会談
「……ところで細野、聞きたいことがある」
いきなり真顔になった北畠具教に思わず細野藤光が慌てた。
「はっ、何でございましょうか?なにか気になる事でも」
「姉小路良頼って誰?」
思わず細野藤光がズッコケた。
「ご存じありませんか。越中の神保家、そして能登の畠山家を吸収し、三か国の大大名でございますぞ」
「……知らん……そんな大名家あったかな?」
隣に座るモブが小さい声で答える。
「殿が織田信長とか倒していますから、当然周りも史実と変わっていくものですよ」
「うーんそんなものか……」
そう、北畠具教が尾張や美濃で戦っている時、姉小路家は勢力を拡大。いまや北陸の一大勢力となっていた。
「……ですからくれぐれも怒らせないでくださいね、ややこしくなります」
「だがな当主の姉小路良頼がいきなり来るとはなにかある……」
「おお流石殿、危機管理能力が高いですな。某も同意見にて、なにや言ってきても適当に聞き流しましょう」
こうして北畠具教と姉小路良頼のトップ会談がここ稲葉山城で行われるのであった……
………
…………
「これはこれは北畠具教殿。拙者は姉小路良頼と申すもの。何卒ご昵懇をば……」
姉小路良頼が深々と頭を下げる。
「これはこれはご丁寧に。ではお帰りは向こうへ行ってね」
姉小路良頼が北畠具教に縋りつく。
「ちょっとそんな事言わないで、人の話をいてくださいよ」
「ええい放せ。ほらみろなんか魂胆があるんだろ!」
「……いきなり本題でございますが、実は当家は今、越後の上杉謙信に脅されております」
「脅されるとは?」
「ワシの嫡男頼綱が上杉謙信側に裏切りまして、飛騨を攻め滅ぼすと」
「言い方悪いけど息子に裏切られたの?」
「そんな事言いますけど、北畠殿も弟君に裏切られてますではありませんか?兎も角我ら姉小路家は上杉家に屈服するかどうかの瀬戸際。どうかご助力を!!」
「わかったわかった、声を張り上げるな」
急激に支配領地を広げた姉小路家だったが、その支配領内の統治が追い付かず神保家残党による一揆の機運が高まりつつあった。それをどうにかこうにか乗り越えたが、今度は嫡男姉小路頼綱の裏切り。姉小路家は崩壊してしまう危機を感じていた。
「我ら断固として戦いますが、一つ北畠殿にお願いがございます。どうか我らにご加担を!!」
「こっちになんも得ないじゃん。ダメダメ!!」
ところが話はよりややこしくなっていくのである……
姉小路良頼がより声を張り上げる。
「我らが倒されたら、必ず上杉は北畠殿に牙を向けまする!!そうなる前に抑えなくては」
「いやそんなの分かんないじゃん。仮定の話でドンドン先に進めないでよ」
「なんという弱腰、天下の北畠殿の言葉とは思えませんぞ」
「兎に角、ややこしい話はごめん被る」
北畠具教にとっては、こんなめんどくさい話に介入したくはなかった。
いくらこの時代の事をあまり知らない北畠具教でも、上杉謙信の名前は知っている。軍神と恐れられ、北条や武田といったこの時代のエース級大名家に互角以上の戦いを繰り広げていた事を。
「実は上杉謙信の真の狙いは北畠家……もとい雪姫殿にございます」
突然名前を出された雪姫がキョトンとした。
「えっ私?」




