刺客
ここは美濃国、斎藤家の居城である稲葉山城。この城の一番高い所に斎藤家の当主になった斎藤龍興とその側近である斎藤飛騨守が密談をしていた。
「まずは無事に当主になられまして祝着の極みでございます」
「だがな飛騨守よ。思ったより幕府の支援がなく、味方してくれそうなのは南伊勢の木造ぐらいではないか」
飛騨守がほくそ笑む。
「ご安心下さいませ。それもある程度計算しておりました。ですが今は北畠も我らに手を出せませぬ。もし手を出せば、自分達が義龍様を暗殺したと言っているようなものですかな」
「北畠具教が野心があるなら、そんなもの関係なく攻めてくるぞ」
「そんな野心があるなら、幕府の調停など受け入れるはずはありません。北畠家はそこまで余裕はないはず。後はしっかり守りを固めれば、木造殿と南北から挟み撃ちで出来ましょう」
「そんなものかな……まあ俺はようやく斎藤家の当主になったんだから、好きにやらせてもらう。先ずは親父の側近や親北畠の連中を追い出して、俺の勢力で固めなくてはならん」
「はっ、その点は抜かりなく、推し進めて参ります」
「ところで親父を撃った男の処置は大丈夫なのか」
「その点は抜かりなく。この陰謀が露見する事は絶対にありませぬ」
そし二人は高笑いをしているのだが、さて斎藤家の行方はどうなっていくのだろうか。これから行われていく大粛清は確実に斎藤家の戦闘力を落とすことになるのだが、龍興の権力把握には避けられないのである……
さて、しばらくたった、ここは夜の京都。暗闇の中、桂川のせせらぎが聞こえる河原。そこに一軒の掘っ立て小屋があった。
今の整備された美しい観光都市である京都とは違い、当時の京都はまだ戦乱からの復興途中というか、手が回らずほったらかしにされた所も多かったようである。
桂川といえば、嵐山が有名であるが嵯峨野トロッコ列車がなかなかのおすすめである (ダイナミックマーケティング) まあ自分が乗った時は、台風の後で川の色が土砂色でしたけど……
ああ、またお話が脱線してすいません。えーとその掘っ立て小屋に一人の禿げた男が入っていった。小屋の中には一人の怪しげな遊女がいる。
「あら……お客さんかね……」
遊女がまるで誘うような口調で、そのハゲた男に話しかける。だがその男は眉一つ動かさない。
「……報酬の件だ……」
「ふっ、分かっているわよ。杉谷善住坊……ほら、持っていきなさい、約束の報酬よ」
ドンと放り出すように重そうな袋を、杉谷善住坊の置いた。だがなかなかその袋を取らない。
「あらどうしたの?……もしかして私を抱きたいのかしら、ふふふ」
「依頼人を抱くほど、俺は勇敢ではない」
「だったら、早く取ったらどう。袋をあけて中身も確認してね」
杉谷善住坊は横に首を振る。
「……その袋からは僅かだが獣の匂いがしている。おそらく毒蛇か何か……それにこの小屋からは複数の血の匂いがする。罠と分かっていて手に取るバカはいまい」
その遊女は初めて動揺の色を見せた。
「それって貴方の思い込みじゃないの、臆病ね」
「臆病で結構だ。さあその袋をお前が開けてみるがいい」
いきなり遊女が着ている着物を脱いだ。裸ではなく黒い忍び服を着ている。そして小屋のあらゆる処から、五人の黒い服を着た忍びの男が現れた。
「……甲賀のモノか……お前達北畠家の者ではあるまい。誰の差し金だ……」
ふっと妖しげに遊女が笑った。
「私達が教えると思って?それにここで貴方は死ぬのよ」
「……俺に手向かう奴は死ぬだけだぞ」
今度は豪快に遊女が笑った。
「これはけっさくだね。貴方は所詮遠くから人を殺すしか出来ない男。近接戦闘において、私達に勝てるはずはないのよ。さあ、特別にいたぶって殺してやるわ」
そして一斉に杉谷善住坊に向かって襲い掛かってくる。果たしてどうなってしまうのか!! (昔あったガチンコのナレーション風)
闘いは一瞬で決着がついた……




