甲鎧虫
宿屋から出ると、先程までとは逆に異様なまでの静けさが辺りを包んでいた。
最悪の事態を思い浮かべてしまい視線を巡らせるが、村人は皆家に避難できたようだ。時折窓から外の様子を窺いに顔を出しているのが見えた。
ひと安心すると同時に、未だ戦いが続いていることを悟り、俺は駆け出した。最初にエペタムを見た限り、小鬼に苦戦するはずは無いと思うのだが。
不思議に思っていると、高く鋭い、金属が打ち合う音が響き渡った。剣で打ち合っているのか。いや、それはおかしい。小鬼は木製の棍棒しか持っていなかったし、鎧も着けていなかった。
音の出所を辿っていくと、民家の角を曲がった所で村長の後ろ姿が見えた。
「村長!」
「おぉ、金の剣の主人…気が付いたようですな…」
肩で息をして振り返らずに答える村長。エペタムを傍らに浮遊させているが、その輝きは弱々しいものになっていた。
今の俺はエルトリーデの身体を借りているのだが、説明をしている暇は無さそうだ。
村長の向こう側に怪物が立っているのに今頃気が付いた。
「小鬼…じゃないな…」
「こいつは甲鎧虫、ワームド。火山地帯にいるはずなのだが、何故こんな場所にいるのか…くっ、行け!エペタム!」
エペタムは一瞬輝きを取り戻して飛翔したが、甲鎧虫の殻に弾かれてしまい戻ってくる。
甲鎧虫と呼ばれたそれはムカデに似ているが、大きさは百倍以上あるのではないだろうか。それが今は体をS字にして起き上がっている。その上、全身が黒色の固そうな甲羅に覆われ、ムカデの特徴とも言える無数の脚の先端は槍のように鋭く尖っている。
「キシュルルルル」
「この通り、石さえ断つエペタムでも歯が立たんのだ…」
エペタムを見るが、刃零れをしているわけでもなく、切れ味は万全。それでも歯が立たないとは、甲鎧虫はかなりの硬度を持っているようだ。
「ここは俺に任せて、村長は広い場所に俺たちを誘導してくれ」
村長の肩を掴み下がらせると、村長は驚いた顔をしてこちらを見た。
「その口調、君はあの金の剣か」
「ああ、実は、な。ちょっと持ち主の身体を貸し…借りさせてもらってる」
無許可で借りているため、貸してもらっている、ではおかしいと思い言い直しておいた。
そう言うと、再び驚いたような、疑うような視線でこちらを見てきた。
先程から支障は無いので気にしていなかったが、持ち主の身体を動かすのは異例なのだろうか。
「主人の身体を操るとは…君は何者なんだね?」
「俺はエクスカリバー、それ以上のことは分からない。今は誘導を頼む」
村長を押して走らせ、甲鎧虫と対峙して弱点を探る。
布が擦れあうような、泡立つような鳴き声を上げながら無数の脚をこちらに向ける甲鎧虫。何故この村は気色の悪い魔物ばかり集めるのだ、と心の中で嘆息しつつ、エクスカリバーを構えて、踏み込み二回で距離を詰めようと踏み込む。
「跳びすぎっ…!」
しかし見積りに反し、踏み込みが強すぎて体が浮き上がってしまった。エルトリーデの言った通り、身体能力が向上しているようだ。
咄嗟に体を丸めて衝撃に耐え、甲鎧虫に激突。
「ぐぁっ!?固い…!」
「ギッ!」
半ばタックルをする形になり、不意に腹に衝撃を受けた甲鎧虫は、大きく体勢を崩し怯んだ。
その隙に下がり剣を構え直し、相手の分析を始める。
甲鎧虫の甲羅は予想以上に固く、まるで鉄の柱のようだった。しかし怯んだところを見ると、脚の力は強くないようだ。
また、脚の鋭さが災いして、今の衝撃で地面に脚がめり込み抜けなくなってもがいている。
その隙にさらに視線を巡らせると、脚の長さは全て均一。あの長さではリーチの長い攻撃は無理だろう。
甲羅には隙間が無い上、全てが上手く重なりあっていて動きに支障は見えない。腹も背と同じように甲羅に包まれているため、切り裂くのは容易ではない。
「こんなところか…」
「キシュルル」
甲鎧虫の脚が地面から抜け始めたので、村長を追って走り出した。民家に被害を出さないよう適度に距離を保ちつつ、甲鎧虫の攻撃を力ずくで切り払いながらエペタムの輝きを追う。
「くっそ…斬れねぇ!」
「エクスカリバー殿!こちらでござる!」
村長とエペタムについて行き、村の外の平原へと出た俺と甲鎧虫。ここならば思う存分戦える。
「助かった!あとは任せろ」
どうも、肉付き骨です。
次回、エクスカリバーの真価。




