諸国は浅井賢政に匹敵する若き勇将が美濃にいると思うであろう。これでしばらく時を稼げる。そうすれば龍興ももっと成長するであろう。しかし下手に清洲城まで攻めて負け戦となればそんな事を言っていられなくなる・・・


これが斉藤義龍の本心であった。


(父道三は息子を大事にしなかった、だが俺は違う。龍興を必ず立派にさせる)


しかしこの思いは今外に広がる星のようであった。つまり雲が出れば全て見えなくなる・・・


作戦決行まであと三ヶ月・・・はたして斉藤義龍は北畠具教を撃破できるのであろうか。作戦は万全を期しているが、しばし勝利の女神とはそんな人間の浅い知恵をあざ笑う。すでにその兆候はでていたが、まだ誰も気付かない・・・


そして作者は思う・・・この作品って主人公斉藤義龍だったかなーと・・・




(美濃の龍対伊勢の北畠具教編終わり)

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