人と剣の対話、これ如何に
事情を説明しようとすると、流石は勇者、快く話を聞いてくれた。毛布にくるまって部屋の対角から話していなければなお良かったのだが。
「で、どうしてあなたは喋れるのかしら?」
「うん、実は死神っていうやつと取引をしたんだ。『異世界を救えば無傷で生き返らせてやる』って言われて」
「あなたが喋れる理由になっていないのだけれど?」
「そこは俺にも分からないんだ。気付いたらこの姿になってた。俺はてっきり、あんたみたいな勇者になって世界を救うんだと思っていた…はずなんだけどな…」
「なんだか妙な言い方ね…でも、いざ始めてみれば勇者ではなく剣の姿にされていた、と。しかも伝説の武器エクスカリバーに」
どうやら多少は理解してくれたらしく、少しずつこちらへ近寄ってきてくれている。
「あなたはどんな死に方をしたの?ドラゴンに食べられた?ゴーレムに叩き潰された?それとも…」
「それが…悪いが思い出せないんだ。覚えているのは、俺が死んで、死神と取引をしたっていうことだけ。それ以前と、所々の記憶がごっそり無くなってる」
「じゃああなたの住んでいた場所のことも…」
「ああ、覚えていない」
「そう……」
場の空気を重くしてしまったようだ。ここは話題を変えなければ。
「えっと…そうだ、着替えの続きはしなくていいのか?」
「っ!?変態!淫剣!エロスカリバー!」
めっちゃ罵倒された。
「ちげーよ!いや、ほら、俺目閉じてるから」
「じゃあ今目閉じてみなさい」
「ん」
言われた通り目を閉じる。
「こっちから見ても分からないわ!」
「理不尽だ!じゃあ何か袋でも被せときゃいいだろ…俺の目はたぶん柄頭にある」
勇者はポンと手を打つと「その手がありましたわ」と言って先程の革袋を柄に被せた。予想通り、目の前が真っ暗になる。
「どう?これで見えないかしら?」
「ああ、なんも見えない」
「本当かしら?じゃあこの指何本?」
「見えないっつってんだろ…」
勇者は「そう」と言うと安堵の溜め息を漏らし、再び鎧を外す作業に移ったようだ。
「その袋、勝手に外したらあなたをへし折りますわよ?」
「俺一人じゃ動けないって…」
袋を被せられているため目を開けていても問題なかろうと思い、失った記憶を取り戻そうと、色々考えてみた。自分はどんな事故、あるいは事件で命を失ったのか。生前、自分はどんな世界に生きていたのか。
しかし、考えることに集中しすぎたか、立て掛け方が悪かった自分の体が倒れていっていることに今更気付いた。
「あっ、ちょっ、やばい」
「どうしたんですの?」
ガシャーンと音を立てて倒れ、革袋がすっぽ抜け、たった今脚部の鎧を脱いでいる途中だった勇者と目があってしまう。
そして視界に飛び込む純白の下着。
「……何か、言い残すことはありますの?」
「待て!これは不可抗力だ!」
「あら、では見たのですね?その柄の目は開いていたのですね?」
「あ……」
墓穴掘った。
「死になさいっ!」
「ギャーーーーー!」