綻び
闘いは一瞬でけりが付いた……
小屋の中は、ボコボコにやられた甲賀衆が彼方此方に倒れている。
杉谷善住坊は、倒された甲賀の遊女の襟首を掴む。彼女ももはや抵抗できないぐらいボロボロである。
「誰に頼まれた……北畠家ではあるまい」
遊女は、杉谷善住坊の顔に唾を吐いた。その唾には紅い血が混ざっている。
「誰がしゃべるか、くそったれが」
「見上げた忠誠心だが……何処まで持つのかな」
杉谷善住坊は遊女を放り投げた。ドオーンと激しい音を響かせながら、遊女は小屋の床に叩きつけられる。
「さっさと吐いたらどうだ」
「誰が貴様なんかに、グゥゥゥゥ!!」
杉谷善住坊が倒れた遊女の手の指を踏みつける。明らかに骨が折れる鈍い音がする。激痛が彼女の身体を走る。
ああもうこれ以上は書けない。ハートフルでポップな作品を目指しているこの作品で、こんな拷問描写を書き続ける訳にはいかない。よって中略します。書くとしたらノクターンになると思います。つまりどんな拷問かというと、その……察してください。
……
…………
………………
結局、朝方まで続いた激しい尋問の結果、遊女は完全に堕ち、杉谷善住坊に連れられて幕府に連れられて行ったのである……
この遊女の証言により、幕府はこの事件が斎藤龍興によっておこされたものと完全に察知。怒りの書状が美濃の稲葉山城に送られるのであった。
ここは美濃国、稲葉山城。その難攻不落の名城 (その割には史実ではやけに落城してますが) その一番高い場所に斎藤龍興とその腹心斎藤飛騨守がいた。斎藤龍興はその書状を読むや明らかに動揺しだした。
「これは一体どういう事だ!!飛騨守!!」
「口封じに失敗しまして、全て露見致しました」
「なに冷静にいっているんだ!!」
怒り狂った斎藤龍興が書状を投げつけた。怒りの表情の斎藤龍興に比べ、飛騨守はわりかし落ち着いている。
「殿……そんなに動揺していては、まさに自分が犯人と言っているようなものでございます。ここは知らぬ存ぜぬで押し通す出来でございます」
流石に少し落ち着いたのか、斎藤龍興はその場に座り込んだ。
「これでは我らの味方が増えぬではないか」
飛騨守がふーと息を吐いてから答えた。
「元々我ら斎藤家は先代義龍様、先々代道三様と謀をやり過ぎてましたので、最初から諸大名はかなり疑っている様子がありました。今更露見してもそれほど影響は……」
「なに責任転換しているのだ。幕府が敵に回ってしまうではないか!!」
「幕府にそこまでの力はありません。ここは腹を決めるべきであります。幸い南伊勢の木造殿は、北畠家に対して反旗を翻しております。彼らと連動すれば尾張と北伊勢は抑えられるでしょう」
「木造が元鞘に収まる事はあり得るではないか」
「もはや木造殿とて後には引けませぬ。降伏はありませぬ。そして今川家が武田家に屈服し、北畠家との同盟関係を切ったとの知らせもございます。勝機はあります!!」
龍興は頭を抱えた。
「兎も角、幕府には言い訳しなくてはならぬか」
「まずはしらばっくれてください。あとは質問には質問で返して話を引き延ばして、適度に逆切れしながら対応すると良いかと思われます」
「なんかどっかの政治家みたいだな」
「殿、あまりそんな事言うとややこしくなります。兎も角知らぬ存ぜぬで押し通してくだされ」
これから斎藤家は幕府と揉めだす訳だが、そもそも斎藤龍興と側近の飛騨守との間で認識にズレがあった。
龍興は斎藤家の当主となり、北畠家を潰したいのだが、飛騨守はこのままでは斎藤家の中で自分の力がなくなるとの焦りから、急いで義龍を抹殺したいとの思惑が強かった。
なのでこんな杜撰な計画を立てたのだが、それにホイホイと乗る龍興も当主しての器量はやや欠けていたと言わざる得ない。
だが、もう賽は投げられた。ここは斎藤家を一つに纏めて、北畠家に対抗しなくてはならない。その為には、一刻も早く家中を把握しなくてはならない。この日から、斎藤家の不穏分子の取り締まりが激しくなるのだが、それはますます龍興の人望を失わせていく羽目になっていくのである……




