稲葉良通の意地
ちょっと病気で休職していまして、やっとこさアップ出来ました。まだ療養してますのでしばらく更新は不定期になります。
それからしばらくした後・・・ここは尾張の国、清州城の傍にある鳥屋尾満栄の屋敷。
流石は北畠家の重臣、さぞ豪華絢爛の屋敷・・・とはいえない質素な造り。予算が回らなかったのが実情であるが、鳥屋尾満栄もそんな事を気にする性格ではないので不満はなかった。
そんな屋敷の一室に斉藤家家臣、稲葉良通が座っていた。
(屋敷は質素なれど手入れが行き届いた造り。鳥屋尾満栄殿は実直な性格と思われるな・・・)
稲葉良通は斉藤家の講和の使者として、ここ尾張に出向いていた。追い返されなかったところを見ると、北畠家もこのまま戦争を続ける事は考えていないと推測している。
だが清州城の登城は止められた。
(北畠家もすんなりとは講和はせぬか。まあ当たり前だが。さてどの辺りで手を打つべきか・・・)
稲葉良通としては何としても話を纏めなくてはならないのだが、さりとて無条件降伏ともいう訳にはいかない。
その時であった。部屋の襖があき、二人の武将が入って来た。一人は当然、鳥屋尾満栄。そしてもう一人は雪姫付き家老の細野藤光。どうやらこの二人が対応するようだ。
稲葉良通と対面するように座った鳥屋尾満栄は、早速本題に入っていく。
「・・・まずはよくここまで来られましたな、稲葉殿。その度胸はよろしいが、まずはそちらの口上を聞きましょうか」
「此度の戦は、あくまで日根野弘就らが元守護斯波義銀の口車にのり、"勝手に"兵を動かしたのが原因でござる。既に日根野弘就らは当主義龍が処分しておりまする」
その答えを聞き、隣にいた細野藤光が額に皺を寄せながら詰め寄る。
「おいワレ舐めてのか!!そないたわけた言い分おるか!!オウ、攻めるぞ!!」
流石にその言われ方に稲葉良通がキレた。
「っ、そのような言われ方我慢ならず!!」
「わしら北畠家はおのれらの風下に立つことなんかないんじゃ!!」
「まあまあ二人とも落ち着いて」
二人の言い争いに鳥屋尾満栄が割って入った。このまま喧嘩していても話が進まないからだ。
(まったく細野の奴、確かに俺がなだめ役やるからお前は攻め役なと言ったが・・・Vシネマの見過ぎだ全く・・・)
「しかし稲葉殿、まあ私どももこのまま手打ちには応じられん。日根野弘就らの処分では我が方には利がないではないか」
「難しい話とは思われますが、どうかそれで」
「そんな都合がいい話通るわけあるまい。せめて荒れた小牧山城の修築費用と死んだ者にたいする補償はもらわないと」
しばし稲葉良通は考えていた。
(思ったより北畠家は強硬ではないな・・・話がごねる前にそれくらいで手打ちにしても家中は納得するだろう・・・)
事前の鳥屋尾満栄と細野藤光の打ち合わせにおいて、それぐらいが決着点と示し合わせていた。下手に美濃領に土地を要求すると話が拗れる。ここは現状回復で話をつけるべきとの結論になっていた。
(こちらとしても斉藤家が本気になって抵抗されては困るからな。稲葉山城はそうたやすく落ちまい・・・消耗戦になるとこちらが苦しい・・・)
約半年の間に、大きな戦いを繰り返した北畠家においてこれ以上の戦線の拡大は破滅。一旦落ち着かなくてはならなかった。兵糧も消耗しているし、兵もこれ以上酷使できない。
「鳥屋尾殿の話承った。これよりその話持ち帰り、家中において決めまする。ところでもう一点、今後の事についてお願いが・・・」
「どうぞ、言ってください」
「わが斉藤家と血縁を結びませぬか。例えば雪姫様をわが龍興様の正室に・・・」
血相を変えて細野藤光が嚙みついた。
「おうおっさん。冗談はいい加減にしとけよ!!逆じゃ逆。そっちがこっちに人間出さんかい!!」
「・・・細野の言葉遣いは悪いですが、私も同意見です。輿入れなど・・・それならまず人質を出してもらわないと・・・」
「・・・なればこちらから誰か出しまする。すぐにとは申しませんが、どうか雪姫様の件、なにとぞなにとぞお考えのほどを」
稲葉良通は深々と頭を下げた。まるで土下座同然だがこっちも簡単には引けない。
(雪姫様を斉藤家に迎えることが我らの繁栄の道。万難を排してでも決めなくては)
この件はしばらく押し問答が続いたが、結局は・・・
「そんなに言うなら取り敢えず北畠具教様に伝えます。まあ無理でしょうが」
「ありがたき幸せ。ではよしなに」
細野藤光が鳥屋尾満栄に小声で話しかける。
「・・・いいんですかそんな事言って」
「・・・一応雪姫様の事は殿に伝えなくてはならん。それに伝えると言わん限りこの男ここから出ていかないぞ」
「・・・まあそうですな。確かにこの稲葉という男なかなか頑固そうだ」
稲葉良通は「頑固一徹」の語源となったといわれる人物である。まあ細かいエピソードは省きますが、がんと決めたら一徹らしい。
こうして斉藤家との手打ちに向けた話合いが行われている時、違う場所ではまた違った動きがあったのである。




