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邂逅

北畠家の姫達が多くの人々に囲まれている頃、北畠具教とモブは土の地面に引き物をひいて座っていた。


「なんかみんなあっちに行って、こっちには誰も来ないな……」


「まあわざわざこんな物を買いに来ないんじゃないんですか」


二人の目の前には、様々な掛け軸が並べられていた。それぞれ漢字で言葉が書いてあるのだが……


「殿の書いた字、本当に下手ですよね。これじゃ売り物にならないですな……」


「しょうがないだろ、習字なんてほとんどしたことなかったんだから!」


「ならなんで売り物になんか……」


「市姫ちゃんがなんで私達だけこんな事しなくちゃいけないのって怒るんだよ。だから俺もなんかしないといけなかったんだよ」


「まあその結果がこれですか……」


「これなら自分が書いた小説でも持ってきた方がよかったかな」


「いや殿が書いた小説、誤字脱字が酷いし設定が適当だと家中で評判ですから」


「モブ、さりげなくこの作品の作者の事言ってるだろ」


まあこんな感じで仲が良いのか悪いのか、北畠具教とモブは言い合いしていたのだが、そこへ喧騒を逃れてきた竹中重治が飛び込んできた。


「おお殿、久しぶりのお客さんですぞ」


「よしこうなったら売るまで逃がすんじゃないぞ!!」


「殿、まるでぼったくりバーですな」


急いでモブが飛び出し、竹中重治を捕まえた。驚いた竹中重治は暴れるのであった。


「なんだ、なにをする!!」


「まあまあそう興奮なさるな。とにかくなんか買っていってください」


「なんか買えって……落書きだらけではないか」


「いえ、字は汚いですがこれでも北畠家当主、北畠具教が書いた逸品でございます」


「なっなんだと!!これが……もしかしてそこにいるのは……」


「そうです、当主北畠具教本人でございます」


「なっなんと!!」


竹中重治はまじまじと目の前に座っている北畠具教を見た。


(のんびりとした顔でまるで野心を感じない……これが伊勢・尾張を支配する大大名北畠具教その人というのか)


竹中重治が想像していた人物像とまるで違う北畠具教の姿に思わずたじろいでしまった。


「……兎に角離してもらえませんか」


「おお、ついに買う決心がつきましたか」


そう言ってモブは羽交い絞めしていた竹中重治をようやく離した。


「失礼ですが少し北畠具教様とお話しても宜しいでしょうか」


「うん僕と話したいなら何なりと言って」


「では……単刀直入に聞きます。北畠具教様は美濃へ攻め込むおつもりですか?」


「もう戦はこりごりだよ。攻めてこなかったらどこにも攻めないよ」


そう発言する北畠具教の顔をまじまじと竹中重治は観察した。古今東西、こと政治家という者は発言になにか裏があるものだ。もしくは真逆の事を言っていたり。どこか発言する事によって、違和感がないか探っていたのだが……


(なんだ発言に違和感がない。嘘を言っていないのか……そんな馬鹿な、そんな事はない)


「……今の北畠家の力があればもっと領土を広げられると思いますが……」


「そんなめんどくさい。平和なら今のままで充分だよ」


(これも本当の話なのか。野心がなさすぎる……そんなはずはない。だったら何故織田家を滅ぼした)


この作品の主人公である北畠具教は、現代日本人であり史実の北畠家が織田信長によって攻められた事を知っていたのだ。だからこそ先手を打って、今川家と連動し織田信長を倒したのだが当然周りの誰もそんな事は知らない。


ここに矛盾が生じてくる。北畠具教は自分の安定の為に、将来の敵である織田信長をどうしても倒す必要があったのだが、諸国から見ればいきなり敵対関係でもない織田家に攻め込み、どう考えても北畠具教は好戦的な性格と受け取るしかないのだ。


そのギャップがある為、どうしても竹中重治は北畠具教という男はどういった性格なのかつかめないでいた。


(なんだこの男は……なにが本心なのだ……これ以上話をしても混乱するだけだ……)


困った竹中重治がふと地面に目をやると、北畠具教が書いたとされる汚い……いや個性的な字の掛け軸達が目に留まった。そこ書かれている文字を見て竹中重治は驚愕した。


(こっこれは……ともかく斎藤義龍様にこれを見せなくては!!)


「こっ……これを頂けますか」


そう言って代金を支払うと、竹中重治は掛け軸を大事そうに抱え、その場から離れていった。その姿をみて北畠具教は呟いた。


「なんか変わったお客さんだったな」


「殿もかなり変わってますが……ところでなんであんな文字を書いて掛け軸にしたんですか?」


「なんでって……単純に画数が少なくて書きやすかったからな。それになんか武将ぽいし。それがどうしたモブ」


「いえ、下手したら誤解されますよあれ……」


さて北畠具教はなんと書いていたのか。その掛け軸は竹中重治によって、斎藤義龍に届けられるのであった……


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