野良田表の合戦・中編(六角義賢vs浅井賢政)
「浅井賢政様、六角勢が渡河をおこない、次々に押し寄せております!!」
「かかったな、よーし全軍とまれ!!これより部隊を二つに分ける。一つは六角勢を食い止め、その間にもう一つが側面より攻め立てるぞ」
浅井賢政はこう叫んで周りを見回した。この作戦の肝は敵を食い止める部隊である。それも襲撃部隊に兵を回す関係上少数にならざる得ない。かなり危険な任務だ。しかし誰かに任せなくてはならない。辛い立場だ。
その時、ひとりの男が前に出た。中年というより老兵に近い身形だが、その目を見るとまだまだ衰えていないように思える。
「どうかその任、この安養寺氏秀におまかせください。六角勢に老兵なりの戦い方をみせてやりますよ」
「よく言った安養寺氏秀。その方に四千ほど預ける。頼むぞ!!」
「はっはっはっ、いやいや半分の二千で結構。今は一兵でも多く殿の元で使うときにございます」
浅井賢政は馬から降り、安養寺氏秀に駆け寄った。
「六角勢は二万は超えておるぞ。そんな寡兵ではお主も死ぬぞ・・・」
「六角なぞ恐れるに足りませんぞ。それにわしには二千も過大な兵数。さあ殿は早く襲撃を」
「安養寺氏秀、すまん。お主の命を貰うぞ・・・」
六角勢で最初に異変に気付いたのは、先陣の蒲生賢秀であった。敵浅井家の動きがどうにも組織的過ぎている。
(逃げている割にやけに敵が纏まっている。なにかおかしい・・・)
負けて逃げる兵とは、きまってバラバラになるものである。それが規則正しく撤退しているのだ。まるで誘い来れているかのよう・・・
「蒲生賢秀様、浅井家の抵抗が急に激しくなりました!!」
撤退していた浅井先陣部隊と入れ替わりに、浅井勢の安養寺氏秀の二千が六角勢とぶつかったのだ。
両軍のぶつかった所では、激しい戦闘がおこなわれ始めた・・・
(ここは一旦、止まり体勢を整えるか・・・)
蒲生賢秀がそう思ったその時であった。六角勢最先端で戦う蒲生賢秀の元に、総大将六角義賢からの伝令が着いた。その内容とは・・・
「六角義賢様から伝言にございます。本陣は宇曽川を渡河し浅井勢に攻撃を開始します。直ちに蒲生賢秀様は前線を押しあげるようにとのこと」
「なに!!本隊が川を越えただと。いかんぞそれは!!罠だ!!」
六角勢の大軍が次々宇曾川を越えて、殺到し始める。しかし出口がない。先頭の蒲生賢秀の部隊が停滞しているためだ。その為、行き場を失った本陣の軍は急速に溢れ始める。溢れた兵が先陣部隊に混ざり始めた。
「このままではイカン!!前線を押し上げるぞ!!」
直ちに蒲生賢秀は先陣部隊に攻勢を指示した。喚声と共に部隊は前線を押し上げて・・・いかなかった(涙)
なにせ六角家最前線で戦っていた蒲生賢秀の先陣部隊は、もう四時間以上休みなく命がけで戦っていたのだ。それなのにもっと攻めろって言っても、それはもう無理な話である。
挙句の果てに指揮統制が違う味方の兵がそれに下手にかかわろうしていたため、現場は混乱していた。相手の安養寺氏秀の二千は、休息も充分で士気も高かった。兵力では六角先陣部隊の方が勝っていたが、それだけではどうにもならなかったのである・・・
「若造どもめ、慌てておるな。兵の動きを見れば一目瞭然よ」
安養寺氏秀はほくそ笑んでいた。彼の率いる精鋭二千は六角先陣部隊と互角以上の戦いを繰り広げている。
「ここまでは上出来、さてここからよ。六角ももっとだ、もっと食いついて来い!!」
浅井賢政の策が少しづつ実をつけ始めていたのである・・・
「なにを止まっておる。とっとと前に出ろ!!」
「それは無理な話でございます。先陣部隊が止まっておる以上、我等に行き場はございません!!」
六角家総大将、六角義賢は慌てふためいていた。とっとと浅井勢を押しつぶす為に全軍で攻め寄せたのに、これでは意味がない。
「殿、後方から次々に味方が押しよせております。このままでは統制が取れなくなります!!」
六角家本陣部隊は、前にも後ろにも進めなくなっていた。そして後ろから次々に味方の兵が押し寄せ、もうギュウギュウ詰めだ。
「なにか・・・なにか・・・嫌な予感がするぞ、これは・・・」
「浅井賢政様、部隊は整いましてございます。後はご命令を!」
この部隊は密かに六角家総大将、六角義賢の本陣の側面にまわった浅井家襲撃部隊約六千。これを浅井賢政が指揮していた。
六千もの部隊が動けば、さすがに気付くのが普通であるが、安養寺氏秀の奮戦、そして六角家指揮系統の混乱により迷彩がされていた。
「者ども!!これが浅井家の命運をかけた一戦よ!!命を惜しむな、突っ込め!!!」
浅井賢政は馬上から刀を振るった。その合図と共に一斉に浅井家襲撃部隊が六角家本陣に殺到を始めるのであった・・・




