暗雲
舞台は再び戻り稲葉山城……
姉小路良頼がとくとく上杉家の内情を説明していた。
「……という事にございます」
雪姫が首を傾げる。
「本当なんですかそれ?」
雪姫も若いながらに色々な武将を見たり、知るために勉強もしたがこんな話聞いたことがない。
「雪姫殿、これは真実でございます。現に北条攻め時は関東中からキレイどころの女子を掻き集めて、関東諸将の怒りを招いたほど」
上杉謙信の関東進出は、史実でも一定の成果を収めるも完全掌握とはいかなかった。それだけ北条家の体力は凄かった訳だが、関東を荒らしまわった上杉謙信はその目を西に向けつつあったのである。
細野藤光が口を開いた。
「北畠具教様、上杉謙信が雪姫様を狙っているかは分かりかねますが、飛騨にまで勢力を伸ばしてくるなるといささか剣呑かと」
飛騨とこの美濃は隣接している。上杉家が飛騨まで来ればこれはもう喧嘩は近いと予想された。
「姉小路家はとても我々と戦う力はありませんが、上杉家は強大です。ここで食い止めるべきかと」
「おっほん。細野殿、聞こえてますぞ」
「これは姉小路殿失礼した」
しかしここで雪姫がまったをかける。
「ちょっとどんどん話を進めないでよ。無暗に敵を増やさないで、まずは上杉殿の真意を知ることが大事よ」
「では、使者を上杉家に送りますか」
雪姫がようやく笑みを浮かべた。
「ええ、そうしてください。後、武田殿にも根回しを。二家が手を組んで挟撃だけは避けなくてはいけません。という事で宜しいでしょうか、父上」
「うん、よきに計らえ」
モブが呆れて口を開く。
「一応主人公なんですからもっと主張してもいいかと」
「いやさーほんと雪姫ちゃんと同意見なんだよ。まあここはドーンと任せようか」
「ありがたき幸せにございます。では早速手配します……あと上杉家が飛騨まで来たら姉小路家を……」
「関わりたくなかったけどもうしょうがない。もしそうなったら助けるよ」
姉小路良頼が北畠具教に縋りつく。
「それは有り難い。是非ともよろしくお願いいたします」
「ええいおっさんがまとわりつくな」
こうして関わりたくないのに、結局巻き込まれる北畠具教であった……
それからというもの、甲斐には上杉、北畠の家中の者が入り乱れ激しい駆け引きがおこなわれるのである。




