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手打ち2

「それでは両者、これにより幕府の命により両家の戦を手打ちといたします。よろしいございますか?」


仲裁にあたる幕府の使者が威厳ある声で言葉をかけた。


「異議なし」


「……異議なし」


北畠具教と斎藤義龍の両者がそれに答える。どことなく北畠具教は嬉しそうで、斎藤義龍は無念そうである。


どことなく舐めていた北畠具教は意外としっかりとしていて、その傍に詰める北畠家の家臣達も実に面構えが良い。


特に際立つのが、北畠具教の隣に座る若い女……雪姫である。


「北畠具教殿の姫で戦上手がいると聞いていたが、其方が雪姫殿か。これは大層美しい方だ」


「……お褒め頂き有難き幸せなれど、この場の主はわが父、北畠具教でございます。まずは殿とお話しください」


「くっ……これは失敬」


思わず斎藤義龍は苦笑した。つい目を奪われて口を滑らせてしまった……策士斎藤義龍にしては珍しいイージーミスであったが、それだけ雪姫は魅力的に見えたのである。


(しかしこの雪姫という者……若いが冷静だな……なるほど龍興がやられるわけだ……)


「では、北畠具教殿。此度までは色々とありましたが、これからは友好関係を構築し、両家の縁を深めたいと思いますがどうでしょうか」


「それはこっちでも異存ないです。仲良くして戦争がない世にしましょう」


北畠具教がにこやかに答えた。この言葉の真意を義龍は読めきれない。素直にもう戦なんてしたくない、のんびりこのまま安穏としたいと北畠具教は思っているのだが、やはりどうしても義龍の性格では額面通りに受け取れない。


「それはつまり……北畠殿が天下に号令をかけて戦乱の世を収めるという事ですかな……」


「いやいやとんでもない。そんなつもりなどありませんよ。戦なんてやらないほどが幸せですよ」


北畠具教は義龍の誘導にも乗らず、兎に角和平が一番、戦のない世の中にしようとまるで現代の政治家のような事ばかり言うのだが、言えば言うほどますます義龍はその真意が分からず、逆に逆にとってしまうのである。


どうも根本的に二人の性格は合わなさそうである。北畠具教は兎も角、斎藤義龍はバリバリの策謀家。和平はできても同盟まではまだ信頼関係は築けそうにない。


(……今日の所は和平締結だけで話を収めておくのが良いか……もうすこしこの男……北畠具教の事を探らねば……)


結局この日は和平協定と、幾つかの決め事 (国境線の両家の兵力バランス等)を決めるにとどまった。ただこの時、斎藤家は北畠家と組んでおいた方が良かったのだが、それが分かるのはもっともっと後の話である。作者が書ける日が来るかは分からないが……


さてあっという間に話し合いも終盤。いよいよ幕府の使者がこう宣言してこの手打ち式も終わろうとしていた……


「ではこの時をもって両家の和睦がなされたと宣言致します。もしこれより約が破られる事があろうものなら、幕府の威信にかけて成敗致しますがよろしいですな」


(ふっ幕府の威信とはな……まあ良い……少しでも北畠家に責められない為ならなんでも利用せねばな……)


斎藤義龍はこう思っていた。そしてその時は北畠具教は……


「おい、モブ。終わったみたいだから早く帰ろう。おなか空いた」


「相変わらず、殿はのんびりしてますな。まあこれくらいでないとこの世は生きていけないですからな」


「では両者、誓詞に血判を」


二人の間に書状が置かれた。それに両者は歩み寄って、自分の親指を押した。これにより正式に北畠家、斎藤家の和睦がなされたのだがまさにその時……



バーーーーーン!!!!!!



一発の銃声の音が鳴り響くと、銃弾は北畠具教の耳をかすめ、斎藤義龍の額の真ん中を打ち抜いた!!


「ぐぅぅぅぅぅぅまさかこんな事!!!!」


斎藤義龍は呻き声をあげながらその場に倒れた。北畠具教が危険を承知で斎藤義龍に駆け寄る。


「おい、大丈夫ですか。誰か医師を!!」


北畠具教が大声で呼びかける。うっすらとした意識の中で斎藤義龍はこの声を聴いていた。


(これも演技か……いや違う……これは演技ではない、まさに真に迫ったもの……では、だれが俺を……)




……


………



(北畠具教がこの場で俺を撃つはずがない。とんでもない事になる……この場に居なく、俺が死んでほしい者は……まさか龍興か……)


混沌とする意識の中で一つの答えを出した。


(もし俺がこの場で死ねば北畠家を立場を失う。そうすれば斎藤家を攻められなくと共に、幕府と諸大名の力で北畠具教を成敗する口実になる訳か……だが龍興、そうは甘くないぞ……)


斎藤義龍はもう虫の息だ。この命亡くなる前に最後の策を打つとしよう。それが斎藤家の為になるのなら……


「……北畠具教……よくも俺を撃ったな……」


「なにを言う!!そんな事はしない!!」


北畠具教の必死の言葉も斎藤義龍の耳にはほとんど入らなくなっていた。


(俺も父を殺した。ふっ……皮肉なものだな……息子に殺されるとは……思えば数奇な運命よ……北畠具教……悪いが地獄に付き合ってもらうぞ……ぐぅぅぅぅ……)


斎藤義龍は歯を食いしばり、口元から血を垂らしながら絶命した。これにより北畠具教の立場は決定的に悪くなるのであった……


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