早朝の出来事
夕方、町の住人達がお礼にと、代わる代わるに宿に金品や食糧を持ってきたのだが、旅に持つには無理があるということで、エルトリーデはほんの一部だけを受け取り、残りは全て持ち主に返還した。
気になったのは、受け取った物の一つに、奇妙な物があったことだ。
「これは…落丁したページか?しかも一ページ」
「みたいですわね。誰も解読できないらしいのですが、なんでも、一月ほど前に天からひらひらと落ちてきたそうですわ」
「胡散臭いな。ただ風に飛ばされてきただけだろ」
「かさ張らないですし、いいでしょう」
翌朝、日が昇る前にエルトリーデは町を後にした。
町を出てある程度経った頃、エルトリーデが背負っている大剣、クロが言葉を発した。
「よし、まずは仲間集めだな」
「ですから!仲間など要らないと…」
まだ空が明るくなり始めたばかりなので街道には人影はなく、兜を外しているエルトリーデの澄んだ声だけが草原に響く。
「まあ、その件は追々なんとかするとして。エリー、これからどこに向かうんだ?」
「聖剣エクスカリバー、つまりクロ、あなたを手に入れたのですから、早速魔王城に」
本当にこの勇者は軽々しく恐ろしいことを言う。エクスカリバーが喋ることが無ければ、とっくに魔王に殺されてしまっていただろう。
「気が早いんだよ!そりゃ、一刻も早く故郷を取り戻したいって気持ちは分からんでもないが」
「…あなたに何が分かりますの…」
瞬間、突風が草むらを揺らし、風の音と草が擦れ合う音にエルトリーデの声が掻き消されてしまった。
「ごめん、今なんて?」
「いえ、なんでもありませんわ」
突風の余波がエルトリーデの金糸のような髪を踊らせ、朝焼けの陽光がそれをキラキラと光らせている。
「なあエリー、思ったんだけどさ」
「なんですの?」
「エリーは人前ではずっと兜被ってるよな。綺麗なのにもったいないな、って」
クロがエルトリーデと初めて会った時からそうだった。宿屋の主人に呼ばれた時も、昨日のお礼を受け取る時も。そのせいでクロは最初、エルトリーデを男だと思ってしまったのだ。
「きっ、綺麗!?からかうのはお止めなさい!」
「からかってねーよ!ん、でもまあいいか。俺は見られるからな。役得役得」
「もう…」
朝焼けの色に頬を染めるエルトリーデ。
「うん、やっぱり綺麗だな」
「止めなさい!恥ずかしくて頭が沸騰しそうですわ!」
「あ、人がいる」
「えっ!?あっ、ちょっと!」
「嘘でしたー」
「ぐっ…馬鹿にして!捨てますわ!遠投しますわ!」
「ごめんなさいもうしません」
エクスカリバーを捨ててしまっては魔王に挑めないのではないか、とクロは思ったが、これ以上言うと本気で捨てられるか、泣き出してしまいそうだったので止めておいた。
どうも、肉付き骨です。
前回は勢いに乗りすぎたので、今回は小休止です。
『早朝の戯れ』にしようかと一瞬思ったのですが、それだとクロの言葉まで戯れ(=嘘)になってしまいそうだったので、このようなサブタイトルになりました。
次回、『大悪魔べリアル降臨』!
はい、恒例の冗談です。まだべリアルさんは出ませんよ。




