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美濃の龍が動く

さて、舞台を尾張の国から動かそうとしよう。作者の私も北畠の内輪の話が続いたので目線を変えてみたかったのだ。市姫と北畠具教が出会った日から暫くのちの夏のある日・・・


ここは美濃の稲葉山城。金華山にある山城であり、堅塁な城である。その城内に斉藤家の面々が集まっていた。


中央の上座にどーんと座る男がいる。斉藤義龍である。歳は北畠具教とそんなに変わらないのだが、雰囲気が全然違った。


濃い髭を蓄え、眼光は鋭く厳しい。顔色はややドス黒いのが気になるが、まさに乱世の戦国大名といったところである。


斉藤義龍は、あえて読者の皆さんに説明しなくてもご存知の方が多いと思われるのであまり細かくは書かないでおく。(作者の知識のなさを隠す言い訳)


端的に書くと、美濃の蝮と言われ、一代で美濃一国を支配化においた斉藤道三 (これには最近、二代かかったのではないかという説もある)に対し謀反を起こしこれを破り、救援に駆けつけた織田信長も破った。


つまりは信長に匹敵する知恵才覚を兼ね備えた勇将であったと思われる。さてそんな彼が主だった部下を集め、意見を聞いていた。


「北畠具教は娘、雪を小牧山に布陣しわが方に対し睨みを効かしております」


「ふっ笑止、小娘ごときになにができようか。いまそこ尾張を取る好機よ」


不破光治が雪姫の話題を鼻で笑った。それは我が方に対し、年端もいかぬ娘で対抗した北畠具教に対する嘲りの笑いも含まれていた。


「さりとて雪なる娘は信長討伐に家中第一の功をあげたともっとぱらの評判。それに織田家臣も大方は北畠につきました。迂闊には攻められぬ」


「それらは風説にすぎぬ、戯言よ」


心配する日根野弘就はしつこく食い下がっていた。あの織田信長を破ったのだ、無視は出来ない。


「・・・二人ともそれまでにしておけ。今から俺の考えを伝え、実行せよ。・・・尾張侵攻の準備に取り掛かれ、冬には動くぞ」


「!!」


今いる家臣達すべてに稲妻のような電撃が走った。それは美濃斉藤家が大きな賭けに出る宣言でもあったからだ。


「殿、お待ち下さい。まだ北畠家の情勢については不明な点も多く、明らかに情報不足であります。それに冬は雪も降り進軍は困難。ここはご自重を!!」


「日根野殿、素破(すっぱ)からの情報によれば北畠家は志摩侵攻をするとか。これは好機でござる。時間がたてば尾張の混乱も落ち着き、逆にこちらに攻めてこようぞ!!」


「志摩侵攻、それは私も知っている。これは逆に北畠の策ではないか、まるで誘き寄せているかのようだ。三十六計にある打草驚蛇の故事にならうべきよ」


二人の行き違いは延々と続いている。そもそもそれは北畠具教に対する認識の差から出ていた。


たまたま漁夫の利的に織田信長を破ったのに過ぎず、今なら充分勝てると不破光治の考えていたが、日根野弘就は真逆であった。


(あの北畠具教という男、うつけといわれていたが奇抜で大胆な策が目立つし、それも悉く上手くいっている。笑裏蔵刀・・・)


「もう議論は必要ない、決まったことをせよ。まず大儀名分をなんでもよいから立てる。そして浅井、松平、六角に密書を送れ、特に六角は最重要である。・・・くっ」


「殿、どうされましたか?」


一瞬、斉藤義龍は胸を押さえた。しかしすぐに手を離し何事もないように振舞う。


「・・・なんでもない。とにかくこの場はお開きよ」


こうして斉藤家にとって重要な決定がおこなわれる評定が終わった。立ち上がり帰りはじめている武将達の多くは高揚していた。北畠はわざわざ兵を分散させようとしている、間抜けな奴らよと。


ただ日根野弘就は不安に悩まされていた。


(義龍様はなにをそんなに焦っているのだ・・・仕掛けが急すぎる・・・)





「グッ、ゲホゲホ!!」


誰もいなくなってから、斉藤義龍は胸を押さえ咳き込み始めた。胸に激痛が走ったが、皆の前ではそれをひた隠しにしていた。それは常人の精神力ではない、まさに不屈の闘志がなせる力であった。


「もうそんなに持たぬかもしれんな、この俺も・・・」


彼の手から血が漏れる。吐血したのだ。勇将も病魔には勝てないのである。その病魔はもうかなり迫りこんでいた。


(もってあと一年あるかないか・・・それまでに息子の龍興を一人前にしなくては・・・)


彼の心配事は息子の龍興であった。歳はまだ15歳と元服したばかり (この作品では都合により史実より歳くってます)であり、心もとない。なにせ放蕩三昧で器量にかけていると家中もっぱらの評判である。


(親をも手にかけたこの俺が息子の心配とはな・・・)


彼は力なく笑うしかなかった。それはどこか空しさを漂わせていた・・・

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