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六月のラステイル  作者: ふかれん
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プロローグ 崩れかけた教会

 天井が抜け落ち崩れかけた教会の中に月明かりが差し込んでいた。

 廃墟となった教会の床にうずくまる血だらけの少年を、祭壇に置かれた十字架にくくりつけられた男の像が見下ろしていた。


――死ね、獣よ。そのまま死を受け止めろ


 十字架の男の像は少年にささやきかけるかの様に彼を見つめていた。


――六月の獣、汚れた獣よ、お前はここで死ぬのだ


 瓦礫と朽ち果てた白骨が散らばる床に身体を横たえながら少年はその像を見上げた。

 両手から血を流しているその男の像は、なおも少年に冷ややかな視線を投げかけながらささやいた。


――死ね、お前には生きる価値などない


 埃にまみれた骨かボキリと音を立てた。

 その空間に似つかわしくない深紅のドレスを着た女が少年に向かって歩いていた。

 女は床に散らばる人骨を避けようともせず踏みつけて少年を見下ろし声をかける。


さあ、たって歩くんだよ、獣。


僕をほっといてくれ・・・


ほっといたらお前はここで殺されちまう。


いいんだ、僕はここで死ぬ。


だめだ、さあ歩くんだよ、歩けなきゃ這ってでもここを出るんだ。


お願いだ、僕をこのまま死なせてくれ。


駄目だ、お前はあたしの獣だ、勝手に死なせない、早く歩け。


 少年は女に急き立てられ身体を起こした。

 少年の身体に巻きつけている布は裂けて穴だらけで、その下の粗末な服もぼろぼろだった。顔は血と涙で汚れ、少年の右腕はたった今炎で焼かれたように焼け爛れ、白い煙をあげて異臭をはなっていた。

 気を失いそうになる痛みをこらえ少年はよろよろと立ち上がった。右腕の感覚はもうない、その痛みは血だらけの身体のそれではなく、少年の心の中の絶望という名の痛みだった。


 少年は崩れかかった壁に身体をもたれさせながら歩き出した。

 赤いドレスの女は祭壇の後ろのドアを指差して言った。


あそこのドアから森に出て谷の方を目指して歩くんだ。


なぜ彼女が獣だったんだ。


知らない、きっと神様がそう決めたんだろ、早く歩け。


神様ってなんだ?


この世界を作った罪人だよ。


そいつが彼女を獣にしたのか?


あたしたちを作ったのはグリーニーさ。だけどそう決めたのは神様なんだろうね。


神様ってやつはどこにいる?


知らない、旅をしてたら、もしかしてその内会えるんじゃないかい? もっとも私たちに会う資格があるのかは判らないけどね。


 教会の裏口から森へ出て行く前に、少年はもう一度祭壇の男の像を見つめた。

 男の像は少年に囁くのを止め、教会の床をじっと見つめていた。


 少年は痛む身体を引きずりながら暗い森の中に足を踏み入れた。


「もし……その神様って奴に会えるなら……」


 少年は薄暗い月の明かりを見上げて呟いた。


「僕がそいつを殺してやる」




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