裏切りの嵐
斎藤義龍が銃撃され、暗殺される!!この報は瞬く間に近隣諸国に知れ渡ることになった。
正徳寺での事件から、一週間後のここは清洲城。北畠具教をはじめとした主な家臣達が集まっていた。
「まずはこの度の失態。重ねてお詫び申し上げます」
北畠具教の対面に座る犬姫がその美しい黒髪を垂らしながら、深く土下座している。
「ああもういいから。散々謝ってもらったし。あまり思いつめないで」
北畠具教は優しく犬姫を宥めている。
「過去の事を弄繰り回して仕方がないからね。次頑張ろうよ。ところで雪姫ちゃんは?」
その質問に筆頭家老である鳥屋尾満栄が主君である北畠具教にこう報告をする。
「北畠具教様、雪姫様は犬山城に入り斎藤家を南下を食い止めるとの事。ただまだ斎藤家は動きがない模様」
「雪姫ちゃんは大丈夫?」
「北尾張の地侍達に動揺の色はなく、皆雪姫様の下知に従っているとの事なので、そう簡単には破られ事はありません」
「流石は雪姫ちゃん。よくまとめてる」
「斎藤家は嫡男龍興殿が継がれました。かなり矢継ぎ早に逆賊北畠具教を討つべしとの勧誘状をあちこちに乱発して居るとの事」
「そっそれは不味い。特にすぐ近くの松平家の動きはどうか」
「殿、森可成殿が三河方面の備えの為、鳴海城におられますが。こちらもとくに動きはないと報告がありました」
「ふー、取り合えずすぐに戦にはならなさそうだな」
「恐らくそうかと。幕府には村井貞勝殿を遣わし、事情の説明を行いなんとか幕府の心象の回復に努めてもらいます」
矢継ぎ早に鳥屋尾満栄は様々な情勢報告や指示をおこなっている。どっちが主役か分からないが、まあ主君はドンと腰を落ち着かせて欲しいと考える鳥屋尾満栄にしては、細かく色々言われるよりは動きやすい。
「うん、よろしく頼むよ。所で此度の事で僕を裏切って、斎藤家についた者は何人……何十人いるの」
北畠具教はもっとも肝心な事をなかなか鳥屋尾満栄が言い出さない事に気が付いた。何せ手打ち式で相手が殺されたのだ。いくら北畠具教が釈明しても不審を抱いて出て行く者がいるのは、覚悟していた。
「いえ、それは一人もおりませぬ。いない以上、報告しようがございません」
「はっ?一人も?」
「ええそうです。皆、北畠具教様についていく事と申しております」
あまりの事に思わず北畠具教がほろりと涙を流した。
「柴田も丹羽も最近家臣になったばかりなのに、この僕を信じてくれるのか」
そんな北畠具教を見て、柴田勝家は笑いながら答えた。
「ハハハ、そもそも殿がこんな謀略をやりそうな方とは思えませぬ。しばらく傍で見ておりましたが、どうみてもお人好しで優しいじゃないですか。それにこんな頭を使う事好きそうではありませんし」
「……なんか遠回しでバカにしないか……」
「いえいえ、これは失礼。それに殿は我ら旧織田家家臣の所領を安堵して下さいました。斎藤家がもし尾張を取ったならおそらく独り占めするでしょうし、そもそも我らは斎藤家と長い間戦いすぎました」
織田家と斎藤家の因縁は深い。その遺恨はそう簡単に捨てられるものではない。結果としてそれが北畠具教につく一つの要因である。
ただそれだけでもない。尾張掌握以降、北畠具教はかなりの融和策を取っていた。まあそれは北畠具教の性格がそうさせるのだが、それが斎藤家ではなく北畠家を支持する理由となっている。
「おおみんな、ありがたい。この恩、僕は一生忘れないぞ」
そんな感謝感激雨嵐の様相を呈している北畠具教を見て、モブがボソッと呟いた。
「殿、そんなフラグが立つこと言うとオチがありますよ」
「なんだと、モブ。余計な事言うな!!」
ちょうどその時、一人の若い侍が汗を垂らしながら飛び込んできた。
「北畠具教様!!たっ大変です。木造具政が当家を裏切った模様。大挙して霧山城に向かっているとのこと!!」
「はら、やっぱりこうなる」
「うるさいぞ、モブ。お前が余計な事言うからだ!!」
木造具政挙兵の報によって、清洲城は一気に張り詰めた空気に包まれるのであった……




