俺はエクスカリバー
剣司は勇者に背負われたまま隣町の宿屋に到着した。宿屋のおじさんは「え、エクスカリバー!?勇者様ですか、どうぞどうぞ」とタダで最上級の部屋へと案内してくれた。
タダとか勇者羨ましいな、と思いながらも、口に出すのはやめておいた。剣だから喋れるわけがない。
部屋に入った勇者はベッドに腰かけ俺を棚に立て掛けると、ようやく兜の留め具を外し始めた。
ーどんな顔してんのかな。イケメンかゴツいのか、はたまた地味顔かな?
自分の置かれている状況も忘れ、小さなワクワクを楽しんでいる自分に心の中で苦笑した。
そして勇者が兜を持ち上げると、
金色に輝く滑らかな髪が流れ出てきた。
ー………あれ?
勇者はなれた手つきで髪をかきあげると、また男とは思えない整った顔が覗いた。
ー一瞬女かと思った……
次に手甲を外すと、細く綺麗な指。
ー細い指だな……よく勇者になろうと思ったもんだ。
次の鎧を外したとき、剣司は決定的な証拠を目にした。
そこにあったのは、二つの小さな膨らみと女物の下着。
身体の線の細さから見て女装癖の男、というのはありえないだろう。
ーまさかとは思ったが…こいつ女だったのか!?
そして勇者は何を思ったか、下着の留め具に手を伸ばした。
「待て、待て!ストップ!」
突然、勇者はビクッと身を震わせ、慌てて胸を隠して辺りを見回す。
「だ、誰!?姿を見せなさい!」
「お、声出せた」
危なかった。声を出せて良かった。まぁ、少し残念な気もするが。
「隠れてないで出てきなさい!」
「とりあえず何か着てくれ!その…目のやり場に困る…」
剣に目は無いのだが、現に見えているのだから他に表現のしようがない。
「っ!?くっ…」
勇者は急いで革袋から出した布の服を着ると、再び身構え、辺りを見回し警戒態勢をとった。
「さあ不埒者、早く姿を現しなさい」
「現すもなにも、ここだよここ」
「見えないから聞いているのでしょう?」
「だから、俺はここだ。エクスカリバーだ」
そう言ってやると、勇者は目を丸くして尻餅をつき、部屋の隅まで後ずさってしまった。
「け、けけけ剣が喋った!?」
「あぁ…喋れたことには俺もビックリだよ…」