稲葉山城の戦い6
さてさて混乱続く稲葉山城内。彼方此方から炎や煙が上がり、城の統制は急速に取れなくなりつつあった。
「まだか、まだ城内は収まらんか!!」
「はっ、申し訳ございません龍興様」
斎藤龍興は苛立ちを隠しきれないでいた。
「いったい首謀者は誰だ!!」
「それがどうも竹中重治ら一派との事!!」
「竹中だと。あのアル中ごときが。なぜ易々と城内に」
グチクヂと文句を言っても仕方がないのだが、悪い時には悪い事が重なるものである。
「殿!大変です。城外に敵兵が!!」
「なっなんだと!!」
慌てた斎藤龍興が天守閣の窓から外を見ると、確かに遠くに軍勢が見える。じっくりとその旗印を見ると……
「……あの特徴的な雪ダルマの旗印……北畠雪か!!何故あんな所にいる!!」
怒りに任せた斎藤龍興が部下の襟首を締め上げる。
「殿、クッ苦しい……どうやら前線の城が次々降伏しているみたいで……」
「なにっなんと申した!!」
それからと言うもの、斎藤龍興の元にくる報告は最悪なものばかりであった。
「鵜沼城城主である大沢次郎左衛門様が北畠家軍に降伏の模様。むしろそれどころか積極的に加担して居る様子」
「伊木山城も裏切り!!」
「松倉城も抜かれました。最早お味方は総崩れです!」
斎藤龍興は壁を殴っている。
「なんという事だ!!まったくどいつもこいつも情けない!」
こういう事態に陥ったのは元をただせば斎藤龍興になるのであるが、彼はそんな事お構いなしにただ怒り狂うのであった。
そんな彼に一人の老臣が駆け寄り、そっと刀を出した。
「なんだお前、なんのつもりだ」
「……殿、もはやこれまででございます……介錯は私が……」
斎藤龍興は思いっきりその老臣を殴りつけた。
「殿、何をされるのですか!!」
「俺はまだあきらめんぞ。家督を取ったばかりなのに!!」
「しっしかし殿、最早脱出は困難かと」
斎藤龍興はにやりと笑う。
「ふふふ、こんな事もあろうかと、この城にはごく一部しか知らぬ脱出口があるのだ」
「なっなんと……しかし総大将がろくに戦わず逃げ出しては……」
「煩い!!兎に角俺は身の回りの者を連れて、城を出る。飛騨守と合流するのだ。お前達はここで時間稼ぎをするのだ」
「くっ……しかし殿のご命令とあればやぬなし……」
城はますます混乱に包まれ、主亡き城はもはや運命が尽きようとしていた……
数刻後……
竹中重治達は遂に城の中枢、天守閣まで達しようとしていた。しかし今だ頑強に数名の侍が抵抗している。あの老臣もその一人である。
「最早大勢はつきました。命を捨てる必要はありませぬ」
竹中重治は優しく諭すかのように説得しているのだが、無理であった。老臣は力なく笑った。
「ふっ我が主龍興様からは、ついぞそんな優しい言葉をかけられた事はなかった……だが、美濃侍、哀れみで生き恥は晒さぬ」
老臣は刀を振り上げ、竹中重治に斬りかかる。
「まて話せば分かる!!」
「問答無用!!」
「無念やるかたなし!!」
老臣が振り下ろす刀を素早く避け、竹中重治は自らの刀でその年老いた男を斬りつけた。
「みっ見事……酒に溺れた者とは思えぬ太刀筋……龍興様もお主を重宝すれはこんな事には……」
口から血を吐きながら、老臣は倒れていった。
「貴殿のような忠臣を捨て、逃亡する龍興は最早国主とは言えぬ……」
これで稲葉山城の抵抗はほぼ排除されたが、肝心の斎藤龍興がどこにもいない。
「竹中重治様!!どうやらいち早く斎藤龍興は逃げ出した模様!!」
「……分かっておる、どうせそんな事になるとな」
「では、ワザと逃がしたので?」
「北畠雪らがこの城に乗り込んだ時、龍興が死んでいたら俺達は用無し。どさくさに紛れて殺されかねん」
「まっまさかそんな。雪殿は二枚舌を使う方とは思えませぬが」
竹中重治は大きく息を吐いてから、こう言った。
「龍興が生きていれば、まだ戦は終わらん。俺達はまだ必要だからな……雪に合図を送れ!!この城に入城しろと。そして北方城に向かうと!!」
今まさに安藤守就が北方城にて、飛騨守と激戦を続けている。戦いは最終局面へと進みつつあった。




