人喰い刀、エペタム
「なんでだよ?あんたも未練があったから死神のゲームに参加したんだろ?」
死神のゲームに参加するからには、生き返りたいと思っていたに違いないのだ。それなのに何故、エペタムは魔王討伐への同行を拒むのだろうか。
「金色の剣よ、貴殿は何故死んだのか思い出したのでござるか?」
「いや、まだほとんど記憶は戻ってないよ」
何故いきなりそんなことを聞いてきたのだろう。エペタムは少しの間押し黙っていたが、何かを決心したように、ゆっくりと語り始めた。
「記憶によるとどうやら、拙者は好敵手と戦って散ったようなのでござる」
「なら尚更生き返りたいじゃないか」
「たしかに死の直後は黄泉返りを強く望んでいたのやもしれんが、記憶を取り戻して改めて考えると、案外、元いた世界への未練なんて小さなものでござる。剣の姿での生活も、慣れれば悪くないものでござる」
「ふーん、そういうもんか」
自分だったらどんな死因でも生き返りたいと思ったが、ここで言うのは野暮だと思い直し、飲み込んだ。
「それに、拙者は罪を犯しすぎた。黄泉返る資格など、とうに失っているでござるよ」
「どういうことだ?」
「エペタムはね、出会ってすぐの頃は『人喰い刀』と恐れられていたのだよ」
「人喰い!?穏やかじゃないぞ!」
エルトリーデを襲おうとしたのも、その人喰い刀の真性が現れたのであろうか。何故そんな危ない刀が野放しになっているのか、クロは理解できなかった。
「嫌な過去でござる…まだ記憶が無かった頃、胸の内の衝動に駆られ夜な夜な鞘を飛び出し、罪なき人々を斬って回っていたのでござるよ…その数、五十と六人…」
「そんなに犠牲が…」
「しかしとある晩、今回のように無数の小鬼が攻め入って来たのでござる。拙者はいつものように鞘から飛び出し、小鬼の群れを一晩中斬り続けたのでござる。小鬼を斬るほどに記憶は戻り、翌朝、拙者は己の犯した罪を大いに悔いた。切腹しようにもこの身では己の腹も斬れず、ならば刀として生きることができぬように刃を潰そうと、次の晩には石を斬り続けたでござる。だが切れ味は落ちるどころか、逆に研ぎ澄まされていくばかり」
エペタムは自分の罪を懺悔するように、過去を告白していった。隣に座る村長も犠牲になった人々を思い出すのか、時折辛そうな顔をして拳を握り締め、肩を震わせている。
「そんな時、村長は石を斬り嘆く拙者を哀れみ、『罪を償いたいと思ってくれるのならば、私達を脅威から守る剣となってくれ』と、拙者に改めて居場所を与えてくださったのでござる」
「そういうわけで、私とエペタムはこの村を守り続けているのだよ」
「そんなことがあったのか…」
もし自分がそのようなことをしてしまったら、正気を保つことはできまい。小十郎という人間は、強い精神の持ち主だったのだろう。それを受け入れた村長もまた、強い人に違いない。
「嫌なこと思い出させて悪かった」
「いや、いいでござるよ。誰かに聞いてもらいたいと、心のどこかで思っていたのやもしれん」
その時、エペタムがカタカタと音を立てて震え始めた。
「地震か?」
「否、これは脅威の接近を示す現象」
「一日に二回も来るとは、客人が来ているのに小鬼も懲りないね…」
村長は小刻みに震えるエペタムを手に取り立ち上がり、外に出ようとした。
「あ!えっと、俺をエリー、主人の所まで連れて行っちゃくれないか?」
「ふむ…」
村長はクロの剣先から柄まで見て、重さを予想するような素振りを見せた。クロははっとして、村長ではこんな大剣と刀を同時に持てるわけがないと気が付いた。
「あ、いや、忘れてく…」
「エペタム、力を借りるぞ」
「御意」
力を借りる、とはどういうことか。村長はエペタムに語りかけ、シャリンという音と共に鞘からその身を抜いた。
「何をする気だ!?」
「心が通じ合う剣と持ち主は、一心同体となる。そのことはまだ知らないようだね」
村長は鞘を腰の紐に吊るし、空いている方の手でエクスカリバーを軽々と持ち上げた。クロは驚いたが、たしかエルトリーデも『剣が軽くなったように感じる』といったようなことを言っていた。それと同じことが村長とエペタムの間で起こっているのだろう。
「さて、君の主人のもとへ急ぐかね」
「ああ、頼む」
どうも、肉付き骨です。
注意しておきますが、この作品内での武器の設定は、完全に伝承に則っているわけではありませんので、悪しからず。(大きさや性質)
次回更新までは少し長くなりそうです。




