表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/154

雪姫が敵陣に突っ込んだ!!

今川義元が呆気なく討たれ、浮き足立った今川家臣団は次々に斬られていった。ある者はうろたえながら斬られ、ある者は逃げようとして後ろから槍で突かれた。


「おのれ、よくも義元様を!!」


そんな総崩れの今川勢の中、藤枝氏秋は怒号をあげながら、斬りかかろうとするがもうどうにもならなかった。


「ぐぅぅぅ」


藤枝氏秋も腹を槍で突かれた。凄惨な血の香りがあたりに漂う。


「この者も名のある武将に違いない。首を取れ!!」


無数の侍達が藤枝氏秋に襲いかかろうとしていた。その時、突然藤枝氏秋の眼下に、馬に乗った精悍な武将とその取り巻き達が現れた。


「のっ信長様!!このような前線にまで・・・まだ危険でございます」


さっきまで今川義元の首を取り高揚していた織田家の侍たちが、どよめきをあげる。まさかこんな所までこられるとは。それもまさに神速の速さで。


「・・・の・・・信長だと・・・」


藤枝氏秋は口から血を出しながら呟いた。宿敵信長がこんな所に。斬りかかりたいがこの身体では・・・


「無念だが、この隙に脱出するしかないか。氏真様を助けなければ・・・」


今川氏真は義元の嫡男であり、今回の戦いには参加せず駿府城で留守居している。正直な所、能力は義元には遠く及ばないことは家臣皆分かっていた。


(だからこそ、ここは我慢だ・・・)


周りの侍達が信長に気をとられているうちに、藤枝氏秋は姿を消した。そしてそれに気がつく者もいなかった。それほど信長登場のインパクトは大きかったのである。


「それが義元の首か」


「はっははー、毛利新助が討ち取りました」


信長はギロリと義元の首を見た。血の気が無く顔の相は無念そうである。


「よくぞやった。これでこの戦はわが方の勝利じゃ」


「・・・エイッエイっオー!!」


一瞬の間の後、怒涛のような勝ち鬨が起こった。そうここまでは「史実」の桶狭間の戦いである。しかし、ある男・・・北畠具教の行動によって大きく変わろうとしていた。


その時、一人の侍が慌てて信長達の所に飛び込んできた。それは勝ち鬨を上げ、まさに勝利したかのような雰囲気の信長達に冷や水をかけるかのような内容であった。


「たっ大変です、こちらに敵が迫っております!」


「ふん、まだ今川にも統制が取れている部隊がいたか。しかし義元はもう討たれておる。返り討ちにしてくれよう」


「それがあの旗印は、北畠勢です!!!」


「なんだと!!」




義元が首を取られる少し前の事。ある軍団が颯爽と進軍していた。


「いけーいけー、敵はもうすぐだ!!」


雪姫を先頭にした北畠主力三千は、一直線に桶狭間に向かっていた。正直な所、誰も何故そんな所に向かっているか分からなかった。しかし、北畠具教の指示をうけた雪姫がよく纏め、離脱者無く進軍している。


「雪姫さんよ、もうすぐ言われた桶狭間だぜ」


道案内を引き受けた服部友貞がこう言った。しかし、あいにくの雨と風で視界不良の為、敵の姿はまだ見えなかった。


その時、先発していた物見の騎馬武者がこちらに向かってくる。雪姫たちは一旦行軍を止めた。


「この先、桶狭間にて今川勢と織田勢が戦っております!!おそらく信長のいるものかと!!」


「おお、北畠の殿様の言うとおりか。あの男、なかなかどうしてとんでもない策略家のようだな」


服部友貞が感心したように言う。これは面白いことになってきた。そう思った時、雪姫が馬に鞭打ち、桶狭間に向かって突進していく。


「待て待て、雪姫!!くっ、者ども遅れを取るな!!」


再び動き出した北畠勢は怒涛のごとく前進し、あっと言う間に桶狭間に着いた。雨と風で視界は悪いが今川と織田が戦っているのが分かる。


先頭にいる雪姫がクルリと後ろを向く。純白の鎧を着込み、美しい顔をした雪姫は扇情的な姿である。そのあまりの美しさに家臣の多くは唾を呑む。しかし、そんな美しい姫から激烈な檄が飛ぶ。


「皆の者良く聞け!!これより織田勢に突っ込む。遮二無二に信長の本陣を攻め首を取れ!!邪魔する奴は皆殺しだ!!いくぞ!!」


美しい姫が言っているとはとても思えない激しい言葉。しかし、家臣達は士気はドンドンあがっていく。雪姫のスキル/士気高揚である。


雪姫たちが乱戦中の中に飛び込んでいく。最初、織田勢は今川勢に気をとられ、まったく気がついていなかった。そして、気がついた時にはもう手遅れであった。


「うっなんだ、われらの援軍か。ぐあぁぁぁぁ!!」


雪姫の槍が鋭く織田勢の侍に突き刺さる。初陣・・・それも女子とは思えぬ鋭さであった。


「われらの一番槍は雪姫様じゃ!!この鳥屋尾満栄が見届けた!!」


副官として従軍していた鳥屋尾満栄が高々と叫んだ。そして怒涛のような家臣達の雄叫びが響く。そんな歓声など気にもしないように、雪姫は突いた槍を抜き、そのまま敵の首を取る。


「一番首も雪姫様じゃ!!さっそく首を具教様にお届けしろ!!」


鳥屋尾満栄が再び叫んだ。北畠勢の士気は異常ほどに高揚し、そして爆発した。堰を切ったかのように織田勢に襲い掛かる。


「姫様に続け!!信長の首を取れ!!」


不意をつかれた織田勢は、今川勢と挟まれる形になった。混乱している今川勢はまだなんとかなるが、異様に勢いがある北畠勢の強さは凄かった。次第に押されていく。


「このままでは、まずい。至急信長様に伝えるのだ」


混戦から逃れた侍がようやく、信長の前に報告したのが義元の首を取った直後であった。


「臆するな!!直ちに軍を纏め迎え撃つぞ。北畠など一捻りだ!!」


この時の信長は、まわりの者より落ち着いていた。難敵義元を討ち勢いに乗るのは我らのほうだ。所詮、弱兵である北畠など取るに足りぬ。


しかし、雪姫率いる北畠本隊は、信長の予想をはるかに上回る強さを見せていた。「史実」が徐々に捻じ曲がろうとしていた・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ