パニック
「嘘だろ!?」
見ると、鈴木の革靴の爪先が線路の溝にはまってしまっている。
やばい、もう電車がこちらに向かって走って来ているのが見える。
「ノジ!非常停止ボタンを押せ!」
「なんだそれ!?知らねぇよ!」
「どうしよう!?抜けない!抜けないよ!」
駄目だ、みんなパニックになってしまって収拾がつかない。
こんなときに周りに誰もいないなんて。
「ノジ!赤いボタンだ!赤いボタンを探せ!スズは靴を脱げ!」
「あ、赤いボタン!赤いボタンはどこだ!?」
「脱げないよ!脱げない!」
鈴木は涙で顔をぐしゃぐしゃにし、野島は顔面蒼白でおろおろしている。
クソっ!落ち着け!二人とも落ち着いてくれ!
叫ぼうとするが震えて声が出せない。
「いやっ!死にたくないよ!」
鈴木を見捨て自分だけ逃げるか?
そんな考えが一瞬頭をよぎった自分をぶん殴りたい衝動に駆られたが、そんなことを今しても無駄だ。
「馬鹿!さっさと脱げ!」
かがみこみ、強引に鈴木の足と靴を掴み靴から足を無理矢理引っこ抜き、体勢を崩しながらも、なんとか踏切の外へ突き飛ばした。
「ケンくん!」
膝に電車の車輪が枕木を越える振動が伝わってくる。
「あった!赤いボタン!」
必死の形相で野島が非常停止ボタンを連打している姿が見えた。
『おいケン!押しt…
しかしそこで、左から巨大な金属の塊に吹き飛ばされ、俺の意識は持ってかれた。
おせぇよ、ノジ…