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行軍

時は進み、1561年 (永禄四年)五月……


ここ清州の城下町には、人がごった返していた。今日は北畠具教と斎藤義龍が正徳寺にて和議を結ぶ日。清洲城から正徳寺まで北畠家の精鋭達が行軍するとあって、それを一目見ようと多くの人々が街道沿いに詰め掛けていた。


思えばあの戦から色々な事があった……全てを書きたいのはやまやまだが、この作者は筆が遅いためまったく話が進まないので一気にここまできたのだ。


まあそれは兎も角、街道沿いに集まる多くの人々の中に旅人のような装いの二人の男……斎藤義龍と竹中重治が紛れ込んでいた。


「どうだ重治、上手く紛れ込めているか?」


「はっ、義龍様。全く違和感なく溶け込んでおりまする」


「会談前に一目、北畠具教の顔を見ておかなくてはな……」


なかなかどうして素人とは思えない変装で、こうして北畠家軍団が通るのを待っていたのだが、間もなく人々から大きな声が響いた。


「北畠家の殿様の一団が来たぞーーーー!!」


馬の足音と共に多くの騎馬武者達が現れた。先頭にたつ騎馬武者は、とても長い槍を悠々と構えいかにも百戦錬磨の侍に見える。


「あの者は誰だ?」


「なんだいあんた知らないのかい。あれは森可成様だよ」


斎藤義龍の呟きに隣で見ていた商人らしき人物が声をかけた。


「これは有難い。なにせ旅の途中にて知識に疎くて。色々教えてもらえないか」


「そうですか。では解説いたしましょうか。あれは鳴海城城主、森可成様。織田信長様の忠実な家臣と言われてたんだけど、今ではすっかり北畠家の為に頑張っておられる」


「ほうそうですか。なかなか勇ましそうですな」


「桶狭間でも最後まで北畠具教様に抵抗していたし、小牧山城の戦いでも僅かな兵で敵兵に突っ込んでいったらしい」


「しかしそれほどの武将が、よくすんなりと主君を変えられましたな」


「そこはほら、うちの殿様はアレだからな……」


そうしている間に、森可成を先頭にした軍団が通り過ぎていく。佐久間信盛や丹羽長秀、桑山重晴ら旧織田家臣団のオールスターだ。皆、精悍な顔をしており流石は織田信長が鍛えた者達だ。


(皆、面構えが良いな……これらがいるとなかなか手強い……)


そうすると、観客からいきなり歓声が上がった。


「きゃぁぁぁぁ雪姫様!!」


白の鎧で統一された侍の軍団の現れた。軍団旗である雪ダルマの旗を幾つもの侍達がもっている。その中心にいるのは雪姫である。


(あれが雪姫か……)


長く美しい黒髪を風に靡かせながら、純白の鎧を纏った雪姫が通り過ぎていく。清楚で整った美しい顔だが、その目つきは鋭く意志の強さを思い浮かばせる。その傍には、腹心の細野藤光や小牧山城の戦いにて抜群の働きをした蜂屋頼隆等がわきを固めている。


「義龍様……雪姫は想像以上に美しいですな」


「お主も男だったな。確かに美しいが武人としての素質はそれ以上かもしれん。軍団の規律を見てみろ」


たしかに雪姫の軍団の行進は、一糸乱れる事もなく整然としている。それは義龍にとっては脅威だった。


(女ながらこの統率力の高さはすさまじいな……これは龍興も負けても……)


雪姫の軍団が通り過ぎると、今度はやけに派手な色をした鎧を纏った集団が現れた。


「なんだこの者たちは?」


「ああ、あれは北畠具教様の親衛隊だよ。犬姫様が市姫の反対を押し切って作られたらしい」


義龍に商人が詳しく説明している。その辺は流石鼻が利く商人といったところ。


全員やけに派手な鎧なので、これでは逆に的になるような気もするが、義龍は別の所に脅威を覚えた。


「皆鉄砲を持ってますな。これほどの数を揃えるとは大したものですな」


「犬姫様がやけに鉄砲が好きでしてな。おかけでこちらも儲けさせてもらってます」


商人が嬉しそうに笑った。どうやらこの男は北畠家の取引で儲けているらしい。


(まだ練度は低そうだが、成長するとこの部隊は危険すぎる……覚えておかなくては……)


親衛隊が来たとなると、当然次に来るのはこの男である。


「北畠具教様が来たぞーーーーー!!」


歓声が辺りに響き渡る。いよいよ主人公北畠具教の登場である。


(さてこの義龍、じっくりと目踏みしてやろう……北畠具教という男をな……うん、なんだあの姿は!!)


馬上に乗る北畠具教はとても高貴な者とは思えない恰好である。片腕を完全に捲った安物の着物に身を包むその姿は、大名というより傾奇者だ。




「……なんかみんなジロジロと見てくるぞ。モブ、もっとましな恰好はなかったのかよ」


「殿がいけないんですよ。落馬ばっかりしてみんな汚しちゃって。今度落馬したら裸で行ってください」


「ううなんでいい歳してこんな格好をしなくちゃいけないんだ」


「まあ唯一残ったちゃんとした着物は正徳寺に送りましたから、着いたら着替えてください。一応この着物も信長の愛用品ですぞ」


「いや絶対服のセンス悪いって、信長は。よくこんなの着てたな……」



その姿を見て、竹中重治が絶句した。


「なんだこの男は……こんなのに負けたのか我が計略は!!」


しかしなぜか尾張の観衆はそんな北畠具教を見て泣いている。


「もしいかがいいたしたか?」


「いやね、あれは亡き信長様の正装。みんな昔を思い出しましてね。北畠具教様はなかなか粋な振る舞いをなされますな」


その商人の話を聞いて、義龍は竹中重治に話しかけた。


「重治……北畠具教自体は大したことない……だが奴は泥をかぶる事を躊躇わない生粋の人たらしのようじゃ……もうよい、よう分かった。正徳寺に向かうぞ」


(会見で奴は俺を取り込もうとしてくる筈だ。これを上手くかわして、逆に取り込んでやる)


斎藤義龍と竹中重治はその場から離れると、一足先に正徳寺に向かうのであった。


そしてこの日が平和どころか再びの戦乱の幕開けであった……



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