獅子身中の虫
「志摩の国侵攻を許可していただきたい。そして総大将を私に指名していただきたく思いますが」
木造具政の思わぬ発言に、思わずひっくり返ってしまった。えーいどいつもこいつも好戦的だな、まったく。
「ええ!!侵攻ってなにドンパチ始めようとしてるの!!」
木造具政は懐からいくつもの書状を取り出し、それを北畠具教の目の前に広げた。
「志摩の小浜景隆から昨年来から救援を求める書状がいくつも届いておりまする。九鬼浄隆との争いに苦戦しており、殿の手助けが欲しいとの事。そこで九鬼を攻め滅ぼし、志摩を押さえたく思います」
「えっそんな書状きてたの鳥屋尾さん?」
思わず俺は鳥屋尾満栄の方を向いてしまった。今までそうした細々した事はすべて任していたからだ。鳥屋尾満栄は渋い顔をしている。
「たしかに届いておりました。しかし尾張侵攻作戦がある為そのままにしておりましたが・・・木造具政様、今、我等の兵を割くのはいかがかと」
「今の我等は多くの国境に兵を置いているではないか。まず少しでも戦線をまとめ、兵を集中させねばならん」
「さりとてその為に他の国境の戦力を減らせば、尾張は攻められてしまいます」
おいなんかどんどん喧嘩腰になってきたぞ二人とも。そろそろやばいな・・・そんな北畠具教の心配を他所に激論は続いていく。
「今なら三河の松平は力なく、そして近江の六角もこちらに関心もない。松永や三好も大和を押さえたばかりで攻める余力はないはず。時間がたてばそれらもどうなるのか分からないぞ」
「それら勢力は兎も角、美濃の斉藤義龍が黙っていません。隙を見せれば必ず攻めてきますぞ」
「だからこその志摩侵攻よ。志摩を押さえればわが方が警戒の為に置いている兵をあわせて、二千人はいざという時の友軍として使える。これは大きいぞ」
(ああもう収集つかなくなってるじゃんか!!とにかく俺がどっちか決めないと。うん、なんか選択肢が出てきたぞ・・・)
また再び北畠具教の眼下にコマンドが現れた。どうもどっちかを選ばないといけないみたいである。今回は相談する選択はなく、自分で選ばないといけないみたいだ・・・
甲案・・・「志摩侵攻をする!!!」を選択。志摩の九鬼浄隆を攻め、志摩統一を目指す
支持率アップ ・・・木造具政ら北畠武断派
小浜景隆ら志摩の反九鬼勢力
支持率小ダウン ・・・北畠・織田穏健派
支持率大幅ダウン・・・九鬼浄隆(関係断絶、会戦)
民衆評価 ・・・カオスに2ポイント移動
(我が殿様は戦好きなお方だ)
斉藤家の尾張侵攻確率大幅アップ
乙案・・・「今はその時ではない。守りを固めるとき!!!」を選択。尾張の守りを固める。
支持率アップ ・・・北畠穏健派、織田旧臣
支持率小ダウン ・・・北畠武断派
支持率大幅ダウン・・・木造具政(危険水域)
小浜景隆ら志摩の反九鬼勢力
民衆評価 ・・・ロウに2ポイント移動
(我が殿様は消極的なお方だ)
斉藤家の尾張侵攻確率アップ、九鬼氏により志摩統一
「どっちしろ斉藤家は攻めてくる可能性高くなるのかよ・・・見比べるとまだ志摩侵攻の方がましか」
俺の呟きにモブが小声で答える。
「そうですね、木造具政は織田家相続問題で妥協している分、この件では引かないでしょうし」
そうこうしていると木造具政が再び北畠具教の方を向き、頭を下げてお願いを始めた。
「後、志摩統一したなら、志摩国領地の切り取りを認めていただきたくお願い申し上げます」
(それが本音か。いつ敵が攻めてくるか分からない尾張より志摩の方が安全だからな・・・)
鳥屋尾満栄は心の中で悪態をついた。やはり自分の野心からの発言であり、この男は家の為にならないという思いが忍び寄る
さて主人公である北畠具教は腕を組んで悩んでいる。どっちも選びたくないが、どうも選ばないとこの話を永遠続くみたいである。
「うーん・・・うーん・・・仕方が無い、木造具政を総大将にする志摩侵攻軍の編成を認める・・・」
「ありがたき幸せ、必ず攻め落としてまいります!!」
しかし懸念がある。武将のステータスが見える北畠具教にとって木造の武力Cは心配の種である。
(合戦になるんだから武力は欲しい。でも雪姫はこっちにおいておきたいし。しかし北畠家家臣はあんまり武力高くないしな・・・織田家の方ならやっぱりあの人が高いな、この人にしよう・・・)
「えーと、柴田勝家さんもこの軍に入って志摩制圧に協力してあげて」
「はっ?私にございますか」
寝耳に水のような話に柴田勝家は目を丸くした。この北畠具教という新しい殿の考えは自分達の発想の上をいっている。なんて大胆な事を言う人なのだ、まだ家臣になったばかりで裏切るかもしれないのに、なんて自信だ・・・
「兄上それは・・・」
「なになんか問題あるの。柴田さんすごい武力あるし適任だよ。いやならこの話は・・・」
「・・・いえ何もありません。殿の指示にしたがいまする・・・」
うろたえながらも木造具政はこの殿の提案を受け入れるしかなかった。反論したらまた話が振り出しに戻るのを恐れたからである。
(ふっ殿もなかなかやりますな。柴田殿がいれば木造様も好きには出来まい、いい監視役になりましょう。それに織田勢の取りまとめ役の柴田殿と他の織田勢武将との距離を離すことにより、織田勢の反乱をやりにくくした。さすが我が殿よ)
鳥屋尾満栄はふたたび殿の用兵に感心したのであった。大胆さと緻密さに溢れていると。まあ主人公はそこまで深くは考えてはいないのだが。さて木造具政の方は苛立ちが残る。
(くそ、いちいち目障りな兄よ。まあよい、志摩攻略の任は得られた。下手に反対してなかった事にされてはたまらん。それに皆は気付いていないかもしれないが、もう一つこれには策があるのだ。ふっふっふっ・・・)
この木造具政の策は実に彼らしく、いやらしくセコセコしたものだが、それに気がつく者はまだだれもいなかった・・・




