武田家四天王
甲斐の国、躑躅ヶ崎館。武田家の居城であるここに武田信玄以下四天王が極秘に集まっていた。
「お館様、人払いはすでに終えております」
「では、始めるか……」
周りは夜の闇に包まれ、蠟燭の火がうっすらと夜を照らす。密談するには絶好の日ともいえる。
「上杉家から、甲越同盟を締結し共に美濃の北畠家を討たんと願う密書が届いております」
高坂昌信はこう武田信玄に切り出した。対上杉家の最前線に立つ彼にとっては、上杉家と同盟締結となれば北信濃は安定すると考えていたのだが……
「逆に北畠家から、侵攻してくる上杉家をともに討たんと願う密書が届いております」
内藤昌豊がこう切り出した。散々悩まされていた上杉家を叩くチャンスが来たと、こう思っている……
「……二者択一か……と見せかけてこれはうちには旨味がない罠だな」
「はっはっは、流石お館様ですなぁ。拙者もそう思いまする」
年長者である馬場信房がこう言って笑った。
「ほう信房もそう思うか」
「そもそも上杉家は狼のようなもの。上杉謙信は義の為とかなんとか言っておりますが、何の何のあれば隙あればどこへでも手を出す飢えた狼ではごさらんか」
山県昌景が口を開いた。
「首尾よく美濃から北畠家を追い出しても、今度は美濃の地を巡って揉めるに決まってまする。あ奴らと約束事など信用できませぬ」
武田家からみたら上杉謙信の評価はそうなってしまう。
「美濃で散々やりあった後、回復した北畠家が攻めてこれば兵站がただでさえ伸び切ってしまうのだ。もうひとたまりもあるまい」
蠟燭の炎が揺らめく。今後の武田家の運命を照らすかのように……
再び年長者である馬場信房が口を開けた。
「さりとて北畠家と組んでも、あ奴らに越後まで行く根性はありますまい。間者の知らせによれば、北畠具教は他国侵攻を否定しております」
「我らと北畠家が組めば、上杉家は背後を取られる危険を冒す美濃侵攻を取り止め、越後安定の為再び北信濃目を向ける。そうなれば得をするのは北畠家だけじゃ」
では上杉家と北畠家の戦力を比べてみよう。
上杉家は上杉謙信を筆頭に、柿崎景家・直江景綱・宇佐美定満・甘粕景持ら上杉家四天王に時代は前後するが上杉25将など特に戦闘力に関しては戦国時代最強といえる。〇長の野望で皆さんご存知であろう。
対する北畠家は北畠具教に雪姫、鳥屋尾満栄・細野藤光ら伊勢衆が主力である。なにそんな武将達は知名度がないって?まあ地味なのは否定しない。知名度がある尾張、美濃の両衆はまだ臣下になって日が浅い。
単純に野戦となれば上杉家に分があるであろう。しかし、美濃、尾張、伊勢志摩を抑える北畠家の方が国力があり、特に防衛線となればより北畠家が有利である。
現実にこの前の上杉家の関東進出は序盤は北条家に圧倒したが、長期戦になると兵站が崩壊し撤退する羽目になった。
「結局、北条攻めの二の舞になると?」
「であるから上杉家は何としても北畠家とぶつかってもらう必要がある。負けそう方に支援をしろ。そして延々と戦い続ければ少なくとも上杉家は我らを攻める余裕がなくなる。上杉謙信には手は組まぬが手も出さんと伝えよう。北畠家にもそう言え」
「では、今後は西上野侵攻が主目的になりますな」
内藤昌豊はこう切り出した。近年手は出していたが猛将長野業正が武田家に立ち向かっていた。しかしそんな彼が亡くなり、西上野は武田家に対して抵抗力を弱めている。上杉家の支援もなければ、早晩に決着となるであろう。
「西上野は陽動よ。獲物はもっと大きいものがあるではないか……」




