清洲城への道
「えっなに!!父上が今からここに来るって言うの?」
様々な指示を出していた雪姫だったが、その報告を聞いて驚いた表情を浮かべた。まさか父上がこんなに早くここにくるとは・・・
ここは清洲城。織田信長の居城であったところである。しかしその面影はもうあまりない。あちこちは爆発のおかげでボロボロになっており、まだ焦げた匂いも漂う。
木造軍達がヒャッハーしていたが、雪姫達の軍が入城したことにより、城内の治安は急速に回復を始めていた。が、まだまだ油断は出来ない。なにせどこに刺客がいるのかわからないからだ。
「はっ、北畠具教様たっての希望により、これより入城するとの事」
「えらく急かせますね・・・なにかあったのかしら」
雪姫は首を捻った。正直な所、父である北畠具教はどこか間が抜けた所があり、こんな急いで事を進める感じではなかったはずだ。
「雪姫様、気になりますか?」
「鳥屋尾か・・・それもそうでしょう。でも来るとなれば用意もしなくちゃ。あっ、父上のことだから織田方の武将を刺激しないといいけど・・・」
雪姫は夕暮れの空を見ながらボソッと呟くのであった・・・
「なんだと、北畠具教が来るだと!!」
ここは清洲城の外。そこに織田家残党が陣を構え、武装解除はどうするのだとかこれからの身の振り方について、北畠家の使者と打ち合わせの真っ最中であった。そこにこの知らせである。当然、森可成が怒鳴り声をあげた。無理もない、まだ和睦が成ってからすぐの事だ。それなのにノコノコやってくるとは。
「落ち着け!!もう和議は成立したのだ。あまり物騒な物言いは避けよ!!」
怒り狂う森可成を林秀貞が嗜める。たしかに気持ちは分かるが、ここで事を乱しては結局破滅。それだけは避けなくてはならない。
(しかし堂々と来るとはなんと大胆な。これは我等の出方を見るための挑発なのか・・・なにかの策かもしれん。もしや北畠具教という者はうつけを演じていただけなのか・・・)
林秀貞は必死にこの状況を理解しようとしている。北畠具教の行動は何故なのか、そして何のためなのか。それから導かれる答えはなんなのか・・・
まあぶっちゃけお尻が痛いから治療したいだけなのだが、そんな事誰も思っていない。
「北畠具教様がお通りになる。皆の者、頭を下げよ」
本隊から先発している騎馬武者がこう言いながら通っていく。その声に促され、織田家の者達は膝をつき頭を下げる。
「・・・無念、無念じゃ・・・」
ある者はこうした怨嗟の声を、ある者は諦めに近い溜息をつきながら、北畠具教が通るのを待っていた・・・
「殿、まもなく清洲城ですな。おっ、どうも和睦したぼかりの織田勢も見えますな」
こうモブは言った。ムカつく事にどこか嬉しそうだ。しかし北畠具教はもう突っ込む余裕が無い。
「いっ痛い・・もうなんでもいいから城に入って横にならないと」
「えっ、無視して通り過ぎるだけですか」
「見るだけ見とくよ、足は止めないけど。細かい所は明日、明日に」
北畠具教率いる本隊が織田勢の傍を通り過ぎる。皆従順に頭を下げているようだが、隙を見ては北畠具教の顔を見ようとしていた。
(織田信長様を倒した北畠具教とはどんな男なのか。見届けてやる)
森可成がそっと顔をあげた。そうすると遠目だが北畠具教の顔を見ることが出来た。
(この男が北畠具教・・・なんと恐ろしい目をしているのか・・・)
遠くからでもハッキリと分かるほど、北畠具教の目は血走りそして鋭かった。これまで何度も死線を越えてきた森可成も思わず目を逸らし、再び下を向く。
(やはり信長様を破った男よ・・・なんという狂気を感じさせる男なのだ)
柴田勝家もチラリとだが北畠具教の顔を見ることが出来た。
(まだ戦場から解き放たれた緩みなど感じさせぬ・・・そしてどこか哀愁すら感じる・・・これがこれから我らが仕える男なのか・・・)
おもわず柴田勝家は武者震いを感じた。初めて会った男にこんなに心を揺さ振られるとは・・・
(信長様には申し訳ないが、俺はこれからこの男について行くだろうな・・・)
そんな織田家家臣達の思いとは裏腹に、北畠具教は自身の痛みにのた打ち回る寸前であった。必死の表情で馬の手綱を握り、目を見開き顔を強張らせている。
「くっまだか、まだ城に着かぬか」
「殿、殿。目が完全にイッちゃってますよ。普段のほほんとしているだけに余計に怖いです」
「うるさいなモブ。仕方ないだろ!!!」
こうして色々勘違いをさせながら、織田家臣団を通り過ぎ城内に入っていく北畠具教であった・・・




