混迷
新年あけましておめでとうございます。
さて場面は一気に変わり、ここは京都である。相変わらず展開が適当な小説である。
日本の文化の中心地であるここ京都も相次ぐ戦乱で、ボコボコのベコベコになっている。
そんな中に将軍足利義輝がいる二条御所があるのだが、現代の二条城のような豪華で立派な城ではなかった。
どうも堀すらまだろくに掘られてなかったとも言われているが、作者も当時の様子を直接見た訳でもないのでハッキリとそうだとは言えないのだが、まあそんなに凄く目立つような建物ではなかったようである。
さてそんな御所の中で、幕府重臣たちが難しい顔を浮かべながら喧々諤々な議論を繰り広げていた。
「斎藤龍興がまるで幕府からお墨付き得たかのように行動しております。各地に北畠打倒の檄文をばらまいております」
「……まだ幕府は何も決めておらぬぞ……」
「木造などは無断で北畠領を切り取っております。これも幕府のお墨付きがあると……」
「勝手な事ばかり言っておるな。誰がそんな事指示した」
「しかしこのまま何も決めないままでは、幕府の権威は地に落ちまする。将軍義輝様は斎藤家に手を貸したいとの意向ですが……」
「それは三好長慶殿が反対しておる」
「義輝様は斎藤家が北畠を呑み込めば、三好長慶を幕政から排除できると言っておりますからな……」
幕府は最早力が無く、誰か強力な後ろ盾が必要であった。その後ろ盾の役を三好長慶が担っていたが、ほとんどの幕政を三好長慶と政所執事に着いていた伊勢貞孝によって行われており、義輝は不満であった。
斎藤龍興が北畠家の全勢力を飲み込めば、力では三好長慶に充分対抗できる。そう斎藤龍興の力によって再び将軍親政にしたいのである。
だがそんな事は三好長慶は当然感づいていた。なので当然、斎藤龍興に加勢などもっての外なのである。
神 輿 は 軽 い ほ う が い い。
ようはそう三好長慶は言っているようなものである。
「だが、手打ち式を破られ幕府の面子を潰されたのは事実。このまま黙ってみておれば、幕府の権威何処にあらん!!」
「ですから三好殿が反対しておるのではどうしょうもないでしょうが。もうこの議論、そろそろ終わりにしませんか」
グダグダした議論に流石にみんな嫌気がさしてきている。この会議で一番力がある政所執事の伊勢貞孝がこう切り出した。
「……最早これ以上話し合っても無駄じゃ。ワシが上手い様にする。皆の者、それでよいか!!」
もう言われてしまったのでは仕方ない。それに皆も責任を押し付けられるのは面倒である。こう言ってもらえるならそれに越した事はないのである。
ただある幕臣は気になっていた。伊勢貞孝の顔がやけにツヤツヤしており、それに最近豪遊している噂もあったのだ。貧乏この上ない幕府なのだがどこからそんな金が……
……
…………
またまた場面は変わり、ここは清洲城。筆頭家老の鳥屋尾満栄が北畠具教に京都の情勢を報告していた。
「……という事で、この様な文が幕府から各有力大名に送られた模様でございます」
差し出された文を受け取った北畠具教が、それをじっと読む。
「なになに……幕府の面子を潰した北畠具教は許しがたい。が、さりとて幕府は戦乱を望むものではない。なんだこの文章、斎藤家に幕府が肩入れしているようなしてないような……最後にあとは各自空気を読んで行動してねって書いてあるぞ!!」
「まあ幕府としては正式に北畠討伐の命を出さず、有耶無耶にしたいのでありましょうな。勝手にやって勝った方を幕府は支持するものと心得まする」
「でももっと厳しい事言われると思ったけど、なんかやけに甘いな」
鳥屋尾満栄がふっと微笑む。
「京都の情勢に詳しい村井貞勝殿が幕府工作を上手くやりましてな。流石です」
村井貞勝は旧織田家家臣。史実では織田家で京都所司代に着き、行政面の活躍は凄いものだったらしい。織田家が上手くやれたのはこの人の力があったかららしいが、どうしても官僚肌の武将は目立たないのが残念である。
当作品では、織田家滅亡後に北畠家に仕え、主に京都方面の工作を担当している。
そして鳥屋尾満栄は一枚の紙を北畠具教に差し出した。
「なんだそれは。なになに領収書?……なっなんだこの金額は!!」
その紙を見た北畠具教の顔が瞬く間に真っ青になった。とんでもない金額が書かれていたからだ。
「村井殿が幕府高官を接待した時の領収書ですな。全部殿の名前で領収書切ってます」
「それにしても高すぎる。俺はサイ〇リアでドリンクバーをつけるのにも躊躇するのに、こんなの市姫ちゃんに出せないよ。殺される」
市姫は今、清洲城の会計を担当している。最近経費削減にうるさいと城内でもっぱらの評判だ。
「私だって、怖いですから嫌ですよ。殿が金に糸目をつけないって言ったのだから、責任をもって出しといてくださいね」
「嘘だろこれ。なんの店で接待してたんだよ。これ絶対女の子が接客する店だろ!!」
「さあ……村井殿は祇園は高いですから、ハハハと笑いながら言っておりましたが。では、私は反乱をおこした木造具政に対抗する為、安濃津城に向かいますので、よろしくお願いします」
そう言って鳥屋尾満栄はそそくさとその場から逃げるように出て行った。
「おい、ふざけるな!……ああ行ってしまったか……まあキチンと説明したら市姫ちゃんも許してくれるか……」
その後、鬼のような形相の市姫に清洲城の廊下で説教されている北畠具教の姿が目撃されるのであったである……




