越後の雄
しばらく後、ここは越後の国、春日山城。
越後の雄上杉家の家臣達が集まり、会議を行っている。中心にいるのは当然、上杉謙信である。
黒く艶がある長髪、そして均整のとれた身体、ぞっとするほど透き通った肌に甘い声……
「ほう姉小路家は姉小路頼綱を人質を出さぬというのか、私も舐められたものよ」
そうである上杉謙信は女の子であったのである。
上杉謙信女性説……八切止夫によって唱えられた説である。曰くスペインのフェリペ二世に送られた手紙に「上杉の叔母」と記載があるのは、叔母とは上杉謙信であるなど、その他色々と傍証があるとの事だが、あいにく証拠が弱いのだが当作品では色々面白くなるので採用してます……
「しかし殿、今姉小路家を攻めるのはいささか無理があるかと……」
重臣の一人である柿崎景家が、勇猛果敢な彼にしては弱気な発言をした。
無理もないのである。先に関東出兵、そして信濃で武田信玄と死闘を繰り広げた後なのである。いくらなんでも国力も兵も回復していなかった。
「ほう弱気だな、直江景綱はどうか」
「拙者も柿崎殿に同心致します。姉小路家を攻めると下手をすると北畠殿が加勢され、かなり面倒……」
直江景綱も流石に攻めるのは難しいと考えていた。だがチラッと謙信の顔を見た。
(……うわーキレてるな謙信様……このままだと無視して攻めかねん。時間を稼がなくては)
「姉小路家を征伐するには、まずは北条と武田との間で和睦しないとなりません。取り合えずそれまではご辛抱を」
「そうは言うが、武田や北条と和睦など無理じゃない?」
「いえ謙信様、我らの力は先の戦いでかなり見せつけました。向こうもこのままダラダラと我らと戦っても利はありません。目を南に向けると思われます」
「南とは……駿河の今川ね」
「はっ、今川義元様亡き後今川家は弱っております。武田は海が欲しいので必ず攻めます。我ら上杉と戦うより容易に思うかと」
「北条は氏真に嫁を出してるから、そうなると揉めるわね」
「我らも策を講じて、南で混乱を起こします。どうでしょうか」
「フフフ面白いわ、では直江景綱に交渉まかせる」
「……うわぁぁぁメンドクサイ事言ってしまった」 (小声)
「なにか言ったかしら。ともかくという事だから皆の者越中攻めの段取りを進めといてね」
そうして上杉謙信は立ち上がった。
「北畠具教の娘、雪姫……戦場をかける一筋の花……私の元に欲しかったの。必ず私のハーレムの一員にしてあげるわ」
「殿……行く先々でキレイどころの女子を掻き集めるのはいかがなものかと……」
「うるさいわね、可愛いものは全部私のハーレムにいれるのよ」
「家中の者も嫁が見つからないと不満が……って謙信様どこへ」
上杉謙信は言いたいことだけ言って去っていった。おそらく自分のハーレムに行ったのだろう。
「殿の女好きには困ったものだ。まさかこんなことになるとは」
「直江殿が兄の晴景様を隠居させたからこうなったんであろう」
「柿崎殿だって賛同したではないか!」
上杉謙信の兄、晴景は病弱で統治能力がなく、女ながら勇猛果敢であり栃山城や黒滝城の戦いで武勇をあげた妹に家中の支持が集まり、ついには家中トップにまで登りつけた。
しかし女ながら大の女好きである事は全く想像していなかったのである。家臣も困ったものだと思いつつも、戦はめっぽう強いため今更どうしようもなくなっていた。
「……まあ武田や北条と戦うより、姉小路家とやるほうが楽だろうし……武田を焚きつけてみるか……いっそ武田を北畠にぶつけるか……」
こう言って直江景綱も立ち上がり武田との交渉を始めるのであった……




