手打ち
パソコンがいきなりブルー画面になった( ;∀;)
さてさて正徳寺の中を見てみよう。本堂は既に両家の当主及び重臣達が勢揃いしている。ただし、お互いの姿が見えないように大きな屏風が真ん中で広げられている。
「いよいよですな、義龍様」
座っている斎藤義龍の隣にいる稲葉一鉄が彼に話しかけた。先の合戦で日々野、不破らは重臣の多くは失脚し、俗に言う美濃三人衆が滑りこむ形でそのポジションに収まっていた。嫡男龍興は未だ謹慎中だ。
「うむ、やっとここまで来たな。まあ北畠具教もあんな感じならば、なんとかなろう」
義龍は道中、北畠具教の行軍を隠れて見ていた。その姿たるや、亡き織田信長を彷彿とさせる婆娑羅者であった。
(あの姿では尾張の民は喜んでも格式に煩い幕府は怒るであろう。幕府はいまや力は無くても、まだまだ権威はある。幕府は我らに心象を良くするであろう……)
現状の戦力比を考えれば、斎藤家に不利がある。単独で講和しても、隙を見せれば攻められかれない。そんなつもりなど北畠具教になくてもそう考えなくてはならないのが、大名たる義龍の性分である。
だが斎藤家のバックに幕府がいれば、そうやすやすと攻められにくい。たしかに幕府の直接的な戦力など無いに等しいが、その権威は未だ健在。もし北畠具教が手打ち破りをしようものなら、幕府寄りの大名が黙っていない。
越前の朝倉、その同盟国である浅井。越後の上杉に甲斐の武田が斎藤家に味方してくれよう。そうなれば今度こそ北畠包囲網が完成する……はずである。
だが事はそう簡単ではないと斎藤義龍は分かっていた。朝倉にしても武田にしても我が身が大事であるのだから、負け戦になりそうなら助けてはくれまい。
(ともかく時間を稼ぎ美濃を固めなくては……)
稲葉山城を中心に防衛線を再構築し、美濃の民の支持を取り付ければ、そう易々とは負けはしない。北畠家が斎藤家を攻めあぐねば、好機襲来とばかり武田や朝倉が北畠家の勢力を削ぐ為、斎藤方についてこよう。
伊勢・志摩・尾張の三ヶ国を抑え、三好家とも付き合いが良い北畠家は他国からすれば只々不気味。これ以上の勢力拡大は、自分達の身を滅ぼしかねないという疑念は拭い切れない。
(その疑心暗鬼こそ我ら斎藤家に利がある。北畠家が野心ありとて抑止力にはなろう……)
実際の所、北畠具教は戦など起こすつもりは全然ないが、そんな事は他家の人間にいくら言った所で、なかなか信じる事はできない。いやむしろ、言えば言うほどどんどん怪しくなるものである。犯人はよくしゃべるというぐらいなのだから……
そんな考えを巡らせていると、幕府の使者が現れ、上座に座った。斎藤義龍以下家臣一同頭を下げて、これを迎えた。そして一人の男が声を出す。
「では、これより幕府立会いの下、北畠家、斎藤家の手打ち和合の式を行います」
そう言うと両家の間を遮っていた屏風が取り除かれ、遂に両家はお互いを見る事となる。頭を上げた斎藤義龍が思わず声を出してしまう。
「っつ、正装だと……」
目の前に座る北畠具教は、行軍までの婆娑羅者の姿はどこへやら、堂々とした姿の正装に身を包み、流石従三位、伊勢志摩・尾張を支配する大大名北畠具教と言わしめんばかり迫力。その行軍との違いに思わず斎藤義龍は身構えてしまった。
(あの行軍の姿はあくまで民の支持をつけるためのパフォーマンスか……この義龍、油断した!!)
そんな動揺が見える斎藤義龍と相反する北畠具教の心境はどうなのであろう……
北畠具教の後ろに座るモブが小さい声で、必死に呟いている。
「……何度も落馬したから正装これしかないんですから、絶対に汚さないでくださいよ。ほら、口を閉じて涎を垂らさない」
まあ自分のせいでこうなった以上、仕方がないので口を真一文字に食いしばり、普段のほーとした感じとは違う歴戦の将と言った感じになっている。
「ほう流石は北畠具教殿。堂々としたお姿じゃ。幕府の面目もたつというものじゃ」
幕府の講和の使者が喜びながらこう声を出した。これがどうも斎藤義龍の混乱を招いたのか、動揺を誘ってしまい序盤から北畠具教のペースになってしまうのであった……




